不動産が苦手_NOBU-Fotolia

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不動産投資と銀行は切っても切れない関係です。不動産を購入するにあたっては銀行から融資を受けることが多く、銀行との関係が不動産投資の成否を決定づけることもあります。

なので当然、銀行員は不動産に対する知識、経験ともに豊富であると思われがちですが、案外そうでも無いのです。実は「不動産が苦手」という銀行員は意外と多く、むしろほとんどの銀行員は不動産に対して苦手意識を持っているのです。

なぜ銀行員は不動産が苦手なのか

銀行員は実によく勉強しています。休日にファストフード店やカフェに行くと、マーカーで塗りつぶされた分厚い本と格闘するように勉強している人を見かけます。チラリとのぞき見すると、その本には「銀行業務検定」と書かれていることがしばしばあります

しかし、ほとんどの銀行員は自ら進んで勉強しているというわけではありません。試験に合格しなければ人事考課に悪影響が及ぶため、試験に合格するための勉強をしているというのが実態です。

銀行では銀行業務検定という業界資格の取得に力が入れられています。「法務」「財務」「税務」といった試験科目があり、銀行業務を処理するにあたり必要な知識が問われます。

しかし、こうした勉強は試験に合格することが目的で、必ずしも実務で役に立つとは限りません。試験に合格し、人事から高い評価を受けている銀行員が実務ではまるで役に立たない、という残念な話は銀行ではしばしばあるのです。


銀行が行員に求めるのは特定の分野に精通した人材では無く、広い分野にまんべんなく知識を持っているオールマイティな人材です。銀行員もそれをわかっているので、特定の分野で突出した成果を上げようとはしなくなります。

多くの行員はきっとこのように考えているはずです。「自分はたまたま今のポジションにいるだけ。次の異動では全く違う仕事を任されることになるかも知れない」。これでは良い仕事が出来るはずがありません。

そして銀行には、バブル期に不動産融資に傾注し多額の不良債権を出したというトラウマがあります。その反省を踏まえてか、あの頃とは全く違う環境になっています。与信判断もコンプライアンス面でのチェックも厳格になり、バブル期のような暴走は考えられません。

それでも銀行員のDNAには「不動産融資はこわいもの」というイメージが刷り込まれてしまったのです。減点主義の人事制度とも相まって、不動産融資にはあまり関わりたくないと思っている銀行員がたくさんいるのは残念なことです。

銀行員は不動産業者が苦手

「良い案件ですね。是非とも当行で融資させてください」と、笑顔で答えながらも銀行員の内心は不安で仕方ありません。この案件で上司や審査部からどんなことを言われるのか不安でならないのです。

そんな銀行員と対照的なのが不動産業者のバイタリティです。銀行員は仕事柄、さまざまな業種の方と接します。業種によって特徴は千差万別です。

しかし、これだけははっきりとしています。不動産業ほどバイタリティ溢れる業界はありません。ただし、それは一歩間違えると「強引」とも思える微妙なラインであることも少なからずあります。

不動産業者の収入は販売の成果によって大きく変わることが通常ですから、銀行員とは案件にかける思いが異なって当然です。銀行員にとっては「この案件はダメですね」で終わってしまう話であっても、不動産業者にとってはそうはいきません。案件の成否で収入が大きく変わるのですから。

こうした厳しい環境に身を置く彼らは銀行員にはない実務面での豊富な知識と経験を持っています。実は不動産業者は銀行員にとって手強い相手なのです。

そして何より銀行員にとって不動産業者は仕事をもらう相手です。オーバーバンキングが常態化し、どの銀行も貸出先を探すことに躍起になっています。どんなに金利が下がっても資金ニーズがそれに伴って増加しているわけではありません。

さらにマイナス金利で利ざやが縮小すれば、背に腹は替えられません。どんなに苦手な相手であっても、不動産融資の案件は喉から手が出るほど欲しいというのが実情です。


だから大家は何をすべきか

メガバンクから信用金庫に至るまで、金融機関は軒並み収益環境が悪化していることは事実です。どの金融機関も喉から手が出るほど融資案件が欲しくて仕方ありません。

だからといって、審査基準が甘くなることはありません。銀行は持ち込まれた案件について融資が完済されるまでの間の収益をシミュレーションします。

金利が上昇したときに返済が困難になることは無いか。定例的な保守管理や突発的な修繕費などが返済に影響を与えることが無いか。将来の家賃の落ち込みはどの程度なのか。持ち込まれる案件が事業として成功するかどうかなど、さまざまな条件でシミュレーションを行っています。

融資残高を増やすために基準をむやみに甘くすることは、結局はお客様にとっても良いことではありません。甘い見積もりの事業計画のせいで事業が破綻してしまっては元も子もありません。

それでも、難しい案件に対して「どうにか融資することは出来ないだろうか」という気持ちを銀行員が持つことで、状況は変わります。担保の価値が不足しているのであれば、他の方法でそれを補う方法を考えます。一時的に収支がマイナスとなる期間が発生しても、それを補う方策を検討することはできるはずです。

問題点を隠すのでは無く、積極的に問題点を解決する方策を互いに見つけ出す姿勢を打ち出すことで、銀行の姿勢は変化する可能性があります。銀行員が最も苦手とする不動産業者の知恵を借りるというのは武器になるのではないでしょうか。

大家さんがひとりで銀行と交渉するよりも、不動産業者も交えて交渉してみることは有効な手段のひとつです。