必殺大家人最終_10062015

写真© bluehand-Fotolia

530戸の物件を自主管理する人気ブロガー、必殺大家人さん。あらゆるトラブルに立ち向かってきた必殺大家人さんだけに、これまで大家さんを困らせるトンデモ入居者にもたくさん遭遇している。

今回は、そんなトンデモ入居者の中から、「警察に逮捕されてしまった入居者、ワースト3」をピックアップ。大家さんであれば、誰にでも起こり得る事態であり、決して他人事ではないのも事実だ。逮捕にあたってどんな問題を起こしたのか、また、入居者が逮捕されたら、その部屋はどうなってしまうのか? 入居者の荷物、家賃の支払いは? その対処法まで詳しくレポートする。

ワースト3 
普段は温和な優良入居者が酒乱で豹変

数々のトラブルを解決し、海千山千の入居者と渡り合ってきた必殺大家人さん。今回、お伺いしたのは「入居者の逮捕」について。所有物件が事件に巻き込まれる可能性は、物件を所有する限り、起こりうるリスクでもある。

実際に必殺大家人さんが遭遇した、「警察に捕まった入居者」をワースト3から順に、紹介していこう。

ワースト3は現在進行中の事件。入居して1年程たったときに、警察から入居者が傷害で逮捕されたという連絡があった。50代の1人暮らしの男性で、家賃滞納もなければ、トラブルもない優良な入居者だった。

「アパートの部屋に入ったことがありますが、非常にキレイにしており、几帳面な人という印象でした。それが、ある日突然逮捕されました。聞いてみたらケンカです。普段は温和な性格なのに、お酒が入ると豹変する酒乱らしいのです」

酒乱といっても大きな事件をおこすでもなく、小さい傷害事件を重ねており、再犯ということで実刑となった。

「留置場に面会に行ったところ、反省の色もあります。家賃滞納もないので、『今回だけは』ということで、出所するまで無料で家財道具を預かることにしました。荷物は、心理的瑕疵のある『開かずの間』に保管しています。無料での荷物預かりですが、強制執行すること考えれば、安くつきますから」

訴訟から強制執行と正式な手順を踏んでいくと、どんなに早く進めても3、4カ月かかり、半年程度の家賃は損失となる。

「このケースでは30万円くらいかかるでしょう。この30万円と秤にかけて、この場合は入居者も、基本的には問題のない方だったので、荷物預かりの判断をしました」

なお、任意での明け渡しであれば、民間の引越し業者に依頼ができるため、荷物の運び出しもさほどコストはかからない。このケースでは、6畳に4畳半、3畳のキッチンという小ぶりな2Kアパートということもあり、3万円で済んだという。

留置場から、反省する気持ちを綴った手紙が何通も送られてきたという(※クリックで拡大)


ワースト2 
畳に包丁を突き刺す、隣の家の屋根に穴を開けるなどの異常行動

ワースト2は覚せい剤で捕まった元暴力団員で60歳代の生活保護者。覚せい剤は初犯であれば執行猶予がつくが、再犯の場合は実刑となる場合が多い。入居していたのは、築50年の4階建てのマンション。入居者のえり好みができるような物件ではなく、逮捕者はその3階に住んでいた。

「その方は、どうも刑務所を出たり入ったりしていたようです。マンションの隣には2階建ての戸建て住宅が並んでいるのですが、3階の自室から隣の屋根へとびおりたことで通報されて、逮捕となりました。その前から『部屋に蟻が出る』というクレームがあり、部屋の様子を見に行くと、畳に包丁を突き刺していました。どうやら幻覚が出ているようなので、これは警察に相談しに行かないといけないな……と思った矢先の出来事でした」

逮捕されたのは入居して半年後のこと。そもそも犯罪者の場合は再犯率が高く、つまり逮捕されて家賃を滞納される可能性も高い。また、とくに覚せい剤の中毒者についていえば、幻覚が出ることで、騒いでまわりに迷惑をかけることもある。

「入居者が飛び降りたお隣の家は屋根に穴が開いたこともあり、激怒しています。『お前の入居者だから、屋根の修理費は大家が支払うべきだ!』と、言い争いになりました。そのときに『あなたは何の車に乗っていますか?』と聞いたところ、『スズキのワゴンRだ』という話で、私は『あなたが事故をおこしたときに、スズキは責任とりますか』と返しました」

