不動産投資を行う上で、もっとも重要なのが物件を買うかどうかの判断だ。その見極めが正しければ、利益の上がる物件を掴むことができるし、反対に見通しが甘ければ、“貧乏くじ”とも言える物件を掴んでしまうこともある。
では、プロたちはどんなポイントを見て、その判断を下しているのだろうか。今回は2人のプロに同じ物件を見てもらい、価格や利回りの妥当性など、5つのチェックポイントで分析。最後に「買い度」を5点満点で採点してもらった。
2人のプロが同じ物件を見ると、評価に大きな違いが……
まず、今回チェックをお願いした2人のプロを紹介する。
■築古アパート派:広之内友輝氏
自己破産寸前から、築古ボロ物件を再生し、15棟188戸まで築き上げた投資家。年間家賃収入は7000万円を超える。
■大型RC派:内本智子氏
独学で不動産を勉強し、現在では大型のRC物件を中心に5棟81室を管理する。家賃収入は年間5300万円。
この2人にチェックしてもらったのは『一都三県・利回り10%超の一棟アパート』だ。

※写真はイメージです
所在地 |
埼玉県羽生市 |
沿線交通 |
東武伊勢崎・大師線、駅徒歩10分 |
販売価格 |
約2500万円 |
表面利回り |
約14% |
想定年間収入 |
約340万円(約28万円/月) |
物件種別 |
木造1棟アパート(1K×10戸) |
築年月 |
築20年程度 |
土地権利 |
所有権 |
現況 |
満室 |
この物件を今回の「ターゲット」と定め、(1)販売価格(2)利回りの妥当性(3)所在地(4)築年数(5)建材・設備という5つの視点でチェック。それぞれの見通しを述べて、最後に総合的な買い度を示してもらった。さっそく、5つの視点を軸に、この物件に対する2人の分析を見ていきたい。
(1)販売価格について
広之内氏
「木造築20年、1棟アパートで比較すると、この物件の利回り14%は埼玉県でトップクラスの利回り(楽待参照)。平均家賃も、埼玉県羽生市1K物件としては大変安く、この家賃設定で高い利回りなら、販売価格も安いと考えます。
加えて、こういった安い家賃設定は、借金返済がほぼ終わっている高齢者のオーナーに多い傾向です。しかも満室となれば、売主は相続も考えて売り急いでいるかもしれません。つまり、指値を入れられるチャンスもありそう。登記簿で所有の移り変わりや残債などを見て、可能なら指値を狙うべきでしょう」
内本氏
「私は大型RCを検討することが多く、築古木造についての見方は多少厳し目で、土地の路線価以下の価格で購入できる場合のみ購入します。木造であれば、解体費は100万円とか200万円なのでボロボロになるまで保有して、最後は土地値で売れば損はありません。
この物件概況から積算価格を計算すると、以下のようになります。
土地価格 167×2.8=467.6万円
建物価格 168×12.5÷22×3=286.4万円
合計 754万円(銀行からみた積算評価額概算)
この積算価格から考えると、2500万円は高いのではないかと思います。販売図面やレントロールも確認すべきですが、この情報からは1000万円ほどが妥当ではないでしょうか」
一つ目のチェックポイント「販売価格」で、早くも2人のプロの見解は分かれた。また、利回り・家賃からのアプローチ、積算価格からのアプローチと、それぞれ異なる方法で見ているのも興味深い。
(2)利回りの妥当性について
広之内氏
「羽生市の1K入居募集中26戸の平均家賃は、ある不動産サイトによると3万8800円。一方、本物件は1戸あたり2万8000円まで低下しており、羽生市の1Kにこれほど低い家賃の物件はありません。つまり、家賃設定は堅実で、この利回りは固いと考えます」
内本氏
「郊外の築古木造と考えると、利回りは15〜20%欲しいので、私の基準からは外れます。周辺の家賃相場を考えると、高めに見てもこの物件は2万5000円程度の家賃。年間でも満室で300万円ほどのはず。
現状は満室で年間340万円の家賃収入ですが、将来的には空室が出たら家賃を下げる必要があり、収入は減っていくはず。となると、やはり妥当ではなさそうです」
こちらについても意見は分かれた。というより、利回りには販売価格が大きく関わるため、ここも連動して意見が異なるのは当然かもしれない。
(3)所在地について
広之内氏
