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長く不動産投資の経験を積んでいると、それなりの知恵やコツが蓄積されてくる。そろそろ本1冊書けるくらいのノウハウが溜まってきた、という読者も多いのではないだろうか。

自身が著者となって世に出した本がヒットすれば、当然印税収入も見込める。

2015年に芥川賞を受賞、現在200万部を超えるベストセラーとなっている『火花』(又吉直樹著/文藝春秋刊)の印税は2億円以上になるとの噂もあり、なんとも夢のある話だ。実際、不動産投資をテーマとしたビジネス書を書いて印税収入だけで生活する、なんてことは可能なのだろうか?

景気に左右されない! 常に一定のニーズがある不動産投資本

「金融に関するビジネス書の中でも、不動産投資というのは特殊な売れ方をしているジャンルです」と話すのは、数々のビジネス書を世に送り出してきた編集者の川辺秀美さん。

投資家の絶対数でいえば、一般的に不動産よりも株式の方が多いはず。しかし、川辺さんいわく、株関連書籍の売り上げは景気との連動性が非常に高く、市場の数字が極端に上がっているときか下がっているときでなければ部数は動かないのだという。

「一方、景気が良くても悪くても読者ニーズが常にあるのが不動産投資。大ヒットは多くないものの、一定の読者数をキープしています。これは他のジャンルにはあまり見られない傾向ですね。不動産投資家は読書好きが多いのかもしれません」

一定数売れるジャンルであれば、夢の印税生活も不可能ではないのでは? そんな淡い期待を抱いたのもつかの間、出版業界の現状を聞くと、それが決して簡単な道ではないと思い知らされる。


5千部売っても収入は45万円!? リアルな印税事情

「かつてビジネス書は3万部売れればベストセラーと言われていましたが、現在は2万部がヒットの目安。その原因は読書離れが進んで市場が縮小し、ビジネス書全般で見ても固定読者が減っているから。

特に最近は売り上げが二極化していて、全体の1割に満たない10万部以上のベストセラーと、残り8~9割の2万部以下の本に分かれる、という状況が2010年頃からずっと続いています。過去にベストセラーを出した著者が新刊を出したけどまったく売れない、なんてことも珍しくありません」

出版市場の縮小は、書き手の収入にもダイレクトに影響する。そもそも印税についての取り決めは出版社と著者の間で交わされるもので、こうしなければいけない、という法律的な決まりがない。

川辺さんの話では、かつて書籍の印税は「印刷部数×印税率」で計算するのが主流であったが、2000年頃からは「売上部数×印税率」で契約する出版社がほとんどではないか、とのこと。どれだけ本を刷っても、売れなければ印税は1円も入ってこないことになる。

「印税率10%で出版社と契約しても、印刷部数のうち4割が返本されてしまったら、印税収入は実質6%ですよね。それ以前に『印税率10%』というのも最近は減っていて、出版社にもよりますが6~8%くらいが多い

職業作家なら10%支払うこともありますが、そうでなければ印税率を下げられてしまう可能性が高い。書き手にとっては受難の時代ですね」

たとえば、1冊1500円のビジネス書を5千部刷ったとして、上記の話をもとに印税率を6%と想定して試算してみると、

1500円×5000冊×0.06=45万円

5千部すべて売り切ったとしても、印税収入はわずか45万円。さらにここから所得税や住民税などもろもろの税金が引かれると思うと……得られる金額は微々たるもの。しかしこれが印税収入の現実なのだ。


年間著作10冊のうち、1冊は必ずヒット……そのレベル感でようやく印税生活が叶う

とはいえ、印税生活を送っている人もゼロではないはず。実際、川辺さんがこれまで編集を担当してきた著者の中でも、印税だけで生計を立てている人はごくわずかながらいるそうだ。

しかし、それはあくまで職業作家の話。年間10冊以上の新刊をコンスタントに出し、そのうちの1冊は必ずヒットするような作家でなければ難しく、「一発でヒットするなんてことはまずない」と川辺さんは断言する。

ビジネス書はとにかくコンテンツありき。最近では『アドラー心理』を題材にした『嫌われる勇気』(岸見一郎著/ダイヤモンド社刊)が100万部を超えるベストセラーになりました。

これは元からニーズのある『人間の心理』をテーマに『アドラー』という新規性を出し、さらに読者に刺さる自己啓発的なタイトルをひねり出せたからこそのヒットだと思います。

王道のジャンルかつ新規性がある、これが売れる作品に共通していること。売れる企画を生み出すためには、常に時代のニーズを意識してセンサーを張り巡らせておかなければいけない。正直、かなりのセンスが必要になると思いますね」

一冊の本をベストセラーに育て上げるのは、ベテランの作家や編集者にとっても至難の業。生半可なやり方では決してヒット作は生まれないだろう。

やはり確実に収入を得たいなら、イチかバチかの印税生活を夢見るよりも、地道に投資生活を続ける方が得策といえそうだ。

川辺秀美さんプロフィール

クリエイティブ・プロデューサー、編集者、作家。株式会社クロスメディア・マーケティング所属。

ビジネス書をはじめ音楽書、科学書、写真集など幅広いジャンルの書籍編集に従事し、『ウケる技術』(水谷敬也ほか/新潮文庫)などのヒット作を生み出した。著書に『怒らない働き方』(新潮新書)、『空海 人生の言葉』(ディスカヴァー21)、『22歳からの国語力』(講談社現代新書)などがある。

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