所有物件で自殺者が……原状回復費の他、物件価値の下落分まで請求できる? 「自殺があったなんて怖い!」というクレームに対応する義務はあるのか!?

執筆者:鷲尾誠 公開日:2017年2月7日    閲覧数:3530
自殺した部屋_polkadot-Fotolia

写真© polkadot-Fotolia

こんにちは。銀座第一法律事務所弁護士、鷲尾です。

今回は、所有物件で入居者が自殺してしまった場合に、原状回復費用や物件価値が下がることについての補償を請求できるか、また隣の入居者からの賠償金請求に応じる義務があるか、というご質問です。

所有物件で入居者が自殺してしまいました。ご家族のことを思うと心は痛むのですが、何をいくらまで請求できるかが知りたいです。

原状回復費用は全額請求できるのでしょうか? また、物件価値が下がる(家賃収入や売買価格を下げなければいけないので)ことについて、どの程度請求できるものでしょうか?

また、その部屋の隣の入居者から、「今まで気持ちよく暮らしていたのに怖い。怯えて暮らすことに賠償金を支払ってほしい」と無茶なことを言われています。これに対応する義務はあるのでしょうか?

入居者が死亡しても賃貸借契約は当然には終了しない

ここでは、入居者=賃借人として話を進めます。

ご相談にお答えする前に一つご注意いただきたいことがあります。それは、賃借人が死亡しても賃貸借契約は当然に終了するわけではなく、借主の地位は相続人に引き継がれるということです。

ですから、賃借人が亡くなった後で新たな賃借人を募集するためには、その前に相続人と交渉して契約関係を解消しなければなりません。また、契約期間が続いている間は賃料が発生しますので、その清算についても相続人と交渉することになります。

自殺があった物件の価値は下がる

室内で入居者が自殺した物件ということになると、通常、その部屋を借りることは避けたいものです。

その結果、少なくとも自殺の直後はその部屋を新たに貸すことは相当困難で、貸すことができたとしても通常の賃料ではなく賃料を減額するなどの対応を迫られることが多いはずです。

裁判例でも、貸室内で入居者の自殺といった事故があった場合、通常の人であればその物件の使用について心理的な嫌悪感や忌避感を抱くことから、その物件については、一定の期間、新たに賃貸することができず、できたとしても通常の賃料額よりもかなり減額して賃貸せざるを得ないという事情は一般的に認められています。

損害賠償の請求は一定の範囲で可能

債務不履行により損害賠償を請求するためには、賃貸人に損害を発生させたことについて、入居者に義務違反があることが前提となります。

この点については、賃借人には、物件の価値を減少させないようにすべき善管注意義務(「善良な管理者の注意義務」の略で、賃借人としての役割から考えて通常期待される注意義務のこと)があり、自殺によって物件に心理的な嫌悪感を与えてその価値を損なうことはこの義務に違反するため、債務不履行にあたると考えられています

したがって、賃貸人は自殺事故によって生じた損害の賠償を請求することができます。入居者本人は亡くなってしまっていますから、請求の相手方は連帯保証人や入居者の相続人ということになります。

では、賠償を請求できる損害とはどのようなものかというと、自殺があったことによってその物件を一定期間貸すことができなくなったことによる損害や、貸し出すにあたって賃料を減額せざるを得なかったことによる損失などです。

また、賃貸人が費用負担して行った現場供養の費用約5万円の損害賠償請求が認められた裁判例もあります。

もっとも、自殺による心理的嫌悪感は、時間が経過することによって薄れていくものですし、また、新たな入居者が一定期間入居した後であればそうした嫌悪感は相当程度に薄れると考えられます。

また、その自殺事故に対する社会的関心の程度、自殺の態様、その物件が都市部にあるか近所付き合いの濃厚な場所にあるかなどによっても左右されると考えられます。

そのため請求できる損害の範囲については一概に言えませんが、裁判例では、概ね3年前後の賃料減収分(その減収分も1年間は賃料全額、その後の2年間は賃料の半額とするものなどがあります)の損害賠償請求が認められています。

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