事件物件_MaMi-Fotolia

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不動産を貸したり売ったりする人たちにとって、悩ましいのが「事故物件」の扱い。自殺や孤独死、あるいは殺人などが賃貸物件の一室で起きてしまった場合、それらをいつまで、そしてどの範囲まで入居希望者に説明すべきなのか、多くの人が悩むところである。

もちろん、そういった情報は入居希望者を遠ざける可能性もあるし、一方で説明しなければ、法に触れてしまうケースも考えられる。

そこで今回は、国土交通省の不動産業課に所属するSさんに、過去の判例から参考になりそうな3つのケースを紹介してもらった。なお、この記事においては、「自殺」に限定して考えてみたい。

1年数カ月前にあった自殺を、告知すべきかどうか

3つの判例を紹介する前に、まず大前提として「事故物件の告知義務に明確なルールはない」とSさんは前置きする。

「事故物件の告知をいつまで、そしてどこまでするか。その司法的な判断には、いろいろな要素が絡みます。自殺・他殺などの内容や経過の年月、そして、規模や地元住民の周知性などですね。

もちろん、物件の利用目的も影響するでしょう。判決はあくまでそれらを踏まえたものであり、ケースバイケースであることに注意してください」

事故物件の取り扱いに悩む最大の理由は、明確な判断基準がないこと。「自殺物件は○年の告知が必要」というガイドラインが存在しないからこそ、どこまで説明すべきか迷うのである。その基準はあくまでケースにより異なることを心に留めておきたい。

それでも、過去の判例を参考にすることは可能なはず。ということで、Sさんが紹介する判例を見てみたい。

これは、平成26年9月の大阪高判による判決だ。事件の詳細は以下である。

全129戸あるマンションの1戸で、1年数カ月前に自殺があった。その後、マンションの所有権は移るとともに賃貸されることになったが、賃貸借契約を締結する際に1年数カ月前の自殺があったことを告げなかった。この裁判は、告知がなかったことに対してのものだ。判決について、Sさんが説明する。

「裁判では、『1年数カ月前に自殺があった事実は、当該建物を賃借して居住することを実際上困難にする可能性が高く、信義則上告知すべき義務があった』としました。あくまで『自殺の事実を知っていながら秘匿した』という前提での判断です」

この判決で最重要となるのは、まずその「期間」だ。1年数カ月では「契約の締結に影響を与える事項」であることから、告知する義務があるとされた。

そして他に重要なのは、「賃貸人が知っていた」ということ。裁判では「自殺の事実を知らなかった」と主張したようだが、それは退けられたという。もし本当に知らなければ判決が変わった可能性もあるが、「1年数カ月前に自殺した」という情報を知り得た限りは、それを告知する義務があったと判断されたわけだ。

「裁判で重視されるのは、『自殺の情報が契約に影響を与えたかどうか』です。影響を与えるならば、説明義務があるとみなされます。

ですから、たとえば物件購入や入居希望者が『過去に自殺はありませんでしたか』と聞いてきたら、調査して答えなければなりません。契約に影響することは確実だからです」

入居希望者が聞いてきた物件の情報を秘匿すれば、それは事故物件に限らず違法となる。その対処を忘れてはいけないだろう。

自殺物件の告知は「いつまで」必要か

先の判例において、「1年数カ月前の自殺」については告知の義務があるとされた。一方で、こんな判決もある。それは、借り上げ社宅として賃貸されていたマンションの1室で自殺が生じた案件。

賃貸人が損害賠償請求をした平成13年11月の裁判では、東京地判において、「本件自殺から2年程度経過すると瑕疵とは評価できず、他者に賃貸するにあたり告知義務を負わない」とされたのだった。Sさんは、この判例のポイントを以下のように語る。

「貸室における入居者の自殺については、少なくともその直後においては心理的瑕疵が存在すると通常考えられますが、この事例が起きたマンションは、大都市のシングル向け物件であり、入退居の回転が早い物件だったといえます。裁判ではその状況を考慮して、『2年以上は瑕疵にならない』と判断したんですね」

自殺物件の告知について「おおむね2年まで」という情報が各所で見られるが、その判断のもとになっているのはこれらの判決だろう。ただし、それは「大都市・シングル」という状況下であることも留意しておかなければならない。さらにSさんが説明を加える。

「たとえば自殺ではなく他殺の場合、事件の凄惨性が増す可能性が高いので、告知義務の期間はもっと伸びるかもしれません。事件性や住民の周知性が高まると、その分、告知義務の期間も伸びると考えてください。他殺で凄惨な事件の場合だと、50年経っても告知義務があるという判決もあります」

それでも、首都圏でのシングル物件を所有する人たちにとっては、この「2年以上は瑕疵と認められない」という判決が一定の参考になるだろう。

2人目の入居者、隣接する住戸への告知義務はあるか

ここまでは自殺のあった物件について、「いつまで告知義務があるか」をポイントに判例を紹介してきた。しかし、自殺物件の告知義務についてはまだ知りたいことがある。

それは、その部屋の入居者が2人目・3人目となっても告知の義務があるのかということ。そして、自殺した一室に隣接する住戸でも告知すべきなのかということだ。

そこでSさんが例を挙げたのが、平成19年8月の裁判。東京地判のものだ。賃貸アパートで賃借人が自殺したという事案について、この裁判では、2つのポイントについて明快な判断が下された。Sさんが解説する。

「まず1つ目のポイントは、何人目の入居者まで告知すべきかについて。この裁判では、自殺住戸への最初の入居者には説明義務があるものの、その次の入居者には、特段の事情がない限り告知する義務がないと判断されました。

そしてもう1つのポイントは、告知をする住戸の範囲について。この事案では、隣接する住戸について自殺があったことを告知する義務はないとされました」

なお、「その次の入居者には、特段の事情がない限り告知する義務がない」という中の「特段の事情」というのは、最初の入居者の入居期間が極端に短い、あまりに凄惨で周知性が高い事件、などが挙げられるという。

どちらにしても、「何人目の入居者まで告知すべきか」「隣接住戸にも告知すべきか」という疑問に対して、ひとつの参考になる判決といえよう。

不動産に関わる人からすれば、事故物件の明確なガイドラインを作ってほしいというのが本音だろう。ただ実際は、あくまでケースごとにいろいろな要素を見ながら司法が判断している状況であり、過去の判決は一例であっても、それをもとに「○年まで」などという線引きは簡単にできない状況だ。

もしも事故物件を扱うことになったなら、この3例だけでなくさまざまな判例を参考にしつつ、あまり冒険せず慎重に告知をしていったほうがいいだろう。軽率な判断は禁物と言える。