脱サラ社長最終_10172015

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不動産投資と聞くと「住居用として賃貸すること」を連想する人が多いだろう。しかし、店舗や事務所として貸し出すのも、不動産投資の一種だ。今回は店舗・事務所物件にフォーカスしたい。果たして一般の賃貸マンション・アパートと比べて手を出しやすいのか。また、店舗・事務所特有の管理の難しさはあるのか。

店舗・事務所物件やレンタルオフィスを中心に投資を行う「脱サラ社長」さんに、店舗・事務所物件選びのノウハウから押さえておきたい注意事項まで、豊富なエピソードをもとに話を伺った。

店舗・事務所用物件は掘り出し物と出会いやすい?

そもそも同氏はなぜ、一般の賃貸マンション・アパートではなく、店舗・事務所に狙いを定めて投資を進めているのだろうか。

「区分マンション・アパートからスタートして、人によっては戸建、一棟マンションへと順に手を出す人が多いと思いますが、私自身が『雑食』タイプだからでしょうね。そもそも店舗・事務所の投資物件は、不動産サイト内で検索しづらい下部に掲載されていますし、比較的目につきづらいのが特徴。言い換えると、原石がたくさん転がっているのです」

そう断った上で、大きなきっかけがあったと同氏は振り返る。

「私の本業は小売業で、起業したての頃、50平米の賃貸マンションに事務所を構えました。事業が成長するにつれスペースが手狭になり、近隣の120平米のRC事務所を購入したのです。しばらくして、そこも狭くなってしまい、同じマンション内で数倍広い物件を購入しました。結果、120平米の物件が余ってしまったので、そこを貸し出すことにしたのです」

しかし、都心ではなく埼玉県内の住宅街にあり、一般事務所として貸し出すには面積が広すぎることから、需要はあまりないと判断。そこでひらめいたのが、レンタルオフィスとして貸し出すことだった。


スモールスタートできるレンタルオフィス需要は高い

物件をレンタルオフィスとして細かく区切って貸し出すとニーズがあり、稼働率が格段に上がったのです。可能性を感じて、都心部の物件にも目を向けるようになりました。同時期には渋谷の事務所物件(区分)を購入・リフォームし、一般事務所として賃貸し、半年ほどでオーナーチェンジで売却しました」

その頃、東京都港区にも事務所物件を購入した同氏。立地は申し分ないものの、いびつで使いづらい地型のせいか、安く購入できたという。

「使いにくさをカバーすべく賃料を下げないと入居がないので、そこもレンタルオフィスにしました。小さく区切るとムダを削減でき、結果的に平米効率が上がるのです。賃料は平均坪単価の倍はとれます。貸すほうも借りるほうもWin-Winなのが、レンタルオフィスの特徴です。

当時レンタルオフィスが成功したのは、一人で起業される方に『安価に借りられる』とウケたからだと思います。コピー機やネット回線などのインフラも揃っているので一から自分で揃える必要がなく、初期投資にかける費用も少なくなります。資金的に余裕のない起業家にとっては重宝するでしょう。

一方で、今となってはレンタルオフィスはかなり飽和気味のため、プラスアルファの付加価値を持たせたり、物件を安価に取得したりしない限り、黒字運営を実現するのは難しいと思います。ちなみに私は、レンタルオフィスは表面利回り25%、実質利回り15%程度で、一般事務所は表面利回り12%、実質利回り9%程度で運用しています」

同氏の経験上、レンタルオフィスとして貸し出した場合、平均して1年程度は入居するようだ。退去する場合には主に2パターンあり、事業が上手くいかず撤退するケース、逆に事業が好調で正式なオフィスを構えるために移転するケースのどちらかだという。

駅近、道路付け、築年数……事務所物件選びで重視すべきは何?

では、事務所投資初心者が物件を選ぶ際、どのようなことに気をつけると良いのだろうか。「都心部にあり、最低10年は使えるような物件でないと厳しい」と同氏は指摘する。

築37年くらいまでのRC物件で、金額と立地のバランスが合えば、選択肢に入れます。それ以上築古になると、投資回収ができなくなりますから。駅からの距離は徒歩5分以内が目安ですが、理想は3〜4分以内でしょう。駅近というメリットがあれば、築古でも借り手はつきます。ただし、家賃は抑えめにする必要がありますね」

築年数が浅ければ「駅から徒歩10分以内の物件を選ぶのもありだろう」と同氏は話すが、築古物件を選ぶことが多いため、重要視するのは駅近であるかどうかだ。

「必ずそうしろ、というわけではありませんが、できれば道路付けの良さも考慮に入れることをおすすめします。建物前に8〜10m幅以上の道路があると、車で事務所を訪れるお客さまに与えるイメージも良くなるでしょう」

一方で事務所物件は、不動産投資初心者にとって難しい側面もある。一度契約すると入居期間は長くなるが、一般の賃貸物件と比較すると、なかなか入居者が現れないからだ。株式投資で言うと「ボラティリティ(価格の変動性)が高い、つまりギャンブル性が高いということでもある。

