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「投資」と聞くといろいろな手法が思い当たる。実際にネットで検索すると、自分の知らない投資方法の情報が転がっているものだ。

その中のひとつに「腕時計投資」というものがある。「腕時計投資」と聞いても、ピンとこない人がほとんどだろう。「すでにやっている」という人は少ないはずだ。一体どのようなものなのか。10年以上も前から腕時計投資を行い、『腕時計投資のすすめ』の著者でもある斉藤由貴生氏に、詳しい話を聞いた。

売値が買値の倍以上になることも? 腕時計投資のキホン

まず知りたいのは、腕時計投資がどういったものかということ。その概要について、斉藤氏はこう説明する。

腕時計を購入して、しばらく経ったら売却します。その際、売値が買値を上回れば利益になるというシンプルなものです。対象になるのはブランドものの腕時計で、基本的には中古品を買って、それを売るという手法ですね」

ブランドものの腕時計は、正規店で売っているものもあれば、「並行輸入ショップ」と呼ばれる安売り店で売っているものもある。並行輸入ショップでは、中古品を扱っており、そこで仕入れた時計を、相場の動きを見ながら売るのだという。

システムはいたってシンプルだが、果たしてそれが「投資」として成り立つのだろうか。


「ブランドものの腕時計は、確固たるブランドが丁寧に作り込んでいるものなので、年数が経っても価値は下がりにくいんです。むしろ、何十年と経って価格が上がることもあります

斉藤氏がこれまでに売却した腕時計は、20本以上に及ぶ。その中でもとくに利益が高かったものはと聞くと、こんなエピソードを教えてくれた。

「パテックフィリップ社のアクアノートという腕時計は、2002年に62万円で購入して、5年後に128万円で売却しました。利益は66万円で、利回りは21.2%です」

そのほか、パテックフィリップ社のクロノグラフWGは、230万円で購入し、4年後に490万円で売却。ロレックス社のGMTマスターは、24万8000円で買って62万円で売却している。

斉藤氏によれば、腕時計投資のスパンは「短期で半年ほど、長期で4〜5年」だという。腕時計を買ってから長くとも5年ほど所有して、その間の値上がり幅を、時計ショップの売り出し情報から見極めながら売却のタイミングを考えるようだ。

所有している間はとくにケアなどせず、「自分で使って楽しみます」という。それにしても、なぜ数年のスパンでこれほどまで腕時計の価値が変動するのだろうか。

人気と生産中止による「需給バランス」が相場を動かす

ブランド腕時計の値上がりによって利益を得る「腕時計投資」。しかしなぜ、腕時計はわずか数年で価値が大きく変わるのだろうか。斉藤氏はこう説明する。

「ブランド腕時計は嗜好品であり、必要に迫られて買うものではありません。お金持ちの趣味なんです。たとえば中古車の場合、5年落ちのベンツは価値が下がりますが、嗜好品のクラシックカーは価値が下がりづらい傾向にあります。

ブランド腕時計はクラシックカーと似ていて、価値が下がりづらく、むしろそのときどきの需給バランスによって変動しますね。そもそもブランド腕時計は生産数が少ないため、ちょっとした流行で需給バランスが変わりやすいんです」

腕時計の需給バランスを考える上で大切なのは、「人気」と「生産中止」だ。人気は、シンプルにその時計を求める人の数。その数が腕時計の品数を大きく上回れば、当然価値は高くなる。ブランド腕時計は生産数が少ないため、この現象がよく起きるようだ。

そして「生産中止」も重要。特定の腕時計が生産中止になると、供給が減るために価値が上がる。生産中止をブランドが発表することはないが、少し前から時計雑誌で流れたり、デビューからの年数を元に自分で予測したりするようで、それらをチェックすることが重要なようだ。

「そのほかに、金相場が価値を変えることもあります。金の含有量が多い腕時計は、時計から含有する金だけを取り出して売っても儲かりそうなケースもあります。いずれにしても、腕時計投資は株のようなもので、今後人気が出たり、貴重になったりする腕時計を選んで、それを事前に買っていくものなんです」

斉藤氏は、幼い頃からブランド腕時計を見るのが好きだったという。その趣味の中で腕時計の値上がりに着目し、この投資を始めた。まだ15歳の頃だ。そう考えると、私たちが投資できるものは、意外と身近にあるのかもしれない。


実力から生まれた人気なのか? それを見極めるのがコツ

値上がりする腕時計もあれば、逆に値下がりする腕時計もある。そういった腕時計の共通項は何か。斉藤氏はこう語る。

値下がりしやすい腕時計の特徴は、単純に人気がありすぎること。適正価格より高くなりすぎているなど、人気が天井の状態ですね。中でも、時計自体の実力ではない要素で人気が出ている腕時計は要注意です。

たとえば『有名人がつけている』などから始まった人気は、腕時計そのものの実力ではないので、やがて人気が落ちやすいんです」

そして、これらの傾向は、「土地を買う上でも同じなのでは」と斉藤氏は続ける。

「不動産投資については素人ですが、基本的に人気が高まりすぎている土地は、なかなかそれ以上に価値が上がりにくいですよね。とくに街自体の実力というより、イメージによって人気が上がっている街は要注意ではないでしょうか。これも『有名人が多く住んでいる』などが一例でしょう。

一方で、街並みが成熟し、ブランドが確立しているからこそ人気を保っている街もあります。そのあたりの人気と実力を見極めて、相場と照らし合わせる作業は、腕時計も土地も似ていると思います」

投資の概念としては、腕時計にしても土地にしても共通する部分はあるのかもしれない。現在の相場と適正価格、そして今後の価格動向を推測しながら行う腕時計投資。その中にある概念やコツは、不動産投資にもつながるのではないだろうか。

斉藤由貴生さんプロフィール

1986年生まれ。中学1年の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で受注。その資金を元手に高級腕時計を購入すると、中学3年より腕時計投資を考案した。なお、幼少期に母が離婚し、7000万円の借金を背負ってしまうが、高校卒業後これらの処理に成功。お金を使わず贅沢をする方法として、腕時計投資を推奨している。

・著書『腕時計投資のすすめ』
http://www.amazon.co.jp/dp/480220065X
・ブログ
http://www.udedokeitoushi.com/