遺言書最終_07032015

もし自分に突然のことがあった場合、死後に所有物件がどうなるかについて考えたことはあるだろうか。所有している物件数が少なくても、自分の死後に相続トラブルが起きることもありうる。いざという時のために、遺言書についての知識を身につけておくことは、投資家にとって必要だろう

そこで今回は、東京国際司法書士事務所の代表司法書士で、相続対策コンサルタントでもある鈴木敏弘氏に、遺言書が必要な理由や、作成方法、作成時に投資家が気をつけるべきことを伺った。

遺言書は、財産を誰にどう引き継いでもらうか決めるもの

まずは遺言書がなぜ重要なのかを聞いてみた。

遺言書があると、財産を誰にどう引き継いでほしいのかを自分で決めることができます。遺言書がなければ、相続は法定相続人(注:常に配偶者が相続人となり、配偶者以外には子ども、父母や祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹の順で定められている)に法律で決められた割合で行われるのです。

この法定相続の割合は、たとえば配偶者と子どもが相続人である場合は、配偶者1/2、子ども全員で1/2となります。そうではなく、特定の人に多く分配させたり、分配の内容を指定したりなど、自分の遺志で決めた相続の形を実現するためには遺言書が必要になるのです。相続人の間で意見の相違が起きると、話し合いが必要になることもあります。

例えば、不動産と金融資産の合計で遺産が1億5000万円ほどあった末期がんの方のケースでは、手続きによってトラブルを回避できました。その方は推定される相続人が配偶者と兄弟・甥姪で総勢10名いましたが、公正証書遺言を作成して配偶者以外の相続人へ300万円ずつ相続、残りはすべて配偶者に残すようにしたのです」

もし、相続人の中で1人でも協力的でない人がいた場合には家庭裁判所での調停になり、何年間も裁判手続が続くというケースも考えられる。特に高齢者にとって裁判の長期化は負担も大きい。それを回避できただけでも、公正証書遺言を残したことに意義があったようだ。

実際に手続きでモメるというのはどのような理由によるのだろうか。鈴木氏によれば、「生前仲が良かった家族が遺産分割をめぐり不仲になったケース」「相続人が多くて分割についての意見がまとまらないケース」などがあるという。不動産を多く所有している投資家の場合には、おのずと財産も多くなるだろう。これは対岸の火事ではないのだ。

遺言書を作る手順とは?

それではどうやって遺言書を作成すれば良いのだろうか。遺言書にはいくつかの種類がある。鈴木氏は遺言書の種類について「一番ポピュラーなのは自筆証書遺言と公正証書遺言の2パターンです。自筆証書遺言は名前の通り、全文を自署して、日付やハンコなど法律で決められた要件を満たした上で作成するもの。公正証書遺言は、公証役場を使って公証人に間に入ってもらうものです」と説明してくれた。

自筆証書遺言の場合、司法書士などから遺言作成のサポートを受けるとしても4万円代後半〜8万円程度で安価に済むが、鈴木氏は不動産投資家については公正証書遺言を勧めるという。

亡くなったあとに自筆証書遺言を持ってこられても、形式が満たされていなかったり、書き方を間違えていたりすると無効になる場合があります。自筆証書遺言は裁判所での検認手続き(注:遺言書の内容を明確にして偽造・変造を防止する手続き)が必要なため、公正証書遺言よりも手間もかかってしまう。不動産は数千万から億単位のものなので、リスクを考えるとしっかり作った方が良いでしょう」

公正証書遺言を作るためには、まず自分にどういう財産があるかを整理し、誰に残したいのかを決める必要がある。投資家の場合は、毎年送られてくる納税通知書に不動産の固定資産評価額が出ているので、それを手元に用意しておくとスムーズだ。その後、公証役場や司法書士に細かい書き方などを確認してもらうことになる。相続後の影響など気になることが多い場合には、最初から司法書士などに相談するのも手だ。

手続きの流れとしては、鈴木氏の事務所の場合「公正証書遺言であれば事務所で文案を検討し、それを公証人に見てもらい、お客様に確認してもらいます。そこで内容に問題がなければ、証人2人とともに公証役場へ行き、公証人とその場で作成してハンコを押して完成です」ということだ。

これらの手続きにかかる期間は、早ければ1~2週間、長くても2カ月くらいだそうだ。司法書士事務所を通して公正証書遺言を作成する場合の費用は事務所により異なるが、10万円〜30万円程度のところが多いようだ。その他に公証役場での費用もかかる。

公証役場での費用は財産の内容によって変わるが、5万円~10万円で収まる人が多いそうだ。総額はケースによって変わるため、自分の場合はどうなるかを司法書士事務所などで相談してみるのも良いかもしれない。

不動産は「単有」で相続した方が良い?

不動産投資をしていた人に実際に起きたトラブルも伺った。マンション2棟(総戸数46戸)を保有し、その総資産は約3億3000万円。相続人に配偶者と子ども2人がいるという人の例だ。子ども2人が不仲のため、遺産分割協議を進めるのが難しい状況だった。そういう場合、2人が2つの建物を1/2ずつ持つ「共有」を選ぶことは勧めないという。処分するときにも2人で決めなければならないからだ。1人が1棟ずつ相続する「単有」という方法を基本的には勧めているそうだ。

そのほかにもいくつかのパターンで、不動産投資家が注意すべき点を聞いてみた。例えば、20戸程度のアパート1棟を持っており、配偶者とは死別。子供が2人いるという場合だ。この場合も、後にトラブルの種を残さないという意味ではどちらかに単独で相続させた方が良いという。

「そのアパートが2棟に分かれている場合には、1つの土地を2つに分けて登記する『分筆』を行うことで、1棟ずつ単独で持たせることもできます。大切なのは物件ごとに任せる人を決めるということ。生前に処理しておいたほうが良い面もありますが、税金が多くかかるので、お金を取るか、円満を取るか、考える必要はあるかもしれません」

次に、都心のワンルームマンションを複数所有しており、普段はサラリーマンをしている40代の兼業投資家の場合を尋ねてみた。投資用ということで複数の物件を所有しているが、この場合も、それぞれの物件ごとに相続人を決めるしかない。なぜなら相続人が3人いた場合、全員で物件を共有していると死後の家賃収入を3分割する必要が生じ、ややこしくなるからだ。

覚えておきたいのは、「一度遺言書を作ったからといって、不動産を自分で売却できなくなるわけではない」ということ。現在の投資家業に縛りができるわけではないので、柔軟に準備を進めておくべきだろう。

投資家の場合、不動産の相続をどのように分割するのか、また分割しないのかといったことが相続時には問題になりやすい。前もって遺言書を作成しておくことは、自身と残された家族財産を守り、争いの原因を作らないようにするための大切なプロセスなのだ。

鈴木敏弘氏プロフィール

鈴木敏弘氏

相続対策コンサルタント。東京国際司法書士事務所(http://www.tokyo-intl.com)の代表司法書士。

東海大学理工学部卒。東証一部上場企業メーカーに就職後、司法書士試験に合格。日本で最大手の司法書士事務所で役員に就任し、様々な法律問題を解決。平成24年に独立。

著書に『相続税は3年で0にできる。』(泰文堂)がある。

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