節税対策_3最終_06182015

物件価格の高騰が続いており、アベノミクスや金融緩和の影響がどこまで続くかは見通しきれない。この現状を見て「今が売り時では」と考える物件オーナーも多いのではないだろうか。

しかし、安易に動くのは考え物だ。物件を譲渡(売却)した際の利益に課される所得税や住民税は、その物件の保有期間や、物件取得時に必要となった経費の計算によって大きく差が出てくるためだ。

売り時の今、どのような節税対策を取ることができるのだろうか。税理士法人CS-Oneに所属する税理士・泉昌宏さんに話を伺った。

「4年と5年」で税率は大きく変化する

 「まずは、物件の保有期間に注意が必要です」と泉さんは話す。個人で物件を保有している場合、物件の売却益に対して課税する税率は、その保有期間によって変わってくるためだ。

保有期間は、「譲渡年の1月1日時点でその物件を何年持っているか」で計算され、5年以上所有している場合は「長期」、5年未満の場合は「短期」に分類される。長期と短期の税率は、

長期の場合……所得税15パーセント、住民税5パーセント=20パーセント
短期の場合……所得税30パーセント、住民税9パーセント=39パーセント

と定められている。所得税と住民税の税率を合算すると、5年以上保有している場合とそうでない場合では、実に倍近くの開きがあるのだ。

「売り時だからといって、今年の時点で保有期間4年の物件を売却するのは避けた方が良いでしょう。あと1年待てば、課税される税率は大きく変わります」

あと1年待てばこの金額で売れなくなる! というような状況が発生しない限り、保有期間5年目に売却する方がよさそうだ。節税対策を考える際には、自身が持つ物件の保有期間についてを把握しておくことが大前提と言えるだろう。

黒字と赤字……複数物件を売却するなら「同じ年」に

ケースによっては売却価格が購入価格を下回り、損金が出ることもあるだろう。こうした場合はどのように扱われるのだろうか。

物件の購入時の価格のことを“取得費”と呼びます。建物については、ここから減価償却費(経年に伴う劣化などを費用化したもの)を控除した金額をベースとします。物件を売却した際の価格が取得費を下回り、損が発生した場合には課税されません。また、複数の物件を譲渡した場合には、同じ譲渡所得内で内部通算することが可能です」

基本的に、「物件を手放したことで損をした」場合には課税対象とはならない。また、複数の物件を同じ年に手放す場合にはその損益を合計することができ、違う年に売却するよりも節税できるという。

たとえば、同じ年に2つの物件を売却し、一方が500万円の黒字、もう一方がマイナス300万円の赤字だった場合。同じ不動産所得内での通算が可能となるため、「500万円-300万円=200万円の黒字」とすることができる。こうしたケースでは、500万円の黒字に対して単独に課税されるよりは、同じ年に売却してしまったほうが節税になるのだ。

売却価格が高額な場合は「経費」が鍵?

物件を売却した際の「譲渡所得」は、以下のように計算される。

譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除

取得費は前述の通り、購入金額から減価償却費を差し引いたもの。「譲渡費用」とは、資産の譲渡に直接要した経費。具体的には、仲介手数料や運搬費、登記・登録費用、売買契約書に添付した印紙代などが該当する。これらの金額を把握し、正しく譲渡所得を計算できなければ損をしてしまうことになるのだ。

ただし、こうした経費が分からなくなってしまった場合は、「概算取得費」として売却価格の5パーセントで計算することができる。売却価格が高額になる場合は、あえてこの概算取得費を適用した方が有利になる場合もあるという。

「経費が分かっていた場合でも、売却価額の5パーセントで計算した概算取得費の方が大きい場合は、そちらを選択することができます。また建物と土地を売却した際に、建物については実際の取得費で、土地は概算取得費を適用するということも可能です」

仮に売却金額が8000万円だとすると、その概算取得費は400万円。購入時の経費を上回る可能性は高いだろう。実際の売却金額の目途がついた段階では、課税対象となる譲渡所得がいくらになるのか、冷静に見極めることが重要だ。

法人の場合に考えられる節税策とは

1億や2億の単位で物件売却を検討する場合は、法人であるケースも多いだろう。法人は個人の場合と異なり、所得によって税率が変わるという計算方法ではない。不動産売却の利益であっても、利息の利益であっても、全てを「一つの利益」として税率を掛け、税金が算出される。

考えられる節税策「寄付」「減価償却が多めに取れる物件を買う」「大規模な修繕を行う」という3点について、泉さんに伺った。

○寄付をする
「一般的な寄付の場合、ほぼ損金になりません。国などへの寄付であれば損金になりますが、寄付額全額が手元からなくなるため、節税という解釈にはならないでしょう」

○減価償却が多めに取れる物件を買う
「大きな物件を購入すれば、建物部分は減価償却ができます。しかし償却方法は定額法しかなく、期中の購入は月割り按分となるので、期末近くに購入するとほとんど減価償却費がとれません」

○大規模な修繕をする
「これは資本的支出といって、建物の追加取得の感覚で減価償却対象になる可能性が高いです。ということで、国側としても、課税の公平を図るために穴封じを行っている次第です」

考えられる策としては、利益が出すぎている法人で赤字物件を持っているケースだという。「その物件を売却してしまい、売却損と利益とを相殺させるのは一つの手だと思います」(泉さん)。

なお、法人・個人問わず譲渡税の申告は売却の翌年になることも頭に入れておきたい。「個人の場合には暦年1年間を計算期間として確定申告を行い、法人の場合も1事業年度(1年以内の期間を指し、通常は1年)を計算期間として確定申告をします」(泉さん)。

売り時の今だからこそ、最大限の節税効果を追求したいもの。自身の保有物件を見つめ直し、「どの物件を」「どのタイミングで」売却すべきなのか、そして経費計算はどの方法が最適なのか、検討してみてはいかがだろうか。

泉昌宏さんプロフィール

1999年明治大学経営学部卒。2002年より栗原会計事務所(現・税理士法人CS-One)へ入所。「埼玉青年税理士連盟 第25代代表幹事(2012年度)」、「全国青年税理士連盟 副会長(2013年度)を務める。

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