出国税最終_07092015

みなさん、こんにちは! 不動産投資専門税理士の叶です。今月から、税理士でもあり不動産投資家でもある私が、不動産投資にまつわる税金のお話についてお伝えしていきますので、どうぞよろしくお願い致します。

1回目となる今回は、平成27年7月1日から導入された「出国税」のお話です。

出国税とはどんな税金?

「出国税」はこの平成27年7月1日から導入された新しい制度です。正式名称は「国外転出時課税制度」といって、簡単に言うと、外国に居住地を移す時に、持っている株式や有価証券などの資産の含み益に税金が掛けられる制度です。

例えば、時価2億円の株を持っていて、海外に転居する時に1億円の含み益がある場合は、その含み益に対して15%の1500万円の所得税を出国時に納税することになります。

実際に株を売って利益が実現したわけでもないのに、海外に転居する時点で儲かったと予想される含み益に税金が課されるので、資産を持っていて海外に転居したい人にとってはかなり厳しい制度になったわけです。

では、なぜこんな制度がつくられたのでしょう?

それは、今までは日本で含み益のある株を持っていて、そのままシンガポールや香港、マレーシアに移住して売却すると、それらの国ではキャピタルゲイン(売却益)に対する税金が掛からないので、節税目的で資産を持って海外へ移住する富裕層が多くなっていたんですね。

そこで、この出国税を導入することによって、富裕層が資産を持ったまま海外へ転居する際に「含み益」に対して税金を掛けることによって、合法的な税金逃れを防ごうという目的があるわけです。すでにアメリカ・ドイツ・フランス・カナダ・イギリスなどでは、以前より出国税が導入されています。

日本で持っている不動産は対象になるのか?

では、この出国税、どんな場合に掛かってくるのでしょうか? 対象者は次の2つの要件を満たす人です。

① 1億円以上の有価証券、未決済の信用取引等の資産を所有している人
② 海外に行く日以前10年の間に、5年を超える期間、日本に住んでいた人

この要件を見ると、株などの有価証券を1億円以上持っている富裕層が対象です。したがって、日本国内に不動産を持っている人が、海外に転居する場合には、その不動産の含み益に対して税金が掛けられるということは、現在のところはありません

ただ、アメリカの出国税は、全世界にある資産が対象となっていて、不動産も含まれています。日本の法律や税制は、アメリカをモデルとしているケースも多く、約10年遅れて導入されることがほとんどですので、将来的には日本も不動産を出国税の対象とする可能性も大いにあるでしょう。

富裕層が狙われている!?

このように、出国税は富裕層をターゲットとした税制ですが、ここ数年、この出国税以外にも富裕層を対象とした税制改正が実施されています。その代表的な改正が、平成27年から変わった所得税率の改正です。

■平成27年分以降の所得税の税率

課税される所得金額

税率

控除額

 195万円以下

5%

0円

 195万円超  330万円以下

10%

9万7500円

 330万円超  695万円以下

20%

42万7500円

 695万円超  900万円以下

23%

63万6000円

 900万円超  1800万円以下

33%

153万6000円

 1800万円超  4000万円以下

40%

279万6000円

 4000万円超

45%

479万6000円

平成27年以降は課税所得金額4000万円超という新しいレベルができ、4000万円超の部分に対して45%の所得税が掛かります。住民税率は一律10%ですから、所得税と住民税を合わせると、最高税率はなんと55%にもなり、高所得者をターゲットとした改正となっているわけです。

また、平成26年からは、国外財産を5000万円超持っている人は、「国外財産調書」という書類の提出が義務付けられています。提出しない場合や、虚偽の内容を書いた場合は、1年以下の懲役か50万円以下の罰金が課せられます。これも、富裕層の財産を把握するための改正になっています。

相続税は今年から大増税!

さらに、平成27年から相続税も大きく改正されています。特に大きな改正が相続税の基礎控除の改正です。これまで、相続税の基礎控除は、5000万円+法定相続人の数×1000万円でした。これが、平成27年から、3000万円+法定相続人の数×600万円となり、なんと基礎控除は40%も縮小されています。

例えば、配偶者と子供1人、合計2人の法定相続人がいる場合、平成26年までは、基礎控除が7000万円あったわけですが、平成27年以降は4200万円になります。

仮に全相続財産の額が1億3000万円あり、子供一人が全財産を相続する場合、この基礎控除の改正によって単純計算で560万円も相続税がアップすることになります。

したがって、富裕層は今まで以上に相続税が増える結果となり、またこの基礎控除の改正は、今まで相続税が掛からなかったレベルの人にも、相続税が掛かる可能性が多くなったわけです。また、基礎控除の改正に加えて、相続税率の改正も同時に実施されています。

【改正前】

課税額

税率

控除額

  1000万円以下

10%

  3000万円以下

15%

50万円

  5000万円以下

20%

200万円

    1億円以下

30%

700万円

    3億円以下

40%

1700万円

     3億円超

50%

4700万円

 

【改正後】

課税額

税率

控除額

  1000万円以下

10%

  3000万円以下

15%

50万円

  5000万円以下

20%

200万円

    1億円以下

30%

700万円

    2億円以下

40%

1700万円

    3億円以下

45%

2700万円

    6億円以下

50%

4200万円

     6億円超

55%

7200万円

この表を見ると、課税額6億円超には55%の税率が掛かることがわかります。こちらも所得税・住民税率と同じく、最高税率の人は半分以上税金が掛かることになります。したがって、相続税率のアップは、富裕層直撃の改正になっていることがよくわかります。

このように、ここ最近は、消費税率アップなどの全所得層に影響する税制改正と同時に、富裕層に対する税制もどんどん創設・改正されています。富裕層にとっては、不動産の活用と同時に、これまで以上に税金に対する知識が求められる時代になっていきそうです。

 

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