犯罪の拠点最終_07032015

もし危険ドラッグの製造や大麻栽培、振り込め詐欺などの特殊詐欺に自分の物件が使われたら……。想像するだけでも気が滅入りそうだが、これらの犯罪行為撲滅に向けて大家にもより一層の責任が求められている。

東京都は6月、「安全・安心まちづくり条例」の改正案を議会に提出した。借家が上記のような犯罪行為に使われた場合には解約するという特約を、大家が賃貸契約に盛り込むことを義務付ける内容だ。努力規定であり今のところ罰則は設けられていないが、気になる人も多いだろう。

実際にはどのような事例があり、どのような悪影響を物件に与える恐れがあるのか。また、犯罪行為を行う可能性がある人物を入居させないために取れる対策は何なのか。不動産管理を手掛ける株式会社シー・エフ・ネッツで長年トラブル対応を担当する伊藤成規さんに話を聞いた。

「人の出入りが激しい部屋」は怪しい?

過去に伊藤さんが経験した、犯罪拠点に使われた物件の例をいくつかご紹介したい。一つ目のケースでは、単身者向けにも関わらず「人の出入りが激しい」と、同じ物件の入居者から連絡を受けていたという。

「その物件は家賃滞納が3カ月目になっていたということもあり、警察が捜査のために室内に立ち入りました。すると室内にはたくさんの電話機が……。振り込め詐欺の事務所として使われていました」(伊藤さん)

この部屋は契約者が実際に居住しつつ、ほかに3人が加わって詐欺行為を行う拠点になっていたという。

警察からの照会依頼で犯罪行為が発覚

危険ドラッグの製造に使われていたケースでは、警察から入居者についての照会が入り発覚しましたね。その後入居者は逮捕されました。24時間カーテンを閉め切っており、外から気付かれないようにしていたようです」

逮捕されたのは20代後半の男だった。別の容疑者からの供述によって明るみに出たのだと思われるが、こうした照会が入るときは管理会社としても気が気ではないそうだ。製造行為ではないが、入居者が危険ドラッグによって部屋で死亡していたというケースもあったという。

集合ポストの「名前」に注意!

特殊詐欺の場合は、個人名ではなく架空の法人名が使われるケースも多い。住居用として契約しているはずの入居者が、いつの間にか集合ポストに法人名を表記している場合は怪しいという。契約違反であるというレベルを超えて、犯罪拠点化しているケースも実際にあったそうだ。

「詐欺グループ間での物品の受け渡しや、架空の法人があたかも実在するかのように見せるケースで使われることがあります。契約だけして部屋をまったく使っていない場合もあるので、郵便受けが常にいっぱいになっている部屋や、逆にまったく郵便物が届かない部屋も注意すべきですね」

すべてを疑ってかかるわけにはいかないが、集合ポスト一つとっても犯罪行為の兆候は見てとれるようだ。

「犯罪に使われた部屋」の情報はネットで晒されている

このように犯罪行為に巻き込まれた物件は、その後どのような影響を受けるのだろうか。

伊藤さんは「新しく入居しようとする方に過去の経歴が知られてしまう可能性がある」と話す。

警視庁のホームページでは、特殊詐欺に使われた物件については「注意喚起」として住所や建物名、部屋番号が記載される。いわば「ネットの晒しもの」状態になってしまうのだ。入居を検討する人が物件名で検索すれば、こうした情報に触れる可能性がある。容易に削除依頼ができる種類の情報でもない。

伊藤さんが3年前に経験した事件の場合、2年ほどは警視庁のホームページに情報が出ていたそうだ。その後は削除されたが、2ちゃんねるのログに拾われ、いまだにネット検索で情報が出てくるという。

「(自殺者が出たり、殺人事件が起こった場合のような)事故物件の場合は心理的瑕疵があるため、説明責任があります。ただ、特殊詐欺に使われた物件の場合、心理的瑕疵があるかどうかはグレーで、過去に起きたことを積極的に入居希望者に説明する不動産業者は少ないでしょう。後からネットで情報に触れて、契約を白紙にしたという方も実際にいらっしゃいました」

また、犯罪行為に使われていた部屋は往々にして原状回復費用がかさんでしまうという。設備を荒く扱われるケースが多いことや、入居者との連絡・交渉がままならずに大家負担で泣きを見ることがほとんどだからだ。容疑者から依頼を受けて行った動産撤去費用を含めて、約30万円を負担した大家もいた。

後々の入居募集にも影響するネガティブな情報がネットに残され、原状回復でも必要以上の負担を強いられる。実際に犯罪行為に使われてしまうと、大家へは二重のデメリットが生じてしまうのだ。

「審査が厳しい」というブランディングは犯罪集団に伝わる

「条例が改正されても、すぐに賃貸市場全体に影響することはないでしょう」と伊藤さんは言う。

借り手側にとっては負担が発生しませんので、あまり影響がないと思います。貸し手側にとっても、現状では前述のようなリスクをそこまで考えていない人のほうが多く、条例の改正はあまり影響を与えないと考えています」

だが前述の通り、発覚後に大家や管理会社に襲いかかる手間や負担は相当なものだ。伊藤さん自身は、自社で管理する物件にどのような対策を取っているのだろうか。

当社の入居審査では、とにかく本人確認を徹底しています。3点セットと呼んでいる『顔写真入りの身分証明書』『在職証明書』『収入証明書類』を原則すべての方にご提出いただいています。これを徹底して行うだけで、ほとんどの犯罪関係者をブロックできるはずです」

顔写真で本人判別できる身分証明書はもちろん、在職証明書も重要。審査書類にダミー会社の社名が記載されるケースがあるためだ。また、収入の申告では「年収500万円きっかり」など適当な数字が記載されるのも犯罪者の特徴。この手を使う相手には、収入証明書類の提出が非常に有効だ。

こうした取り組みを続けてきた結果、怪しげな申し込みは皆無に近くなったという。伊藤さんは、犯罪者の間で「審査が厳しい会社だから避けろ」と情報共有された効果だと見ている。

一方で厳しい入居審査プロセスは、不動産会社にとって「営業の足を止めてしまう」懸念をはらむものでもある。それは早く空室を埋めたいと思う大家にとっても同じだ。しかし伊藤さんはそうした「焦り」に警鐘を鳴らす。

「賃貸物件の契約は、月々の賃料を考えればたとえ2年間の付き合いだとしても100万円単位の取引です。しかし安易な審査体制で入居を認めている現場は驚くほど多い。犯罪集団によって金銭的、時間的な損失を被ることがないよう、『審査に厳しい大家』『審査に厳しい管理会社』というブランディングを進めていくことが必要だと思います」

今回の条例改正は、賃貸経営に向き合う心構えを見つめ直す契機とすべきなのだろう。

伊藤成規さんプロフィール

伊藤成規さん_株式会社シー・エフ・ネッツ鎌倉本店 プロパティマネジメント事業部 管理課・エンジンルーム リーダー。入社7年目。

家賃滞納や入居審査、トラブル対応の専門家として活躍。行政書士の資格を持ち、予防法務の観点での契約書整備も手掛けている。

株式会社シー・エフ・ネッツ
http://www.cfnets.co.jp/pm/

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