昨今、不動産投資に新規参入する投資家が増え、コンサルティングやメンターなどの専門家にアドバイスをもらう人も増えているという。だが実際に不動産投資を行い、物件を運用していくのは、専門家ではなく投資家自身。もらったアドバイスを実践して成功すれば良いが、そんなことばかりでもないのがリアルな投資の世界である。今回、不動産コンサルなど専門家の意見を鵜呑みにして投資に失敗してしまった2名の方に、その顛末を取材した。
脱サラを志して、投資を始めることに
まずご登場いただいたのは、ある不動産コンサルから建築会社を紹介され、3年前に千葉県某市に鉄骨造3階建のデザイナーズマンションを建てたサラリーマンのHさん。早速、話しを聞いてみた。
――まず、投資を始めたきっかけを教えてください。
「父親がアパート経営をしていた関係で、不動産投資に興味を持ったのがきっかけです。ただ父自身は家族をまかなえる程度の収入があれば良いというタイプで、投資家というよりも気のいいおじいちゃん大家さんといった感じでした。
私としてはそれなりの自己資金もあり、相続税対策の目的で生前贈与された私名義の土地もあったので、そこの有効活用を考えたんです。実を言うと投資を始めたときには、すぐに脱サラするつもりだったのですが、あんな状態になってしまった今では辞めるに辞められません……」
――では具体的なその失敗談をお聞かせください。
「最初は、どうやって始めれば良いのか分かりませんでしたので、とある初心者向けの不動産投資セミナーに行ったんです。講師は投資関係の著書もある人でした。そこでは講演終了後に講師による無料相談会が開かれており、私はとりあえず自分の土地も含めた資産状況などを説明して、投資を始めたい旨を伝えました」
――その講師の方はなんとアドバイスをされたのですか?
「所有している土地はそれなりに資産価値があったので、そこを担保にすれば、1億円ほどは融資を受けられるのではとのことでした。そして私と似た境遇の方で、鉄骨造のデザイナーズマンションを建てて、それなりに成功しているという事例を示し、だいたいの建築コストや利回りなどについて説明してくれたんです。想定では、家賃収入は年に1200万円、利回りは10%ということでした」
――それを聞いてどう思われましたか?
「初心者にいきなり1億円とは驚きましたね。ただそのときは、もし本当に興味があるのならば、本格的なコンサル契約を結んでから具体的な相談に乗ると講師が言うので、いったん持ち帰って考えさせてくださいと伝え帰宅しました」
――その後はどうされたのですか?
「やはり一人だけではなく、他のコンサルの意見、つまりセカンドオピニオンも聞きたかったので、別の相談会に参加することにしたんです。それが過ちでした……」
魅力的だったセカンドオピニオン
――詳しくお聞かせください。
「後日、別のコンサルが開催している無料相談会に参加して、同じく資産状況などを説明しました。それで、初回のコンサルが教えてくれた事例を伝えると、それならばもっと良いやり方があると言ってきたんです」
――それはどんな意見だったのですか?
「そのコンサルによると、私の土地があるあたりで新築のデザイナーズマンションであれば、初回のコンサルのプランより2割ほど家賃を高く設定しても、入居者は集められるとのこと。そして具体的な利回りの話しとなり、さらに融通が効く知り合いの建築会社も紹介するので、もう少し建築費は抑えられると言うんです。つまり家賃を上げて、コストを下げれば、さらに収益性は上がるということです。
彼が言うには、投資額は1億1000万円にして、家賃収入は年1440万円、利回り13%ということでした。そりゃ、最初のプランよりも良く思えましたよ」
――そのセカンドオピニオンを採用したということですね?
「そうですね。2番目の講師とコンサル契約を結び、そのプランの通りに投資をスタートさせました。ところが実際にフタを開けてみれば、なかなか部屋は埋まらなかったのです。それでも月々の返済は迫ってくるし、税金も払わなければなりません。半年後には家賃を下げずにはいられなかったのです。結果、思うようなキャッシュフローが得られませんでした。そのままサラリーマンも辞められず、現在にいたっています」
――なぜそのような状況になったと思いますか?
「今、冷静になって考えれば、早く投資を始めて脱サラしたかったので、あのコンサルの話しにやや前のめりになっていた気がします。そんな私の焦りは見透かされていたのでしょう。それで、『今ある見積もりやプランを持ってきてください。診断いたします』とセカンドオピニオンをアドバイスするなど、寄り添っているフリをしていたのだと思います。
要はそのプランニングを見ることで私の懐具合を丸裸にすることができますからね。それで私からのコンサル料、700万円に加え、紹介した建築会社からはおそらくキックバックをもらっていたのでしょうね。あとは知らんぷりです。知識も乏しく、経験もゼロなくせに、欲に溺れた私が悪いとは思ってますけどね。今はローンはなんとか返せていますが、空室次第では……、というところです」
――今後の脱サラについてはどのようにお考えですか?
「計画段階では税引前収入で600万円以上を見込んでいたので、脱サラも現実的に思えました。ですが現在、税引き後の手残りは、年間100万円にも満たない状況。到底脱サラするどころではありません。それでも、今後はきちんとした知識や正しい判断力を身につけ、いつかは脱サラの夢を叶えたいとも考えています」
Hさんは、早く投資を始めたいと焦っていたあまり、魅力的に思えたセカンドオピニオンを鵜呑みにしてしまい失敗したということだ。ではもう一方の例をみてみよう。
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