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みなさん、こんにちは! 不動産投資専門税理士の叶です。お金を残す不動産投資コラム。今回は、相続税対策で不動産を活用すると節税になるというのは本当なのか、というお話です。
不動産が相続税対策になるカラクリ
昔から「マンションやアパートを建てると相続税対策になる」という話がありますよね。このお話、地主さんにとってはよく聞くお話ですが、地主ではない一般の人にとっては、よくわからないお話かもしれませんね。では、不動産が相続税対策になるというのは、どのようなカラクリなのでしょう?
例えばAさんが、1億5000万円の現金を持っていたとしましょう。このままAさんが亡くなれば、相続税法上、現金はそのまま1億5000万円で評価されてしまいます。もしAさんが生前に、この現金1億5000万円を使って土地を購入し、その上に収益マンションを建てて全戸を他人に貸していたとしましょう。以下、不動産の概要です。
【概要】
固定資産税評価額:1億円(建物:7000万円、土地:3000万円)
土地の相続税路線価:10万円/平米、地積:330平米、借地権割合:60%
この場合、相続税法上の評価額はいくらになるでしょう? まず、建物ですが、建物は固定資産税評価額で評価します。
固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
先ほどの例の建物を、この計算式に当てはめて計算すると、次のようになります。
【建物の評価】
固定資産税評価額7000万円×(1-30%×100%)=4900万円
借家権割合とは、人に建物を使われているため、家主が自由に使えない割合と考えてもらえばいいでしょう。借家権割合は全国一律30%と決められています。賃貸割合は、この収益マンションは他人に全戸貸しているので、100%になります。このマンションに空室がある場合や、Aさん自身が住んでいる場合は、賃貸割合がその分減ることになります。
では、次に土地の評価をしてみましょう。土地は固定資産税評価額ではなく、原則として相続税路線価を使います。
【土地の評価】
相続税路線価×地積×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
先ほどの例の土地を、この計算式に当てはめて計算すると、次のようになります。
10万円×330㎡×(1-60%×30%×100%)=2706万円
借地権割合とは、土地の上に建物があるため、地主がその土地を自由に使えない割合と考えてもらえばいいでしょう。借家権の考え方と似ていますね。借家権と違うのは、全国一律ではなく、道路ごとに割合が決められているところです。では、結局Aさんが、現金1億5000万円を使って購入した土地と、建築した建物の相続税法上の評価額はいくらになったのでしょう?
建物4900万円+土地2706万円=合計7606万円
なんと現金のままだと1億5000万円そのままの金額で評価されていた財産が、不動産に変わったことで7606万円と、約半額近くの評価減となりました! もしAさんがかなりの資産家で、財産をもらう人の税率が全員50%だったとしたら、現金を不動産に変えたことで、3697万円もの相続税が節税できることになります。
節税額の計算
評価減の金額:7394万円×相続税率50%=3697万円
このようになる要因は、不動産は固定資産税評価額や相続税路線価で評価されることに加えて、他人に貸していると、借家権や借地権も評価減の対象になるからなんですね。このようなカラクリから、不動産は相続税対策になるといわれているわけです。
借入をすると相続税対策になるというのは本当か?
もう一つ、巷のうわさで「借入をすると相続税対策になる」というお話がありますよね。では、このお話は本当なのでしょうか? 先ほどの例をもとに考えてみましょう。
先ほどの例では、Aさんは1億5000万円の現金を持っていました。もしAさんの財産が現金以外ばかりで、手元に現金があまりない状態だとしたら、借入をして不動産を購入、建築するしかありませんよね。そうすると、相続税法上の評価は次のようになります。
土地建物合計7606万円-借入1億5000万円=△7394万円
借金は相続税法上持っている財産の総額から引くことができるので、もしAさんが他にも相当の財産を持っていたとしたら、この△7394万円は他の財産と合算ができます。借入をした結果、相続税対策になりましたね。では、1億5000万円を銀行から借りて、不動産を購入、建築する前に、残念ながらAさんが亡くなってしまったとすると、相続税法上の評価はどうなるのでしょう?
現金1億5000万円-借入1億5000万円=0
プラスマイナス0となりました。この事例から何がわかるかと言いますと、借入をすることが相続税対策になっている訳ではないということです。借入をして得た現金を不動産に変えることで、相続税対策になるんですね。ですから、巷の「借入をすると相続税対策になる」という噂はウソではありませんが、間に「不動産に変える」という部分が抜け落ちちゃっているんです。
そもそも儲かる物件を持つのが重要!
現金を不動産に変えることによって評価が下がり、相続税対策になることは理解できたと思います。でも、不動産、特に建物は時が経つにつれて古くなっていき、価値が落ちてしまいますが、現金だと価値が落ちることはありません。このように考えると、本当に不動産を相続税対策に使うことはメリットがあるのでしょうか?
では、ここで収益不動産を運営することによって、どのようにお金が残るのかを図を使ってイメージしてみましょう。
こちらは、収益不動産を購入して10年目に売却したという仮定をした場合の、残るお金のイメージです。購入1年目は色々と諸経費が掛かり、1000万円のお金を出しています。2年目からは毎年200万円ずつお金が残り9年目までで、1600万円のお金が残っています。そして10年目の売却で500万円のお金が残りました。結局、この不動産を購入したことで、1100万円のお金が残ったことになります。
△1000万円(1年目)+1600万円(2~9年目)+500万円(10年目)=1100万円
この不動産を相続税対策も兼ねて購入していたとすれば、残った1100万円に加えて、相続税も節税になりますね。では、次の図を見てみましょう。
購入1年目は、図1と同じく色々と諸経費が掛かり、1000万円お金を出しています。しかし、2年目からは毎年5万円ずつお金が減っていて、9年目までで40万円のお金が出ていっています。そしてさらに10年目の売却で300万円のお金を出しています。結局、この不動産を購入したことで、1340万円のお金が減ってしまったことになります。
△1000万円(1年目)+△40万円(2~9年目)+△300万円(10年目)=△1340万円
投資としてはまったく成り立っていない状態ですが、この不動産を購入したことで、マイナス1340万円以上に相続税が節税できていたのなら、トータルとしてのお金は残ることになります。実は、相続税対策で収益不動産を建てる人の多くが、図2のような状態になっているんです。
普通に考えれば、古くなっていく建物を持つよりも、現金で持っている方が、価値が減らないような気がしますが、収益不動産を持つということは、投資であり経営です。投資であり経営であるということは、利益を出し、お金を残すことが大前提ですよね。
したがって、相続税対策だからと安易に建物を建てたり、不動産を購入したりするのではなく、しっかりと経営が成り立つかどうかを見極めることが重要だということです。その上で、相続税対策になれば一石二鳥ですし、その不動産を相続する人にとっても、引き継ぎやすくなるわけです。
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