【第十六話】法外な金銭を要求されたら・・・(恐怖) ど素人サラリーマンが不動産競売で大失敗<第一章>

執筆者:ななころ 公開日:2015年10月13日    閲覧数:3225

「なんなんだこの圧倒的な威圧感は・・・」

 息を少し切らせながら階段を登りきると、目の前の光景に唖然とした。来る者を拒むかのような門構え、マンションの共有廊下には似つかわしくない石畳。そして100メートルほどの長い廊下の真正面には、動くものすべてを捕らえようとする、大きな監視カメラがこちらを睨みつけている・・・

 およそマンションの廊下には不釣合いなこれらの設備を見て、足の震えが止まらなかった。自分がどこに向かおうとしているのか?何のためにここにきたのか?まるで別世界にいるような感覚。

「大失敗だ・・・」

「法外な金銭を要求されたらどうしよう・・・」

「部屋をめちゃくちゃにされたらどうしよう・・・」

「家族を危険な目に会わせてしまったらどうしよう・・・」

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部屋から出てきたのは・・・

 考えうるすべてのネガティブのことが頭の中を巡っていた。そして、ドアの前に到着すると、中から老婦人が出てきた。年齢は80歳ぐらいだろうか。サングラスをかけたスーツを着たごつい男の人が出てくると想像していたわたしは、いささか拍子抜けしてしまった。

 部屋の中に通されると、おそらく30年前は豪勢を極めてあろう痕跡がいたるところに見られた。大きなツボ、日本刀、屏風、紋章、、、いたるところに“それらしきもの”があった。そして、20畳以上はあろうかという広い畳の部屋の奥の中央に、大きな男がドーンと座っていた。

 わたしと代行業者は、その大男の目の前に正座した。大男の斜め前には、初老の婦人が座った。どうやらお母様のようだ。正面からくる痛いほどの視線に、わたしは下を向きながら、必死に何かをこらえていた。すでに汗びっしょりだった。

 「はじめまして、○○物件を落札した△△と申します。今日は鍵の受け取りに参りました。」

 代行業者が代わりに挨拶してくれた。そう話すと、すべてを察していたのか、初老の婦人が鍵の束をそっと渡してくれた。大男は何も発しない。鋭い眼光でわれわれのやり取りをじっと見つめるだけであった。

 悪い想像はすべて外れ、意外とすんなりと渡してもらうことができた。わたしは、「ほっ」と安堵のため息を、気づかれないようにそっとついた。たった15分程度の滞在だったが、わたしには3~4時間に感じられた。

 渡された鍵の束を握りしめ、代行業者とわたしは部屋を後にした。この後さらになる苦難が待ち受けているとも知らずに・・・

(つづく)

※注意

この記事は、私の実際の不動産体験をもとにしていますが、多少アレンジした「フィクション」として楽しんで頂けると幸いです。

 

━━<編集後記>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 こうして無事に鍵の受け渡しが完了しました。思ったよりもあっさりいったのですが、わずか5分ほどの滞在にも関わらず、精神的な負担は大きかったです。

 ですが、逆にこういったリスクを積極的に取りに行く不動産屋や不動産投資家の方もいます。以前と比べて法整備が進んでいるとも言われていますが、実際はどうなのでしょうか?

競売の大きなリスク「不良占有者」

 競売のリスクの1つとして「不良占有者」というのがあります。入札する前には住んでいなかったのに、落札して行ってみたら、あれ?、そこにはよく分からない入居者が・・・。

 日本の昔ながらの賃貸借契約は、部屋を借りる人に、かなり手厚い法律になっています。おいそれと追い出すことはできません。これを逆手に取って、法外な退去費用を要求したり、嫌がらせをしたりする「不良占有者」が、競売では大きなリスクでした。

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 1997年、民事執行法83条1項の改正が行われました。それ以前は、なんで住んでいるか分からない入居者がいても、「明け渡し訴訟」をしないと、追い出すことはできませんでした。たとえそこにやっかいな人がいても、すべて落札した人の責任だったのです。

 それが、この法改正により、明確な「賃借権」のある入居者以外は、裁判所から「引渡命令」が出されるようになったのです。氏素性もよく分からない人が居座っても、追い出せるようになったのです。

 さらに、2003年に重大な法改正が行われました。改正民法395条「短期賃貸借制度の廃止」です。それまでは、「短期賃借権」は、直近の契約から3年間はその権利を保護されていました。しかも、落札した人は敷金の返還にも応じなければいけませんでした。

 しかし、この法改正により、競売で落札した人に所有権が移転したあと、6ヶ月間経過すれば、「短期賃貸借」で保護された入居人に出ていってもらうことができ、敷金も返還する必要がなくなったのです。これはとても重要な法改正です。

 このように、競売で大きなリスクと考えられていた「不良占有者」を一掃できるように法整備が進んでいっているのです。この結果、不動産競売はますます開かれた不動産の「卸売市場」になってきているのです。

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