住宅寿命_Snowshill-Fotolia

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欧米と比較したときの日本の住宅寿命の短さは、読者ならどこかで聞いたことがあるかもしれない。たしかに欧米に多い石造りの建物に比べて、日本の木造建築はイメージ的に寿命が短そうだ。しかし具体的にはどれくらい短く、そしてその理由はなんなのだろうか?

そこで今回は数多くの新築・改築相談を受けてこられた一級建築士の森岡篤先生に、欧米と日本の住宅寿命の違いとその理由についてお話を伺った。

「欧米」と「日本」の住宅寿命

「国土交通省が平成8年に発表したデータによればイギリスの平均住宅寿命は75年。アメリカが44年、日本が26年とされています。

ただ、これらの数値は『取り壊された建物』の平均寿命から算出されたもので、英国では築200〜300年という住宅もざらにありますから、おそらく実際の欧米の数値はこれよりも長いでしょう」

欧米の住宅寿命はさらに長いだろうと予測する森岡先生。対して、日本の住宅寿命はほぼこの統計通りとのこと。いったい、この差はなんなのだろうか?

「欧米」と「日本」のライフスタイルの違い

「このような差が生まれる理由のひとつは、ライフスタイルの違いです。欧米では親子の同居は普通ありえません。たとえば親は子供達が成長したら家を譲り、自分たちはマンションなどに移り住みます。一方、日本では多くの親が子供達と同居します。

すると、それまで住んでいた家はなにかと不都合ですから、更地にして新しく二世帯住宅を作ろうか……ということになるのです。ちょうど世代が交代する30年前後で家が取り壊されるわけですね」

さらに伺うと、戦後の日本の住宅がかつての襖や障子で仕切られたフレキシブルな家ではなく、壁で仕切られた個室のある家に変わったことも取り壊しが進む理由になっているという。

細かく仕切られた家を二世帯用にリフォームすると費用が軽く1000万円を超えてしまい、それくらいなら建替えよう……と考える顧客が少なくないからだ。


欧米の『ライフスタイル』を支える不動産市場

「欧米で二世帯同居が選ばれないのは介護制度や年金制度の影響も大きいのですが、特に不動産市場がポイントです。欧米では中古不動産市場が非常に活発で物件も豊富です。

ですから今まで住んでいた古い家に十分な値段がつき、そのお金で新しい家族構成にぴったりの住宅、すなわちライフスタイルにあった家を買うことができるのです。

ところが、残念ながら日本では中古の家に値段がつきません。子供が独立して夫婦二人になったからマンションに引っ越そうとしても、住んでいた家は更地にしなければ売れないほどです。

こうして中古の物件が市場に出回らないため、売れない・買えない……という悪循環が起きています。欧米のようにライフスタイルの変化に『住み替え』で対応するということができないのです」

背景にある決定的な要因……『価値観』

「このような違いの背景には『住み替えに抵抗感がなく、かつ古いものを好む』という欧米の人の価値観があります。そのために中古住宅の流通が活発化し、住まいの寿命も伸びています。これは環境に与える影響からも非常に好ましいことです。

一方、日本人は『土地に執着し、かつ新しいものを好む』傾向があります。つまり住み替えを選ばず、同じ土地に新しい家を建てたがるということですね。

この『新しい方がいい』という価値観には仕方がない面もあります。たとえば木造の家は古くなると汚れてみすぼらしくなってしまいますが、石造の家は何年経っても洗浄すれば新品同様によみがえります。

さらに欧米には地震が少なく、日本は地震が多いという問題もあります。1981年の耐震基準の改正によって、木造に限らずRC造の建物は耐震補強をしなければならなくなったのですが、補強は非常に見栄えが悪くなりますし、国・自治体も建替えを推奨したので多くが建替えを選択しました。

また相続税を支払うため、やむなく古い家を取り壊して分割したい……という相談も非常に多く寄せられます」

さまざまな理由から、日本の住宅寿命が短い理由が見えてきた。だが、それは環境に負荷をかけ続ける選択でもある。そのような時代が変わる可能性について、最後に伺ってみた。

「最近ではリノベーションということで、外観は古いまま内部を新しくする建物が若い世代を中心に人気を集めています。これが単なるブームで終わらなければ、次第に状況も変わってくるかもしれません」

建築側がどれほど工夫して長寿命な住宅を作っても、住む人が取り壊しを選択すればまったく意味がないという森岡先生。必要なのは中古住宅が健全に取引される市場であり、ぜひ投資家の方達には中古不動産に注目し、新たな市場を盛り上げて欲しいとのことであった。

(取材協力)森岡 篤

一級建築士事務所 有限会社パルティータ 代表取締役
一級建築士、構造一級建築士、東京建築士会会員

公式ホームページ http://www.partita.jp/index.html