高齢者地方移住最終_10022015

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急速な高齢化に直面する現代日本。高齢者の単独世帯は増加の一途をたどり、住む地域によっては自宅近くに介護サービスや病院などの医療機関がなく、生活に支障をきたしているケースもある。

とくに地方においては、これらは深刻な問題である。このような状況の中、政府はコンパクトシティという新しい街づくりを提唱・推進している。コンパクトシティとは、医療・福祉・商業等の生活機能を確保し、高齢者が安心して暮らせるような街づくりのことだ。

この新しい街づくりは現在どのような状況にあり、今後はどのように展開していくのだろうか。さらに、地方の人口はどう変化していくのか。認定NPO法人 ふるさと回帰支援センター代表理事の高橋公氏に話を伺った。

郊外にマイホーム、通勤は都内へ――昔の街づくりが今になって問題に

「コンパクトシティ構想の背景には、高齢化による持続可能性の低下の問題があります。周知の通り、日本は高度経済成長期で爆発的な経済成長を遂げました。都心にオフィスなどを集積し、郊外の宅地化を次々と進めてきたのです。その結果、郊外に住み、都心に通勤する生活が一般的になり、いわゆるドーナツ化現象が起こりました」

このスタイルの街づくりは、高度経済成長期では機能していたが、高齢化が進むにつれて、次第に限界に達していった。自動車や鉄道による移動を前提とした街づくりを行ったため、加齢によって移動が困難になった高齢者が、生活に支障をきたすようになったのだ。

限界集落という言葉を聞いたことがあるだろうか。人口の大半を高齢者が占め、街としての存続が困難になっている集落のことを指す。とりわけ地方においては深刻で、たとえば徳島県三好市のように、約4割という高齢化率の高さゆえに対策が急務になっている地域が全国各地に多数存在する。

同市の高齢化が深刻なエリアは山間部に位置しているため、商業施設や病院などが近隣にないなど、地域の持続可能性が危ぶまれる問題が山積している。こうした背景を鑑みて、政府は中心市街地に生活に必要な環境を整えて、安心して暮らせる新しい街づくり、すなわちコンパクトシティの推進を始めるに至ったのだ。

「昔でいう城下町のようなイメージと言って良いかもしれません。人を中心市街地に集め、商業施設や役所などの行政サービスをその周りに配置するイメージを持っていただけると理解していただきやすいでしょうか」


行政と住民とのコミュニケーション不足でコンパクトシティ化が進まない

コンパクトシティ化はとても理想的な取り組みのように思えるが、現実には順調に進んでいない。その背景の一つに「既得権益がコンパクトシティの妨げになっている」と高橋氏は指摘する。

郊外から中心市街地へ人を動かすとなると、すでに建設された商業施設なども移動させる必要がある。口で言うのは容易いが、これが計画推進の大きな壁となっているのは事実だ。

誘致を受けた企業としては収益性を懸念するだろうし、賃料の高い中心市街地への移動に抵抗を示すのは想像に難くない。行政側としても、企業を誘致したという事実があるため、移動してほしいとそう簡単には言い出せない

「コンパクトシティの必要性は認知され始めているものの、しっかりとした議論が行われていない印象を受けます。このような問題こそ政府の『まち・ひと・しごと創生本部』の言う総合戦略策定の中で、しっかり議論される必要があるでしょう」

高齢社会問題や3.11をきっかけとした地方回帰の動きにより、住環境に対する国民の意識が変わっていることは事実だ。しかし、このことについて行政と地域住民とのコミュニケーションが上手く進んでいないのは問題だ。

実際に、コンパクトシティについて批判的な住民の声が聞かれるケースもある。行政の思惑としては、商業施設や住宅を市街地に集積したいものの、車社会が当たり前になり郊外に街が広がっている現状もあり、住民のコンパクトシティ化に対する抵抗は未だ大きい。理想像としては理解できても、実情とかけ離れている施策は受け入れられないのだ。行政のひとり歩きにならないよう、行政と住民の積極的な意見交換は必要だろう。

コンパクトシティと住宅政策はセット! 注目される地方の空き家活用

課題を抱えるコンパクトシティ化だが、仮に実現した場合、どのような変化が起きるのだろうか。

「高齢者にとっては間違いなく暮らしやすい社会になります。生活に必要な施設がコンパクトな街に集積するので、従来のような自動車ありきの生活がなくなるでしょう。結果として、空気がきれいになったりするなど、高齢者が安心して生活できる持続可能な街になると思います」

コンパクトシティ導入によって、人口が増えるエリアと減るエリアの違いが、顕著に出てくることも考えられるのだろうか。

「高齢化の進み具合は地域によって様々なので、一概には言えません。どのエリアが良いかどうかではなく、コンパクトシティ化によって高齢者が暮らしやすい街づくりをできるかどうかが成否を分けるでしょう。20〜30年はかかると思いますが、街づくりが上手くいけば、自然と人が集まるという好循環は起こると考えられます」

また、コンパクトシティ化推進で注目されているのは、日本全国で約820万戸あると言われる空き家の活用だ。これらすべての空き家の保存状態が良いとは限らないため、中心市街地にあり、かつ保存状態の良い物件については、行政が改修してバリアフリー化するなど居住可能な状態にして、住民の住環境を整える動きが期待される。

一方で、保存状態が良くない、郊外や地方に存在する空き家は取り壊して更地にし、公園や地域のコミュニティ施設などに再利用することが期待される。コンパクトシティと住宅政策は切っても切れない問題と言えるだろう。

高度経済成長で急速に膨らんだ日本経済は、時を経て高齢化という形で縮小を余儀なくされている。そのような状況の中で提唱されたコンパクトシティ化。この新しい街づくりに対し、一人一人が関心を持ち、住民合意の街づくりの一環としてコンパクトシティ化が進むことで、ひいては高齢化社会という社会課題の解決につながるのではないだろうか。

高橋公氏プロフィール

raku9_15_高橋氏1947年生まれ、福島県出身。77年自治労本部入職、97年から自治労特別執行委員、連合へ出向、社会政策局長。現在はNPO法人ふるさと回帰支援センターhttp://www.furusatokaiki.net/)代表理事。

菅内閣新しい公共推進会議委員、農水省「食と地域の『絆』選定委員会委員、東日本大震災の義捐金配分決定委員会有識者代表委員、観光甲子園審査委員などを歴任。