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複数の物件を運用していたり、サラリーマン大家として本業と両立しながら運用していたりすると、どうしても収支の計算が曖昧になってしまう……。そんな課題を持っている方も多いのではないだろうか。
どんなに好条件の物件であっても、またどれだけリノベーションに力を入れても、物件価値がやがては落ちていくのが不動産の宿命。将来にわたって適正な収益を確保し、出口戦略を考える時期を見極める意味でも、自身の資産は数字を押さえて客観的に管理したいものだ。
今回、ファイナンシャルプランナーとして個人の資産管理と運用を中心にアドバイスを行う伊藤亮太氏に、エクセルを活用して誰でも汎用できる資産管理表を監修してもらった。もしもまだ自身の資産管理に型を持てていないという人は、ぜひ参考にしていただければと思う。
資産管理表を運用すべきなのはどんな人?
そもそも、個人を対象にした資産管理のアドバイスとはどのようなものなのだろうか。伊藤氏は「年収が高いのに貯蓄がうまくできないというケースや、短期的な資産の動きは分かっていても中長期で計画できないというケースが多い」と話す。
5年後、10年後、場合によっては定年退職後の数十年先までを俯瞰して見渡すために、収支の流れを中心に、数字に落とし込むことで明確にしていくのだ。不動産投資の場合は、月々の賃料収入とローン返済のバランスだけを見るのではなく、空室リスクや物件価値の下落も含んだ上で長期予測を立てるべきだという。特に、
・運用する物件数が複数ある人
・転売目的ではなく、賃貸経営で着実に収益を上げていきたい人
上記に当てはまる人へアドバイスをするケースが多いそうだ。
分かっているつもり……でも5年後、10年後は?
自身も株式や信託投資で資産運用を進めている伊藤氏。証券会社や銀行などの金融機関で発行される保有商品の運用報告書を使い、ポートフォリオで保有銘柄の状況をつぶさに確認しているという。株価が上がっているものは売りの対象にし、逆に下がっているものは買い増しを検討するのだ。
「短期的に目まぐるしく相場が変動することもある株式投資ではこうした資産管理のサポート機能が充実していますが、不動産投資の分野ではほとんど見られません。独自のフォーマットを用いて管理する工夫が必要だと思います」
確かに、不動産の場合は「明日資産価値に大きな変動が起こる」ということは考えにくい。設定した賃料で満室にできれば当面の収入が安定する。しかし不動産投資は、5年後、10年後といった将来に同様のパフォーマンスを発揮し続けることが難しいという面も持っている。
「買ったときの条件よりも常にシビアに予測しなければならないのが不動産。長期の時間軸で数字を見ていかなければいけません」
それでは、実際に真似できる資産管理にはどのような方法があるのだろうか。あるサラリーマン大家の例を、実際の資産管理表とともに見ていこう。
本業と大家業の収支を一覧に
都内の物件に投資するサラリーマン大家のAさんは、大手通信会社で企画職を務める35歳。本業での年収は約800万円(手取り610万円)だ。4年前から不動産投資を始め、現在は3棟・12室を保有している。
(1)収入の部
資産管理表では、まず本業での手取り収入を年単位で記載していく。昇進を前提に、年1パーセントずつアップしていく計算だ。
続いて大家業での収入も年単位で落としていく。ポイントは、物件ごとにステータス(物件タイプ、現在の賃料、戸数、満室時の月額賃料、立地、築年数)が分かるようにしておくこと。Aさんの場合、立地は駅からの徒歩5分 以内をA、15分以内をBと区分している。年単位の賃料収入は、満室時賃料×11カ月で計算し空室リスクを加味。また5年ごとに賃料が10パーセント下がるシミュレーションで物件価値の下落を織り込んでいる。
現在の大家業収入が990万円であるのに対し、シミュレーション上での15年後の大家収入は791万円。大枠の計算でも、将来的には200万円の減収となることがわかる。
(2)支出の部
大家業での支出項目は、管理会社への手数料と基本維持費(消耗品の交換など日常的に管理会社から見積りが提出されるもの)から記載していく。物件ごとの修繕費は退去時の修繕や、築年数から予想する大規模な設備改修費用を見込んでいる。そして固定資産税の支払いとローン返済もこの支出の部に含めておく。
賃料による収入は将来的に減少していく予測だが、支出は大規模修繕のタイミングで大きく跳ね上がっている。これは、各物件の築年数から、設備の修繕が集中すると考えられる年に支出を落とし込んだものだ。
生活支出についても、食費や水道光熱費といった家庭の基本生活費(ライフプランの基本的な考え方として、手取り収入の増加とともに生活費も年1パーセントずつ上昇していくと計算)をはじめ、生活をしていく上で必要となる支出を年単位で押さえている。
大家としてのアクション順位や相場観が見えてくる
こうして見渡した結果、Aさんの現在の年間収入は1600万円、年間支出は1242万円で、358万円が貯蓄可能額となった。家計の資産運用としては良好だが、このままの規模では大家業の収入のみで暮らしていくセミリタイアは厳しそうだ。
資産管理表の運用をしていく意義について伊藤氏は二つの効用を上げる。一つは大家としてのアクションの優先順位が付けやすいことだという。
「築年数などの物件の現況をベースに修繕タイミングなどを予測しておくことで、大きなお金の出入りが発生するタイミングを見極めることができます。場合によっては、売却を検討する時期も見えてくるでしょう」
もう一つの効用は、「大家としての相場観が身に付いていく」ことだという。
「年単位でシミュレーションを立て、結果を振り返っていくことで、投資の規模やリターンについての相場観が見えてくるはずです。突発的な設備修繕の出費などで計画通りに行かないこともままあるかと思いますが、そうした経験を踏まえたリスク要因も含めて収入・支出の計算ができれば、長期的な不動産投資の資産管理がより正確なものになっていくでしょう」
シンプルに収支をつかみ、計画と振り返りを繰り返し更新していくことで不動産投資の経験値を反映させていくことができる資産管理表。自身の物件のことは頭の中で計算できているという人も、一度は俯瞰して現状を整理してみてはいかがだろうか。
ファイナンシャルプランナー。個人の資産設計を中心としてマネー・ライフプランニングの提案を行っている。資産運用に関するセミナーや講演も多数展開。また大学院時代の専門分野として、公的年金や確定拠出年金に強い。
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