隣人からすれば「入居審査を厳しくしろ」ということだが、大家は入れたくて問題入居者を入れているわけではない。入居審査で犯罪歴を問う欄はないのが現実だ。

「入居申込者に聞いたところで『犯罪歴はありません』と言われたら、引き下がるしかありません。たとえば、本当におかしな人であれば、顔を見て話せばわかるものです。でも、『入居者の面接したい』といえば、仲介業者がいやがります。面接があって面倒だからと、優良な入居者まで連れてこなくなれば大変です」

そもそも3階から隣の戸建てに飛び降りることを予測するのは不可能だ。

「この問題の責任は飛び降りた入居者にあり、大家に請求されても困ります。しかし、お隣の方は完全な被害者であるのは事実で、結局、私が修理代を負担して屋根を直しました。その後、近くの警察署に面会に行って話を聞いたところ、この入居者は初犯ではないため、実刑は間違いないという話でした。そこで部屋を明け渡して欲しいとお願いしたら、『わしもよりどころがないから、差し入れで2万円くれないか』と懇願されました」

2万円支払うということで、荷物は処分していいという一筆をもらい、すんなり決着がついた。どうして現金が欲しいかといえば、それは刑務所もお金次第だから。石鹸ひとつタオルひとつとっても、支給品より市販品がよく、お金がある方が快適に刑務所暮らしを送ることができる。そのため犯罪者も必死になる。

「こういったことは、やくざものの方が慣れていると思います。こちらとしても、裁判を考えるよりは、数万円払って明け渡してもらった方がスムーズに行きます。そもそも、彼らは荷物に執着心がないようです。出所したら、自立のための保護施設に一旦入り、そこからまた生活保護を受けて、改めて布団やテレビ、洗濯機といった家財道具を揃え直すのです。それを国が面倒みてくれますから、そういうことに慣れているのです」

処分した荷物。1人暮らしの荷物はさほど多くない


ワースト1 
退去拒否の上に、難癖をつけて金銭を要求。裁判にまでもつれた男

入居者の逮捕でもっとも困ることは、退去をしてくれないケース。過去に入居者にインターネット通販詐欺で捕まった男がいた。

30代の生活保護者で、インターネットオークション上で家電を販売するものの商品を送らず、被害届が出て捕まりました。落札者が静岡ということで、静岡の警察から私に連絡がありました」

逮捕されるまではあっさりしたものだったが、その後の明け渡しをかたくなに拒み、結果的に裁判を行うことになった

「部屋の明け渡しに対して、とにかくごねるのです。支離滅裂なんですが、『お前は生活保護者相手に取り込み詐欺を行っている』とか、被害妄想で難癖をつけて、ファイル1冊になるくらい大量の手紙を送ってくるのです」

客付会社と必殺大家さんに対し、『詐欺をしている』と訴える入居者(※クリックで拡大)

文句を言いながらも、お金の無心をする手紙(※クリックで拡大)

(※クリックで拡大)

金銭が目的でのクレームで、明け渡し交渉に対して一歩も譲らない。この場合は、裁判を行って強制執行で退去させるしかない。

「そもそも警察に捕まると、取り調べを受けます。その時点では警察署内の留置所にいて、面会することもできます。次に取り調べが終わると検察庁に送検されます。そこで留置所から拘置所に写り、裁判を待つのです。最終的に懲役何年という判決が出たところで刑務所に入ります」

一般的には警察から逮捕拘留されたところで、大家へ連絡が入る。契約書のコピーを求められてはじめて入居者の逮捕に気づく。

「警察は留置所から拘置所までは、どこにいるのか所在を教えてくれます。しかし、刑務所は教えてくれません。入居者逮捕の一番の問題は、拘留されている間、家賃を払われなくなることです。そのため、入居者に交渉や訴訟を行うのであれば、拘置所にいる間にしないといけません

○逮捕された入居者の動き

留置所……逮捕直後。警察への連絡で確認可能

拘置所……裁判を待つ間。警察への連絡で確認可能

刑務所……判決が出たら移送。弁護士に依頼しなければ所在は不明となる

この詐欺のケースでは、とにかく不動産オーナーから金をとりたい、その一心で明け渡しを拒んでいたらしい。裁判には時間もコストかかるため、ゴネ得ということがわかっている逮捕者は、大家が折れて、お金を包んでくれることを望んでいるというのだ。

結局、らちが明かないため、正式な手続きを踏んで、明け渡し訴訟を行った。そして、強制執行で退去させたにもかかわらず、出所後、電話がかかってきて、「大事なものを返せ!」と言われたそうだ。相当なモンスター入居者と言えるだろう。

