物件チェック2最終_11092015

数ある不動産を見るとき、プロの投資家たちはどういった視点で買うかどうかを考えるのだろうか。販売価格や利回り、立地などさまざまな要素がある中で、見方は人それぞれ違うはずだ。そして、その見方こそ不動産投資を成功させる秘訣に他ならない。

そこで今回は、2人のプロが同じ物件をチェック。価格や利回りの妥当性など、5つのチェックポイントによる分析を依頼した。その中でプロの見方を披露するとともに、最後に「買い度」を5点満点で算出。買いかどうかを判断してもらった。

地方都市、ファミリー向けならではのチェック法とは?

今回も物件チェックでその見方を披露していただいたのは、以下の2人。いずれも不動産投資で成功している敏腕投資家だ。

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■築古アパート派:広之内友輝さん

自己破産寸前から、築古ボロ物件を再生し、15棟188戸まで築き上げた投資家。年間家賃収入は7000万円を超える。

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■大型RC派:内本智子さん

独学で不動産を勉強し、現在では大型のRC 物件を中心に5棟132室を所有・運営する。家賃収入は年間9000万円を超える。

2人のプロには、事前にあるひとつの物件を提示。両者に同じだけの情報を与えて、物件の評価をしていただいた。今回対象となった物件は、「地方都市・ファミリー向けの一棟売りマンション」だ。

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※写真はイメージです

所在地

栃木県宇都宮市

沿線交通

東武宇都宮線、駅徒歩35分

販売価格

約5500万円

表面利回り

約8.6%

満室時年収

約470万円(約40万円/月)

物件種別

一棟RCマンション(3DK×6戸/3階建て)

築年月

築16年程度

間取り

3DK

土地権利

所有権

現況

賃貸中

プロ2人はこの物件を見て、(1)販売価格(2)利回りの妥当性(3)所在地(4)築年数(5)建材・設備という5つの視点からその価値を判定。最後に、総合的な「買い度」を出した。ではさっそく、この物件に対する2人の評価を、5つの視点から見ていきたい。

(1)販売価格について

広之内さん
「初めて収益物件を買う初心者や、本物件の積算評価を活用して自己資金を抑えたい、あるいは属性にそれほど自信を持てない人にとっては、RC構造の築16年で1億を超えない価格は訴求力があると考えます。金融機関や属性によって異なりますが、25年の長期融資やフルローンを狙えるのではないでしょうか。

その形で計算してみましょう。自己資金は諸費用分の500万円のみとし、物件購入費は5500万円のフルローン(返済25年、金利2.4%とする)なら、返済は月額24万4000円。収入が39万3000円/月、管理費5%を除くと、手取りはおよそ13万円弱ですね。

年間キャッシュフローは150万円程度ですから、固定資産税を引いても、CCR(実際に費やした自己資金に対する手取り収入の割合)は20%以上確保できるので、好感が持てます。あまり経験や自己資金がない方にとっては、1棟目の物件として組み立て可能なポテンシャルでしょう。

逆に実績のある投資家なら、もう少しリスク&リターンをとって、利益を最大化するべき。売却理由を仲介会社から聞いたり、登記簿の乙欄から債務関係を調査したりして、利回り9%に狙いを定めて250万円までの価格交渉に挑戦しても良いかもしれません。まとめると、やや値下げを狙いたいですが、前向きになれる価格設定だと考えます」

内本さん
「このエリアの近隣の路線価を元に、銀行から見た積算価格概算を出してみます。この地点の近隣の路線価は、4万円/㎡ほどですので、

・土地価格 約830(土地面積)×4(路線価)=約3320万円
・建物価格 約330(建物面積)×20(RCの再調達価格)÷47(法定耐用年数)×31(残存年数)=約4353万円

→2つの合計 約7673万円(銀行から見た積算評価額概算)

地方RC物件(ファミリー向け)では、積算評価>売値という現象がときどき見られます。本物件もそのケースに当てはまっています。土地価格:建物価格=3:4くらいで、土地・建物価格のバランスも良いと思います」

CCRが高く、初心者にとっても買いやすい物件と判断した広之内さん価格だけでなく、ローン設計の可能性にも言及している。内本さん計算式も物件購入時の試算では欠かせないものなので、頭に入れておきたい。


(2)利回りの妥当性について

広之内さん
「利回りを確定させる重要な要素は、家賃設定の妥当性。大手賃貸サイトの家賃相場を参照すると、宇都宮市3DKの家賃相場は5万8000円〜6万2000円程度です。

また、この物件には駐車場がありますが、月極駐車場の相場は雀宮周辺で4000円前後。駐車場代を4000円×12台×12ヶ月=57万6000円として、満室時の年収から引くと、1部屋あたりの賃料は5万8000円あまり。家賃設定に無理はないと思います。

また、ファミリー物件は入居年数が長くなるため、単身向けに比べて安定収入を得やすいもの。宇都宮市家賃相場を賃貸サイトなどで調べても、ここ数年は安定しており、返済年数期間における入居付けの展望はあると感じます。

さらに見逃せないのは、3DKのファミリー物件でまだ築16年と法定耐用年数を残していながら、利回り8.5%以上を得ていること。ファミリー物件は建築費が高いため、低利回りになりがち。そう考えると、これは好印象です」

