重説IT化最終2_10072015

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平成27年8月31日から試験的にスタートした重要事項説明のIT化(以下、重説IT化)。重説は対面で1時間以上かけて行われるため、宅地建物取引業者・買い手側ともに大きな負担となっていた。

このような状況の中、IT重説可能物件に限り、インターネットを通じて重説を行う取り組みが始まった。重説IT化が不動産業界全体にどのような影響をもたらすのか。実際に試験運用に参加した、さくらグローバルアセット株式会社の安孫子友紀氏に率直な話を伺った。

なお、試験運用は始まったばかりであり、取材時には事例がなかったことから、予想を交えての内容であることを断っておきたい。

重説IT化のメリットとデメリットは?

スタートして間もない重説IT化の試験運用。宅地建物取引業者・買い手側にはどのようなメリットとデメリットがあるのだろうか。

メリットとしては、物件を購入されるお客さまが宅地建物取引業者のもとへ足を運ぶ必要がなくなることが一番に挙げられます。私たち業者側としても、お客さまにご足労をおかけせずに済むため気が楽ですね」

書類に書かれた事項を説明してもらうために、何度も不動産業者を訪れるのは正直なところ面倒なもの。投資家としても、購入を検討する物件の内見のほか、重説に時間を割くのは避けたいところだ。業者側としても、客に何度も足を運んでもらう必要がなくなることで、心理的負担が軽減するというのが本音である。

「重説をネットで行うことで、海外の投資家にとっても大きなメリットがあります。海外の投資家が物件を購入される場合、契約までに何度も来日するのは大きな手間になっていました。契約までにはたくさんの時間を費やしますが、重説だけでもネットを通じて行えると、投資家の負担は大きく軽減できます。こうしたメリットを勘案し、弊社では重説IT化の試験運用への参加を決意しました。

もちろん、海外だけでなく国内でも大きなメリットが考えられます。弊社は東京だけではなく、全国の不動産を取り扱っております。たとえば、東京にいる投資家が大阪や福岡の物件を購入するとき、以前は現地へ行って重説を受ける必要があったため、移動を伴う大きな負担をおかけしていました。重説をネットで行うことで、東京にいながらネット経由で重説を受けられるため、物件購入の利便性が大きくアップするケースが増えると予想しています。

国内のみならず、グローバルでの不動産ビジネスに変化を起こせるのではないかと、安孫子氏は期待感を示す。ただし、現段階においてネットでの重説が可能なのは、法人間限定の売買契約と個人を含めた賃貸契約である点に注意したい。一方で、デメリットとしてはどのような点が挙げられるだろうか。


「当然のことながら、ネット接続の確認を業者、お客さまの双方で行う必要があります。また、重説IT化には録画が義務付けられているため、録画がきちんとされているかの動作確認作業など、対面での重説では発生しなかった作業を行う必要も出てくるでしょう。ネット回線不備による頻繁な中断は双方のストレスになるほか、信用問題にもなりかねませんので、接続確認は避けられません

弊社ではSkypeを利用する予定ですが、使いにくさを感じた場合は別のツールを検討しております。このように、実際には重説そのものより、ネット接続の確認作業に多くの時間を費やすため、対面に比べて2〜3倍の時間を要するのではないかと感じています」

やはり、ネットならではの確認作業の多さが懸念点になっているようだ。実際に、重説IT化が行われるにあたり、不動産業者側には以下のようなフローが発生する。

① ネットによる重説
ネット環境の確認のほか、ネット重説完了直後と契約6カ月後に国土交通省指定のアンケート回答が必要になる。その旨を事前に周知し、承諾を得る。

② 必要書類の準備
原本を郵送する前に、誤字脱字の有無や関係法令の確認を行う。

③ 重要事項説明書原本の作成、郵送作業
事前確認で問題がなければ原本を作成、郵送する。ネット重説実施前までには客側の手元に届くようにする。

④ 客側の身分証明書の準備
現段階ではネット重説は売買契約の場合、法人間でのみ認められているため、登記事項証明書、印鑑登録証明書などの書類を事前に準備してもらう。

⑤ 個人情報保護法に関する書類の準備
重要事項説明書や売買契約書、図面など不動産契約書類の種類は多く、字も細かい。細かな字で書かれた書類の字をネット上でどれだけ正確に伝えられるかが課題となる。皮肉にもIT化によって、かえって時間がかかる可能性もあるといえる。

また、ネットが不得手な利用者にとっては、大きな負担となることは想像に難くない。対面で行わなくて良くなったことは事実だが、重説という作業そのものがなくなるわけではないため、何かしらの手間は避けられないのが現状だ。果たして重説IT化を進める意義はあるのだろうか。


重説IT化で管理会社の受注件数が増える!?

「個人的な意見になりますが、重説のIT化はアリだと思います」と安孫子氏は前向きな展望を示した。さまざまなことがネットを通じて行われるようになっている昨今、長い間重説のネット化が行われずにいたことが不思議でもある。この動きは、国内の不動産投資業界にどのような影響を与えるだろうか。

ネット化によって、海外の投資家が日本の不動産を購入しやすくなり、業界が活性化するのではないかと思います。そうした中、物件の購入のみならず、購入後に物件の管理や修繕などが、日本国内の不動産管理会社に委託される機会が増えるでしょう。

管理会社としては受注が増える機会となりますし、管理の行き届いた物件は新たな投資物件として選択されやすくなり、収益物件として機能するという好循環が生まれるはずです」

重説のIT化によって新たな商機も見込めるのだ。メリットとデメリットが懸念される中で試験導入がスタートした重説IT化。課題はあるものの、ネットを使ってあらゆることが可能な現代社会において、重説IT化は必然の動きのようにも思える。

社会実験は平成29年1月末までを予定しているが、国土交通省 土地・建設産業局 不動産業課の和田進吾氏は「半年に1回程度開催する社会実験の検証検討会で結果の検証を行い、場合によっては期間を短縮する可能性もあります」と話す。試験導入で良い結果が出て、本格導入が前倒しになるか、改善が必要となり先延ばしになるか、どのような展開になるのか注目したい。

安孫子友紀氏プロフィール

重説_安孫子様さくらグローバルアセット株式会社(http://sakura-ga.es-ws.jp/)営業推進・広報担当。宅地建物取引士、管理業務主任者。

不動産売買営業(仲介、建売等)、収益物件(オフィスビル、店舗等)賃貸営業・管理を経験し、現在は、「国内不動産売買・賃貸仲介、管理」「海外投資家向け不動産売買」「不動産アドバイザー」の3本柱を中心に不動産全般の業務を行う。

異種業コラボについて準備中で、社名にある「グローバル」に業種を超え、海外にも目を向け、全世界的に貢献できる企業として活動を続ける。