大規模修繕最終_06232015(1)

不動産投資を行う上で、少しでも多くの利益を生み出すためには、節税について学ぶことは不可欠。そこで今回は建物の修繕に関する税金の仕組みについて、税理士でありながら不動産投資家としても活躍する専門家、叶温先生に話を聞いた。

すべての修繕費は一括で経費になるのか!?

「修繕費は不動産運営に関する経費のなかでも金額が大きくなりがちです。納税額に大きな影響を与えるため、税務署ともめてしまう方もいらっしゃいます。正しい判断基準を学んだ方がよいでしょう」

不動産の修繕は法律による落とし穴が多いものの、きちんと知識を持てば節税対策に大きな効果を発揮するという。

「工事やリフォームの費用は、法律上では“修繕費”または“資本的支出”という区分に分類されます。修繕費は必要経費。施工が完了した年に、一括で経費にすることが可能です。固定資産として計上されるのが資本的支出。その新しい資産の耐用年数により減価償却費として、毎年一定の割合を経費として計上することになります」

つまり一括で経費になるものと、複数年に渡って経費になるものがある訳だ。修繕費と資本的支出を利益操作目的で分類することは税法上認められていないが、これから行う予定の修繕がどちらに当てはまるのか明確にすることは重要。それにより不動産を購入した初年度、手元に残るお金が大幅に変わるのである。

工事費用の分類で、初年度の税金がここまで変わる!

壁や床、天井などを修繕した場合でも、資本的支出と見なされれば建物の価値に上乗せされる。対応年数の設定は、用途や構造により細かく設定されており、店舗用や住宅用で木造のものは22年間、金属造のもので厚みが4mmを超えると34年間、鉄筋コンクリート構造は47年間と、かなり長期間。その他、給排水や衛生設備をはじめ、ガス設備、照明、空調などの電気設備は15年間、例外として蓄電池は6年間となるなど複雑だ。

例えば、中古の木造建築に1000万円のリフォーム工事をし、それが全て資本的支出に分類された場合、1年分の減価償却費は以下の計算となる。

1000万円×償却率0.046(対用年数22年間)=減価償却費46万円/年

ここで、修繕費または資本的支出に分類された場合のシミュレーションをしてみよう。不動産投資以外の収入が1000万円あるオーナーが、利回り率10%、1億円の木造中古物件を購入した場合。1000万円の工事を行うと単純計算では以下のようになる。
※建築物自体の減価償却費といったその他の経費、所得控除などは考えないものとする。

【資本的支出となった場合】

○初年度

(元の収入1000万円+不動産収入1000万円-減価償却費46万円)×0.5(所得1800万円超の税率) -税額控除額279万6000円=所得税&住民税697万4000円

元の収入1000万円+不動産収入1000万円-修繕費1000万円-所得税&住民税697万4000円

⇒手元に残るお金は302万6000円

○初年度以降

収入2000万円-所得税&住民税697万4000円

⇒手元に残るお金は毎年1302万6000円(21年間)

○22年後以降

収入2000万円×0.5(所得1800万円超の税率)-税額控除額279万6000円=所得税&住民税720万4000円

⇒手元に残るお金は毎年1279万6000円

つまり年間23万円の節税効果を22年間受けられる計算になる。

【修繕費として認められた場合】

○初年度

元の収入1000万円+不動産収入1000万円-修繕費1000万円=初年度の所得1000万円

初年度の所得1000万円×0.43(所得900~1800万円の税率)-税額控除額153万6000円=所得税&住民税276万4000円

⇒手元に残るお金は723万6000円

資本的支出となった場合は302万6000円だったため、その差は421万円と倍以上!

また、初年度以降に手元に残るお金は、[資本的支出となった場合]の22年後と同額の1279万6000円となる。ここから初年度に残る金額723万6000円を差し引くと差額は556万円。つまり本来1000万円が必要な修繕工事を実質556万円で実施できた計算となるわけだ。

[資本的支出となった場合]の長期間に渡る節税効果も魅力的だが、やはり初年度の大幅な手取り額ダウンは悩ましく、できるだけ大規模修繕の費用は「修繕費にしたい」と考える投資家が大半だろう。