「羽生市は、すでに人口減少が始まっている点でマイナスですが、メリットもあります。日米でブレーキパッドのシェア4割を誇る東証1部上場企業『曙ブレーキ』の本社や、物流拠点が立地し、単身者の需要はある程度今後も期待できる地域です。築年数が耐用年数に迫っていることから、融資は返済10年などの短期想定。そのため、この程度の期間であれば、繁栄維持が見通せる所在地であると考えます」
内本氏
「羽生市は人口こそ少しずつ減少していますが、この市の持ち家率は約8割で、賃貸需給のバランスは崩れていない街だと思います。空室物件も少ないですから。また、東武伊勢崎線と秩父本線が乗り入れる接続駅でもあり、秩父本線の駅(35駅)では第2位の乗車人員(1日あたり)。その羽生駅から徒歩10分の角地なので、立地は悪くありません」
どちらのプロも立地については高評価。また、時間軸の設定や賃貸需給バランスの見極めなどは、物件を見極める上で参考になるだろう。
(4)築年数について
広之内氏
「法定耐用年数を超えようとしている古い物件。とはいえ、阪神・淡路大震災の教訓を反映した、1995年の建築基準改正後の建物という点は評価できると考えます」
内本氏
「木造アパートで築19年なので、そろそろ大規模修繕が必要となります。そういう意味では、あまり好ましい築年数とは言えないでしょう」
どちらも築19年には渋めの評価。ただし、1995年以降の建物でもあるため、そこをどう評価するかがポイントだ。実際の目で確かめる必要があるだろう。
(5)建材や設備などについて
広之内氏
「本物件で一番の注意ポイントと言えるのが、外壁塗装。これは現地チェックが必須で、触って粉が出ないか、水を壁にかけてきちんと弾くか見たいですね。ダメなら塗装の必要があります。また、コーキングの隙間などから、傷みがないかも確認が必要。いずれにしても、大規模修繕履歴のチェックは絶対です。
その他では、徒歩10分なので近隣駐車場の空き具合が重要。近くに駐車場が限られているなら、オーナーで数台分借り上げるなども検討すべきでしょう。あと、写真ではBSアンテナはなさそうで、CATVも羽生市には確認できません。空室になっても、このあたりのサービスを付加できる『のびしろ』はあると言えます」
内本氏
「建材・設備については手入れの時期だと思います。屋根塗装、外壁塗装、共用部などの鉄部塗装、給湯器交換が必要になるでしょう。もし都市ガスでしたら、プロパンガスに変更して、ガス会社に給湯器交換をお願いする必要があります」
建材・設備の面は、この物件を買うかどうかの分かれ目になりそうだ。外壁塗装などの程度によっては、それだけで見送りの可能性も出てくるだろう。
2人の最終的な「買い度」は何点!?
さて、これらの5項目をチェックした上で、総合的な「買い度」を5点満点で評価してもらった。
広之内氏 買い度3.5点
「利回り、家賃設定、立地面の買い度は4点です。ただし、2つ気になるところがあって0.5点ダウンさせました。1つは外壁。竣工以来塗っていない可能性が高いです。また、バストイレ一緒のユニット、洗面所無しという設備面での見劣りがあります。競合物件がこれから家賃を落としてくると厳しい戦いになるので、そこを考慮しました」
内本氏 買い度1点(ただし上がる余地あり)
「現在の売値(2500万円)なら、買い度は1。2000万円なら買い度2、1500万円なら買い度3です。
ただし、評価が上がる可能性もあります。たとえば、駐車場が作れそうなら1台3240円/月ほどの設定はできそうなので、3台で月1万円、年間12万円の収入増。さらに角地で人通りもありそうなので、ジュースの自動販売機をおけば、月5000円〜1万円の売り上げになるかもしれません。あわせて年間24万円の収入増になれば大きいです。
また、現在の大家さんが屋根の塗装・外壁の塗装、給湯器など、維持メンテナンスができていれば、状態が良く、すぐに修繕などの手を打つ必要がないかもしれませんね(修繕履歴があるかどうか売り主様に確認)。基本的に物件選びは厳しい目で見ていますので、こうした点も加味して最終的な買い度を判断しました」
概ね好評だった広之内氏だが、外壁とユニットバスという点を留意し、評価を下げた。一方の内本氏は、全体的に厳しい評価だが、とはいえ上がる余地もあると見ている。2人とも厳しく慎重に見つつ、きちんと物件の持つ「可能性」をつかんでいるところは参考にすべきなのではないだろうか。
不動産投資のメインとなる物件選び。ぜひ2人のプロの見方を参考に、良い物件を見つけてもらいたい。
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