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みなさん、こんにちは! 不動産投資専門税理士の叶です。今回は、平成29年4月に予定されていた消費税増税が先送りされたことで、不動産投資家に与える影響について解説します。

なぜ消費税増税は先送りされたのか?

平成28年6月、消費税増税の延期が発表されましたね。もともと平成27年10月に現在の8%から10%に増税される予定だったのですが、平成29年4月に延期となり、そして今回、さらに2年半後の平成31年10月に再延期となりました。

延期された理由は色々とあるようですが、一番の原因は景気の低迷が理由と言われています。予定通りに消費税率を引き上げると、個人消費を再び下げることになって、デフレ脱却が危うくなるという考えなんですね。

始めの延期の時は、「再延期はしない!」と公約していたので、公約違反ともとれる決定ですが、公約より景気を優先した形となっています。


不動産投資家への影響は?

消費税増税の先送りは、消費者である個人にとっては、将来の社会保障などの財源不足に不安は残るものの、直近的には嬉しい話ですよね。

では、不動産投資家にとってはどうなのでしょう? これは、マンションやアパート等、居住用の物件を持っている人と、ビルや駐車場など、事業用の物件を持っている人で影響が異なります。

消費税には、課税売上と非課税売上があります。課税売上とは、次の条件を満たす売上です。

  1. 国内において行うもの
  2. 事業者が事業として行うもの
  3. 対価を得て行われるもの
  4. 資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供

この条件を見ると、日本国内で発生する売上は、そのほとんどが課税売上だということがわかりますね。

一方、非課税売上とは、本来は課税対象だが、取引の性格や社会的政策的な配慮から、非課税となっているもので、その一つに居住用の家賃が含まれます。

次に、消費税は次のような仕組みで納めます。

わかりやすくするために、八百屋さんになったと思って考えてみましょう。

○八百屋さんが農家から100円の野菜を仕入れてお客さんに200円で売った場合

計算式1この消費税8円はお客さんから預かっている消費税ですので、1年間にこの取引しかないと仮定すれば、この8円を確定申告で税務署に納めます。

消費税の仕組みがわかったところで、先の例を大家さんに置き換えてみましょう。

○大家さんがテナントから家賃10万円をもらって、水道光熱費2万円を支払った場合

計算式2

1年間にこの取引しかないと仮定すれば、6400円を確定申告で税務署に納めます。

では、消費税率が10%に引き上げられると、どうなるでしょう?

計算式3

1年間にこの取引しかないと仮定すれば、8000円を確定申告で税務署に納めます。

結局、大家さんの税抜利益8万円は、8%でも10%でも変わらず、テナントさんが増税分を負担する結果となります。

でも、この例が当てはまるのは、大家さんの中でも、課税売上となるビルや駐車場など、事業用の物件を持っている人です。

もしこれが、非課税売上となるマンションやアパート等、居住用の物件を持っている人だとどうなるのでしょう?


○大家さんが入居者から家賃10万円をもらって、水道光熱費2万円を支払った場合

 

計算式4

このケースだと、大家さんは1600円の消費税を自分で負担していることになります。

さらに消費税率が10%に引き上げられると、どうなるでしょう?

計算式5

先ほど大家さんが負担していた1600円の消費税が、10%になったことによって2000円になってしまいました。

このように、非課税売上が発生するマンションやアパートを持つ大家さんは、入居者さんに増税分を負担してもらうことができないので、経費の消費税が上昇した分、負担が大きくなるんですね。

従って今回の増税先送りは、事業用物件を持つ大家さんにとっては、どちらでも影響がありませんが、マンションやアパートを持つ大家さんにとっては、負担が大きくならないので、いい影響と言えます。

消費税還付を狙う投資家には悪影響?

ただし、これから物件購入を予定していて、消費税還付を狙う投資家にとっては、増税先送りは次のような影響があります。

例えば1億円の建物を購入するときに、消費税還付が成功すれば、現行の税率なら800万円が還ってきますが、消費税率がアップして10%となれば、1000万円が還ってくることになります。

その差額200万円! この差は建物の金額が大きくなればなるほど、開いていきます。

平成28年4月の消費税法改正で、これまでより消費税還付は難しくなったものの、成功すれば大きい金額が還ってくる消費税還付を狙う投資家にとっては、悪影響となっているんですね。