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「銀行は3時に営業が終了するので良いよね」銀行員はしばしばそう言われます。銀行員との会話の鉄板ネタというところでしょうか。

ご存じの通り、ほとんどの銀行の営業時間は午前9時から午後3時までです。なぜ、銀行の営業時間は9時から3時までなのでしょうか、そしてシャッターが閉まった銀行のなかで銀行員は何をしているのでしょうか。

そもそも、なぜ9時から3時なのか

なぜ多くの銀行が9時に営業をはじめ、午後3時に営業を終了するのでしょうか。銀行間の取り決め、古くからの商慣習などさまざまな答えが返ってきそうですね。

正解は法律で決められているのです。意外なことに銀行員でも法律によって銀行の営業時間が定められていることを知る人はごく少数です。「銀行法施行規則」第16条に「銀行の営業時間は、午前9時から午後3時までとする」とされているのです。

しかし、実際には3時以降も業務を行っている銀行もあります。決して法律に違反しているわけではありません。この法律には「前項の営業時間は都合により延長することができる」という但し書きがあるからです。

銀行業という職種は最も規制が厳しい業種のひとつです。新規参入に係る免許審査及や免許付与後の監督上の対応には厳しい法律の規制があります。箸の上げ下ろしまで監督官庁にお伺いを立てねばならないのが実情なのです。

「銀行はもっとサービス内容を工夫すべきだ」という指摘をお客様から頂くことがしばしばあります。「独自の個性的なサービスを提供すべきだ」という指摘も頂きます。

しかし、営業時間一つとっても、法律に縛られているのです。かつて「護送船団方式」と揶揄された硬直した銀行経営の在り方は、いまだに根本的には変わっていないのです。


3時以降が銀行員にとって本当の仕事時間

「3時以降銀行員は何をしているの?」という質問に対する答えとして、「むしろ3時以降お客様がいなくなってからが本当に忙しいんですよ」と、いうのがごくありきたりの回答です。

では銀行員は具体的に何をしているのでしょうか。

銀行の窓口ではお客様との間で資金のやり取りが行われます。1日にどれだけの資金が入ってきて、どれだけの資金が出ていったかということを集計し、銀行にどれだけの資金があるのかを計算します。計算上のお金の残高と現実のお金の残高が一致することを毎日確認しているのです。

この作業こそが銀行の信用の根源とも言えます。「お金が1円でも足りなければ銀行員は家へ帰れない」と言われるのはこの作業の結果、計算上のお金と現実に手許にあるお金が合致しないと言うことなのです。

お客様と銀行窓口でお金のやりとりが発生する場合、必ず伝票に基づいてお金が動きます。

銀行窓口でお金を入金する際には「入金伝票」、口座から出金する際には「出金伝票」の記入を求められます。銀行では伝票を伴わずに金が動くことは絶対にあり得ません。伝票に記入された金額と実際に動いた資金の金額が合っているかどうか、また実際の処理内容と合致しているか。

そういった照合作業が営業時間後に行われているのです。

シャッターが閉まった銀行のなかで行われているのはそれだけではありません。こうした照合作業以外のほかに、現金の輸送準備があります。

銀行の金庫には預金と同じだけの現金が準備されているわけではありません。全てのお客様が1度に全ての預金を引き出すという状況は想定しにくいからです。
預金を引き出すお客様もおられれば、預金を預けるお客様もおられます。

銀行のそれぞれの支店の状況にもよりますが、銀行の金庫には預金の数パーセント分の現金しか保管されていないのが一般的です。

銀行にとって不必要に現金を金庫に積み上げておくことは収益の悪化につながります。日本銀行の「マイナス金利政策」で話題になった日銀の当座預金。不必要な現金はこの当座預金に預けられたり、企業への融資や住宅ローンとして貸し付けられることになります。

このように、必要な額だけを残して、それ以外の現金は本店や現金の少ない支店に送られることになります。

また、銀行へ持ち込まれるのは現金だけではありません。手形や小切手、配当金、税金、交通違反の反則金などさまざまなものが銀行に持ち込まれます。

手形、小切手を手形交換所へ送付したり、税金や公共料金を管轄の官公庁や企業に送金するといった仕事も行います。シャッターが閉まった銀行のなかで行われているのはこうした作業なのです。


様変わりしつつある3時以降の仕事

多くの方が知りたがっているのは、上述した作業の内容であると思われます。私も何度もこうした質問を受け、こうした返答を行っています。そしてほとんどの場合、これが模範解答であるかのように質問した方は納得されます。

しかし、最近ではこうした様子に変化が見られるようになって来ました。

銀行にとってこうした作業は不可欠ではありますが、必ずしも収益を生み出す前向きな仕事ではありません。できることなら、こうしたことに人員や時間を割きたくないというのが本音です。

集計作業に手間がかからないように、かなりの部分で機械化、自動化が進んでいます。行員がミスを犯した結果、現金の過不足が発生するということは、以前に比べると格段に減っています。

現在の銀行ではそのような状況が発生することは稀です。

仮に現金の過不足が発生したとしても、いつ誰がどのような機械操作を行い、どのような現金の受け渡しを行ったかを瞬時に把握できるため、ミスの特定が容易に行えます。

1円の現金が足りないために日付が変わるまで銀行員全員がソロバン片手に集計作業をやり直すという光景はもはや昔話です。

銀行の「華」でもあった窓口の女性行員も大半はパートの女性に置き換わりました。勿論、その後方で事務をしている女性も同様です。全員が同じ制服を着ているので、判別することはできませんが、銀行のロビーで働いている女性の多くは今やパートというのが現状です。

では行員は何をしているのか? 投資信託などの金融商品の販売やローンや融資の獲得といった営業活動。そして融資の判断業務に従事しています。

一般的に銀行という業種は他の業種と比較して人件費が占める割合が高くなります。

「コストに見合った仕事をしているか」が厳しく問われる結果、行員にはできる限り生産性の低い仕事をさせなくなっています。

窓口での入出金や後方事務が生産性が低く重要性が乏しいと一様に言い放つことはできませんが、銀行を事業として捉え、コストという物差しで測れば、やむを得ないことかも知れません。

かつて銀行員は長時間勤務の代名詞でもありましたが、今ではすっかり様変わりしています。

延々と時間外勤務を続けるような銀行員は決して評価されません。シャッターが閉まった銀行の内側で銀行員は稟議や資料の作成といった作業に集中しています。この時間帯こそ銀行員にとって最も仕事に集中できる時間帯なのです。

だからこそ、必要書類を事前に準備してくれるお客様は貴重です。その分の時間を削減できるからです。投資家の皆さんも、銀行員の立場にたって行動することが、銀行員とのやり取りをスムーズに進める近道でしょう。