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大学の都心回帰化が進んでいる。1970年代頃に郊外へ移転した大学が、都心部へ戻ってくる動きが活発化したのは、2000年代に入ってからのこと。少子化が進み、大学全入時代となった昨今、大学側は学生の囲い込みに必死なのだ。
志願者増に欠かせない要素の一つに、大学の立地やアクセスの良さがあるだろう。2016年4月に八王子キャンパスの学部・大学院を三鷹に移転させることが決まっている杏林大学の公式サイトには、移転の背景が3つ挙げられている。
① キャンパスが離れていることにより、学部教育や大学院教育において連携が十分でなく、総合大学としての利点を活かしきれていない
② 八王子駅からバスで30分前後、運賃も片道370円かかり、学生の負担が大きく、常日頃から利便性を求める声が強い
③ キャンパスが離れているため、学生、教職員において一体感が欠ける
学生にとって「通いやすさ」「アクセスのしやすさ」は重要な条件だ。同じ条件であれば、都心から遠く離れた山奥にある大学よりも、都会のど真ん中にある大学に通いたい、と多くの学生は思うだろう。
関東に限らず、関西でも同様の動きが起きている。今年の春、大きな話題を集めたのは、大阪府茨木市に新キャンパスを開設した立命館大学だ。経済、経営、理工など7学部8研究科を有していたびわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)から、経営学部と大学院経営学研究科が移転し、約3700人の学生が草津市から姿を消した。
全学生の約2割が流出したとなると、草津市の不動産オーナーは大打撃を受けているのではないだろうか。一方で、茨木市の賃貸経営は非常に好調になっているのではないか。2つのキャンパス付近の賃貸仲介会社に、実際に賃貸経営は今どうなっているのか、リアルな話を聞いてみた。
学生数が減っても駅近物件には、まだ影響はなし
まずは、約3700人の学生が出て行ったびわこ・くさつキャンパス周辺にある、南草津エリアの賃貸仲介会社の声を聞いてみよう。A社によると、移転した学部・研究科に通っていた学生の半分程度が、南草津駅やキャンパス近辺で、一人暮らしをしていたという。つまり、1500人を超える単身者がごっそりといなくなったことになる。
「それでも、南草津駅から徒歩5〜10分の距離にある賃貸物件はほぼ埋まっています。私たちの感覚では、駅前にある物件はさほどダメージがなかったですね。そこそこの家賃でも駅前は利便性が高いので埋まるんです。
一方で、南草津駅からは徒歩20〜30分、キャンパスからは徒歩数分の距離にあるようなキャンパス寄りの物件は、昔から建っていて古くなった影響もあり、空室が目立っています。
とはいえ、学生がいなくなってまだ1年も経っていないので、部屋が埋まらないからと売る動きはないですね。大家さんと話をすると『管理会社を変えてみようかな』くらいで、あまり危機感を持っている様子は見られません」(A社)
じつは、南草津駅は4年ほど前に新快速停車駅になった。京都や大阪まで1時間ほどで行けることもあって問合せが増えており、そういう面ではキャンパス移転には影響を受けない、別の需要がある、とA社は話す。
では、駅から離れたよりキャンパスに近い物件ではどうなのか? 調べてみると大打撃を受けているオーナーの事例が多数聞こえてきた。
「家賃の下げ幅がない」キャンパス寄りの安物件では悲劇も
「駅近ではない物件」の多くは、家賃引き下げなどに苦しんでいるのではないだろうか。B社とC社の声も聞いてみよう。
「学生が1000人単位で移動したので、とくに春頃は例年と比べて空室率がぐんと上がりましたね。キャンパス周辺の物件を中心に、現在もなかなか埋まりにくい状況です。南草津駅からキャンパスまでけっこう距離があるので、移動に便利な駅寄りの物件のほうが、人気があるのは当然なのですが……。
もともとの家賃が安めな物件でも、平均して1割程度は下がっているのではないでしょうか。値下げ幅の大きい物件だと2割くらい下げているところもあります。家賃5〜6万円の物件で1万円ほど下げているケースもありますね。1年間だけキャンペーン的に値下げをすると決められたオーナーもいました。
直近の情報をお話しすると、7月は家賃を5000円ほど下げる物件が多かったですね。わりときれいで古くない物件でも、駅から徒歩20分ほどかかる場合は、家賃を下げざるを得ないようです」(B社)
「例年であれば順番待ちをしないと入居できないような、駅前にある物件も家賃を5000円程度下げています。もともと南草津には大学がある関係で、ワンルームの賃貸マンション・アパートの数自体が非常に多いため、今はすっかり余ってしまっている状態ですね。
ただ、南草津駅寄りではなく、キャンパス寄りの物件はもともと家賃がかなり安いので、下げ幅を取りづらいです。下げなければ入居希望者が現れないから、と一応は下がっていますが、極端に安くなっているわけではありません」(C社)
一方でC社は、春に向けて元の条件に戻すオーナーも増えてくるはず、と予想する。新入生が入ってくることが理由だろう。
約1500人の流入で、空室続きの物件が満室に
次は、1500人近くの一人暮らし学生が移り住んだ茨木キャンパス周辺にある、茨木市エリアの賃貸仲介会社の声を聞いてみよう。
「とくに、キャンパスに近いJR茨木駅周辺の物件は、学生で埋まってしまった印象があります。長く空室があったようなマンションも、今では満室状態ですね。家賃相場自体は大幅に上がってはいません。基本的にはこれまでと変わらない水準です。全体的には築年数が古めの5万円台のワンルームが多く、築10年以内の比較的新しい物件だと6万5000円前後でしょうか」(D社)
「賃貸経営は今までとあまり変わっていないんじゃないでしょうか。学生に人気なのは家賃5〜6万円程度の手頃な物件です。設備や条件の良い物件なら6万5000円くらいからあります。そういうところは家賃を下げれば学生も入ると思いますよ」(E社)
「利便性の高いところから埋まっていきますから、駅に近い賃貸物件は当然足りていません。茨木自体は転勤の方が多く、売買されるのもファミリー向けの中古物件がほとんどで、ワンルームの中古物件はほとんど出ていないんです。だから部屋数もなかなか増えないんですね。家賃相場は4〜5万円台前後ですが、以前と比べて多少上がっている印象があります。とはいえ、7万円台くらいになると、入居者が入りづらいかもしれません」(F社)
大学が都心へと移転する動きは今後も続いていくだろう。そのため地方の学生をターゲットにと思い、田舎の物件を投資用に安く購入しても、大学がなくなってしまえば、借り手はつきにくくなる。
前出のコメントにあったように、物件によっては家賃を下げようがなく、結果的に空室状態が続いてしまう可能性もある。不動産投資にもトレンドを的確につかむのはもちろん、時代の流れを先読みすることが求められているのだ。
○参照:杏林大学公式サイト
http://www.kyorin-u.ac.jp/cn/html/kyorin/00003/201304163/
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