○明け渡し訴訟から強制執行の流れ

催告と解除の通知(内容証明郵便の送付)……3カ月程度の家賃滞納がなくてはいけない

裁判……被告(入居者)は出廷しないケースが多い

判決……裁判からおおよそ1週間後。被告に対しては郵送で送達する

強制執行の申立て……判決に送達証明書などの必要書類を添えて建物明け渡しの強制執行の申立てを行う

強制執行……執行官と共に行う。執行補助者という専門業者が荷物を運び出す(自分で手配することも可能)

費用は弁護士に依頼すれば100万円、自分でやると実費10万円+半年家賃が必要となる。重要なポイントとしては、大家の勝手な判断で荷物を処分してはいけないということ。

「一昔前の大家さんの考えで、『警察に捕まるようなやつの荷物は捨ててもいいだろう』と、勝手に捨ててしまうケースがあります。私のまわりでは、犯罪で捕まった人が、弁護士を使ってゆすってくるケースもありました」

そういうときほど慎重に、法に従って対応すべきと、必殺大家人さんは強調する。

送達証明書などの書類をそろえ、強制執行となる


入居者が逮捕されたとき、保証会社はあてにできない

ここで疑問が浮かぶ。保証会社と契約している場合、入居者の逮捕における家賃滞納に対して、代理弁済はなされるのだろうか。

多くの保証会社は、契約書に『入居者が逮捕・拘留されたときに契約解除する』と明記しています。つまり、保証会社と契約しているから安心ということはありません。

こうなると、家賃価格帯や物件タイプに関係なくリスクはあるのですが、高所得者、属性がよくなれば、まわりに家族がいて犯罪者を助けるケースが多いのです。つまり、家族が契約して住み続けるケースや、退去する場合でも、家族が荷物を引き取りにくる……というフォローがあります。その点、低所得の犯罪者はまわりに助けてくれる人がいないことが多く、その分、大家としてリスクが高まります

つまり、低所得者向けの物件を所有する大家さんであれば、誰にでも起こりうる事態だ。そのため、こういった問題入居者に対応する力をつけておくことが大事だと必殺大家人さんは言う。

「入居者によっては、ワースト1のケースのようにゆさぶりをかけてくることがありますが、きちんと対応することで部屋を明け渡してもらうことが可能です」

現実問題として、大家としての対応は、事件にもよるところも大きい。詐欺や覚せい剤、殺人事件など一概には言えない部分があり、必殺大家人さんのように、ケースバイケースで対応していくべきだろう。

もし、全国的なニュースになる事件が起きたら?

なお全国的にニュースになるような大きな事件では勝手が変わる。必殺大家人さんの物件では、全国区のニュースになるような誘拐事件の犯人が居住していたケースがあるそうだ。

「事件が大きいと弁護士が出てくる可能性が高くなります。明け渡しに関して言えば、代理人が立つことで、逆にスムーズに進みます。問題は、大きな事件が起こると、ニュースなどの報道で、物件が晒されることです。報道各社に『出さないでください』といわないとメディアに露出してしまいます。私は、『該当マンションには子どもたちがたくさん住んでいるから、全景はやめてください。その代わりドアは映していいです』と、交渉しました」

実際問題、事件にはなんら関係のない入居者が住んでいる住宅をテレビに映すのは問題があり、最近は全体にモザイクかけて報道されていることも多い。

「こうした入居者の逮捕は、大家さんにとって避けたい事態です。しかし、八方ふさがりになるわけではないことを知ってください。打つ手がないトラブルというのは困りますが、このケースでは、大家さんにも取れる行動があり、最終的には強制執行が可能なので、必ず解決します」

もちろん、こうした入居者がいないに越したことはないが、必要以上に怖がることもない。手順を踏むことで解決する道はある。まずは、任意で退去してもらえるよう話合い、それが無理なら明け渡し訴訟に進んでいく

実は、他の揉めごとで退去させるのは、もっと難しい。逮捕されて家賃が払えないということは、比較的スムーズな退去となる。これが家族やまわりが家賃を払って助ければ、退去させることはできない。問題のある入居者について言えば、逮捕は退去のチャンスともいえるのだ。

必殺大家人さんプロフィール

大家歴11年、18棟530戸を所有。家賃滞納裁判から給湯器の入れ替えまで、全て自分で行っている自主管理大家さん。管理の日々を綴った「自主管理大家の日々」は不動産投資ブログランキングで、常に上位をキープする人気ブログ。各地でセミナーを開催しています。

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