内本さん
「ファミリー物件ですので、部屋の広さに比べて家賃は取れません。それを踏まえた上で周辺の家賃相場から考えると、築16年、3DK、55㎡のマンション家賃が、6万3000円(共益費・駐車場代込み)というのは妥当ではないでしょうか。

繰り返しになりますが、ファミリー物件のため、広さに比べて家賃が取れません。利回りを考えると価格設定はやや高い印象で、本来なら利回り9%は欲しいところ。となると、家賃は妥当ですから、販売価格をもっと下げて5040万円くらいにしたいですね」

好意的な評価をした広之内さんに対し、内本さんは「もう少し利回りを高くすべき」という意見。このあたりは、投資家がどれだけのリターンを望むかによっても変わってくるだろう。

(3)所在地について

広之内さん
「本物件は、人口50万人を超えてなお人口増を続ける栃木県宇都宮市の南部に位置しています。近隣の雀宮駅は1日あたり4400人あまりの利用者数、江曽島駅の乗降者数は2300人あまりと落ち着いています。

物件周辺には国道があり、施設としても駐屯地や工場、さらにその関連企業があり、中期的にはある程度安定した住宅ニーズが見込まれるエリアです。

ひとつ気になるのは、今年9月に氾濫した鬼怒川に合流する川(一級河川)が付近にあること。ハザードマップを見ると、氾濫した場合は物件近隣までが、浸水予想地域に指定されています。水害保険加入は必須でしょう」

内本さん
「栃木県宇都宮市は、県No.1の中核都市。最寄駅から徒歩35分ですが、地方都市は車移動が基本なので、駐車場があればマイナスポイントではありません。物件近くを国道が通っており、交通の便も良し。しかも3DKのファミリー物件なので、需給バランスは崩れていないでしょう」

県都の宇都宮市だけあって、立地は2人とも高評価。とはいえ、2人の分析を見ると、災害への対応や都心との交通事情の違いなど、柔軟な視点で判断することの大切さを痛感する。


(4)築年数について

広之内さん
RC造で築16年は好印象。屋上防水が気になるくらいで、大規模修繕は蓄積されるキャッシュフローで補える範囲でしょう。これは販売価格の見極めにも通じます」

内本さん
「RC造で築16年なので、そろそろ大規模修繕が必要になります。売主様に確認して、大規模修繕を実施していない場合は、価格交渉の材料にできると思います」

大規模修繕はキャッシュフローで補えるという広之内さんと、むしろそれで値引きを狙う内本さん。どちらも販売価格の判断に通じているのは大切なポイントだ。

(5)建材や設備などについて

広之内さん
地方都市は車社会ですから、駐車場12台確保はとても好印象。ファミリー向けなので、2台ずつというのは良いですね。家賃の価格帯からいっても、共働き家庭の入居が想定されるので、2台は必須です。

RC造で注意すべきはエレベーター。毎月の電気代やメンテナンス・部品交換などで金食い虫になることが多いです。しかし本物件にはエレベーターが付いていないので、それもプラスです。

ただし確認すべきは、間取り変更ができるかどうか。3DKよりも部屋を広げた2LDKの方が人気の傾向にあるので、買う前にリフォーム業者を連れて、壁梁や耐力壁を確認してもらい、間取りを変えられるか見ておきましょう」

内本さん
「大規模修繕の話につながりますが、屋上防水工事や外壁塗装、共用部塗装、給湯器交換が必要になるはず。屋上防水工事だけで150〜200万円、給湯器は追い焚き付きで90〜120万円(6部屋分)ほどかかりそうです。外壁塗装も2〜3年以内に実施する必要があるでしょう」

買う前からすでにリフォームを視野に入れる広之内さんと、大規模修繕での費用を想定する内本さん。可能性の広げ方とリスクへの対処は、さすがプロというところだろう。


高評価ながら、あくまで「慎重」な判断

5項目をチェックしたプロ2人。最後に、総合的な「買い度」を5点満点で評価してもらった。

広之内さん 買い度4点(条件付き)

「チェック項目の(3)〜(5)は4点と高評価。あとは収益性です。まず通常の金融機関では、2~3割の自己資金を使います。例えば1000万円の自己資金で諸費用が500万円だと、融資は5000万円です。

25年返済、2.4%金利と考えて、管理費5%を引くと、手取り月収は15万円程度、年間キャッシュフローは180万円程度、固定資産税を引くと満室でも150万円前後。結果、CCRは15%程度、自己資金を回収するのに6年半かかります。これが許容できる範囲かがひとつのモノサシです」

内本さん 買い度3〜4点

「現状の販売価格5500万円ですと、買い度は3点。屋上防水工事などの大規模修繕をしているか調べて、もしやっていなければ価格交渉を。それが成功し、5000万円程度で購入できれば、買い度は4点になります」

各項目を見る限りでは、おおむね好評だった2人。それでも買い度を容易に上げることはなく、あくまで「条件付き」の4点となった。物件を買うときには、それだけ慎重になる必要があるということだろう。また、細かな価格交渉の方法など、プロらしい妥協しない姿勢も伝わってきた。

目の前の物件に対し、どのような視点でどういった評価をしていくか。慎重に、そして最後まで最良の選択肢を見つける努力をすることが不可欠だ。