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老後貧乏に陥らないよう、働いている間に毎月の給料をきちんと貯金するのは一般的。自分の資産を銀行に預けておくことで、「安心」と考える人は少なくないはず。
しかし、古くから「資産は分散させておくべき」というように、自分の資産を「現金だけ」で残すことにはリスクがあるようだ。
では、なぜ資産を分散させる必要があるのか。なぜ資産が現金だけだとリスクになるのか。FPオフィス・モリタを運営する、ファイナンシャルプランナーの森田和子さんに聞いた。
現金のみの人と、資産を分散させた人とで何が違う?
冒頭でも述べたように、昔から資産を分散させることは重要だと考えられてきた。そして森田さんによれば、ここ数年はその重要性を痛感する期間だったという。「今こそ、資産分散の重要性を皆さんにわかってもらいたい」と、森田さんは言う。
「たとえば数年前にまとまったお金があったとき、それを定期預金に預けた人と、株に換えた人とでは、そのお金の価値に大きな差が生まれているはずです。アベノミクスが行われたことにより、政策前と今とでは、株なら倍以上の差になっていたかもしれません」
また、同じ「お金」という資産でも、日本円として保有していたか、アメリカドルとして保有していたかで大きな差が出たのは確実。アベノミクス前は1ドル80円台だったものが、今では1ドル110円台となっている。アメリカドルで保有していれば、価値上昇の恩恵を受けられたのだ。
一方、銀行預金の金利は非常に低い。そのため、普通に貯金していた人と、株やアメリカドルに資産を換えていた人とでは、まったく違う資産価値の変化が起きている。「資産分散の重要性を痛感する期間」というのは、このことなのだ。
「とはいえ、もしも今と逆の事態が起きていたら、資産を現金のまま持っている人が勝ち組でした。何より重要なのは、こういった経済の動向は読めないということ。プロでも外すのが珍しくありません。リスク回避になるからこそ、資産分散をすべきなんです」
「資産分散がリスク回避になる」の真意は?
資産分散がリスク回避になるとはどういう意味なのか。森田さんが説明する。
「自国の通貨が不安定な国では、自分の貯金を他国の通貨に換えて保有している人がいます。日本はもちろんそこまで緊迫した状況ではありませんが、今後、日本円が何らかの悪い事態に見舞われる可能性は決してゼロではありません。
そのときに急いで他の資産へ移行しようとしても、慣れていないのですぐに行動できるとは限りません」
たとえば老後の資金を銀行に貯金しておく場合、何十年というスパンで見る必要がある。長い期間で考えれば、その間に日本円の価値がどのように変化するかわからない。不安定とまではいかなくても、インフレなどが続けば、預けている間に日本円の価値は目減りしてしまうのだ。
森田さんは、「いろいろな資産に分散させて、リスクに備えるのが大切。『資産は円の現金だけ』という感覚は持たない方が良いでしょう」と語る。
インフレ・デフレに対応する「資産三分法」
では、資産の分散を考えたとき、具対的にどのような形で分散させれば良いのだろうか。森田さんは「資産三分法」を例に挙げる。
「昔から、資産は『現金』『株』『不動産』の3つに分けるべきと言われてきました。これを資産三分法というのですが、やはりこの形は理にかなっていると思います。
その理由としては、インフレとデフレに対するバランスが取れていることです。物価が安くなり、デフレ経済になれば『現金』の価値は上がりますし、一方で、物価が上昇しインフレになれば『株』『不動産』が強さを見せます。どちらにも対応できるので、相殺して目減りを防ぎやすいです」
資産を分散させるひとつの目的は、経済動向で資産価値が減少するのを防ぐこと。そのためには、デフレ・インフレの両方に対応できる資産の分散体制を作っておくことが重要だ。そういった意味で、昔から言われている資産三分法が有利なのだろう。
「『株』については、今はいろいろな金融商品があるので、株に限らず日本や海外の『投資資産』という位置付けで良いと思います。不動産は、自宅も含めた土地や不動産はもちん、投資用の不動産のことですね。『いざとなったら不動産を売る』という考えもあるでしょう」
金融商品や自宅などの不動産も含めて考えること。それが資産三分法のポイントといえるだろう。
退職金の落とし穴にはまらぬよう、現役世代のうちから勉強を
資産を分散させることが大切とはいえ、やみくもに手を出すことは厳禁。その点について、森田さんは自身の考えをこう述べる。
「もちろん資産分散はしてほしいですが、自分が理解できていないうちにやみくもに手を出したら逆効果。きちんと自分で勉強した上で考えてください」
自分の資産だからこそ、安易な発想で動かすのはNG。きちんと事前に準備した上でやることが必要だ。そう言うと、面倒くささからつい後回しにしてしまいがちだが、「わからないからやらない、理解できないからやめる、とはならずに、根気強く学んでほしい」と森田さんは言う。
「いつか急激に経済が変わるかもしれません。であれば、それに対応するためのウォーミングアップとして、早いうちから資産や投資などの知識に精通しておくことが大切。
今は世界中に投資することができるので、自分の視野を広げていくことも必要です。また、一般会社員の方は、やがて退職金として大金を手にします。このときに、どれだけ資産や投資への考え方が成熟しているかが重要なんです」
森田さんによれば、退職金をもらったときに舞い上がってしまい、適切な資産管理ができなかったり、安易な投資に走ってしまったりする事例があるという。
だからこそ、若いうちから資産について意識し勉強しておく意味があるのだという。資産価値が目減りするリスクを減らすために、そして、退職金などの管理を適切に行うために、今から資産分散を考えて、学び始めると良いだろう。
森田和子さんプロフィール
FPオフィス・モリタ 代表。IT企業、生命保険会社などを経て、1999年より現職。
CFP®認定者、一級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)、DCA(金融検定協会認定 確定拠出年金アドバイザー)など、数々の資格を保有する。
マイホーム購入や、大学を主とした進学費用準備、確定拠出年金といったテーマが得意。
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