実際、同氏も最初の事務所物件は、あまり上手くいかなかった。事務所ニーズの高くないエリアに物件を所有していた要素が大きいが、都心部でも築40年を超えていたり、立地が良くなかったりする事務所物件はニーズが少なくなるだろう。


リフォーム費用の安さも事務所物件の魅力

事務所物件ならではのメリットとデメリットも理解しておきたい。同氏は主要なメリットとして「リフォーム費用の安さ」を挙げる。

60平米弱の事務所物件(都内23区)の改装費に200万円、同程度の面積の区分マンション(同、住居用)のフルリフォーム費に500万円かかりました。比べてみるとわかる通り、事務所物件のほうが、リフォーム費用が圧倒的に安くつきます」

一般の賃貸物件をフルリフォームするとなると、バスルームやキッチン、洗面台など、複数の水回りをリフォームし、1部屋に1台ずつエアコンを設置し、床のフローリングを張り替えるなど、多額のコストがかかる。

対して、事務所物件は一続きの空間をリフォームするケースが多く、床はタイルカーペットやクッションフロアなどの安価な素材を用いて、エアコン設置も1〜2台程度で済むなど、コストを抑えられることがわかる。さらに、前出のように「入居期間が長くなることが多い」のも、メリットの一つだ。

「僕が所有する神田の区分店舗で、車関連の店の入居が決まりました。好立地ですが築古なので、内装費用をかなりかけたようです。それもあり『最低でも10年はここで商売をしたい』とおっしゃっていましたね。

店が黒字化すれば10年かそれ以上商売を続けてくれるでしょう。長く入居いただければ、こちらも新規の入居者を探したり、クリーニングやリフォームをしたりする必要もなく、手がかかりません」

詐欺グループに住所を汚されるリスクも

一方で、この「管理のラクさ」はデメリットにもつながる。店舗で赤字が続いた場合は、当然入居期間が短くなる。また、一般の賃貸物件のように、入居者がすんなり決まるわけでもない。リターンは大きいが、そのぶんリスクも高い投資であることを忘れてはならないだろう。同氏は衝撃的なエピソードも打ち明けてくれた。

「所有する埼玉の物件で室外機の盗難に遭いました。店舗や事務所の入った物件ではハイパワーが必要なので、大きな室外機を設置しています。サイズが大きければ大きいほど高く売れるので、室外機泥棒に盗まれやすいのです。保険に加入していれば実害はありませんが、そういうリスクもあると頭に入れておくと良いでしょう」

このほかにも、詐欺グループがバーチャルオフィスとして利用するために入居してくるリスクもあるという。契約時にはあくまで普通の会社だと偽装しているのが特徴だ。

「以前、社長と称する年配の男性が、かなり若い部下と一緒にバーチャルオフィスの契約をしにきたことがありました。部下が中心となって話を進めていて、社長は絶えずオドオドしていて、今振り返ると弱みを握られていたか、お金で雇われていたかといった印象でした。住民票や登記簿謄本で法人が実在していることを確認しましたが、後になって投資詐欺をしている会社だとわかりました。当時は確認の目が行き届かず、入居させてしまったのですが……」

その投資詐欺会社の本社住所は千代田区の某有名ビルだったが、調べてみるとそこもレンタルオフィスで、バーチャルオフィスとして契約していたという。そのグループが起こした投資詐欺の被害額は、なんと2400万円。同氏は、住所や電話番号を貸していたということで、詐欺集団と連名で被告に祭り上げられた。反論する中で結果として訴訟は取り下げにはなったが、後の運営にはどのような影響があるのだろうか。

「契約書に記載した禁止行為があると退去してもらうことができますが、後で警察が来ていろいろ聞かれることになります。金銭的には賃料1〜2カ月分ほど損をしますね。それ以上に『住所が汚れるリスク』のほうが大きいと思います。なお、賃貸物件を利用してレンタルオフィスを運営する場合は、住所が汚れたことがわかると、オーナーから退去を求められるリスクもあり、設備投資がパーになる可能性もあります」

一度、詐欺グループなどが入居し、何らかの騒動があったレンタルオフィスは、ネット上にその記録が残ってしまい、それが消えることはない。入居を検討する人が過去の情報を見て、「このレンタルオフィスはやめておこう」と躊躇する可能性は低くないだろう。いわゆる「心理的瑕疵あり物件」に近い物件になってしまうのだ。最後に、店舗・事務所物件以外に、現在注目している投資対象先について尋ねてみた。

バイク駐車場ですね。都内に2箇所持っています。最近、中年ライダーが増えているので、高級なハーレーやバイクを停める場所があると良いのでは、と考えました。片方は満車で、もう一方は空きがあります。セキュリティ面を強化すると、さらに需要が高まりそうなので、実験してみたいですね」

不動産投資=一般の賃貸、だけではない。まだ人があまり目をつけていない市場で挑戦すると、大きな勝負ができるかもしれない。

脱サラ社長さんプロフィール

本業で小売業を展開する傍ら、副業で不動産投資を行う。店舗・事務所用物件を中心に「雑食」な投資スタイルが特徴。