地球から約38万km離れた位置にあり、地球以外に人類が唯一到達したことのある天体、月。直径は3474kmで地球の約1/4、太陽系の衛星の中では5番目に大きく、アフリカとオーストラリアを合わせたくらいの面積を持つ。
その月の土地が、現在販売されているという。なんともロマンチックな話だが、月の土地で不動産投資はできるのか、調べてみた。
月の土地は誰のもの?
月の土地を販売しているのは、アメリカルナエンバシー社。この会社の最高経営責任者デニス・ホープ氏は、月は誰のものかと考え宇宙に関する法律を調べて1967年に発効した宇宙条約にたどり着く。
この宇宙条約には、「いかなる政府も、月やその他の天体を専有してはならない」と明記されているが、企業や個人が天体についての権利を主張し、営利を目的に開発・利用、あるいは専有できるかどうかは、明記されていない。
合法的に月の販売をしようと考えていたホープ氏は、1980年にサンフランシスコの行政機関に所有権の申し立を行い受理される。さらに月の権利宣言書を作成し、国連、アメリカ、旧ソ連にこれを提出するも異議申し立て等がなかったため、月の土地を販売し権利書を発行するという、「地球外不動産業」をはじめた。
アメリカでは1996年から本格的にネット販売を開始し、元アメリカ合衆国大統領や有名ハリウッドスターも購入。日本ではルナエンバシージャパンが代理店となった2002年から販売され、15万人が月の土地のオーナーとなる。ちなみに、世界では175ヶ国130万人が月の土地を所有している。
結局できるの? 不動産投資
月の土地の権利書には有効期限はなく、一度登録した権利はアメリカルナエンバシー社が将来にわたりその権利を主張していくという。では、月の土地で不動産投資は可能なのか?
ルナエンバシーが発行する「月憲法」の権利宣言2.Cには、「あなたは、あなたの不動産を、最大10以内の範囲で再分割し、分割した不動産を、あなたが選択した人物、生物、企業に販売することができます」とある。10を超える再分割は違反となり、所有権が剥奪されるが、10以内に分割し販売することは可能なようだ。
しかし「月憲法」第4条には、「Lunar Embassy(リオ・ビスタ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)から、特に許可が与えられた場合を除いて、何人も、営利目的の取引を生じさせるという明確な目的を持って、所有する不動産を再分割してはならない」とある。
これを文面通りに受け取ると、月の土地を販売するのはいいが、営利目的であってはならない。つまり、利益を生むことを前提とする不動産投資はできない、ということになる。
月に土地を所有し、月を見上げ、自分の土地はどこにあるのかと空想しながら眺める。そんな夢のある商品として、楽しむのがいいのだろう。気になる値段は1エーカー(約1200坪)2700円と、破格の値段となっている。
ここはどう? 不動産投資、できる場所、できない場所
ここまではみんなのもの、と思われがちな月の土地について見てきたが、公共の土地や建物は誰のものか。所有者を調べ、不動産投資が可能か検討してみた。
○富士山の山頂
2013年6月に周辺地域と合わせて世界文化遺産に登録された、標高3776メートルの日本で一番高い山。富士山の3360メートルから上はなんと私有地だ。
となれば理論上は不動産投資も可能と考えられるが、所有者は全国に1300以上あり富士宮市宮町に総本宮を構える浅間神社。浅間神社が仮に土地を売るとなっても様々な困難が予想され、現実的に不動産投資は難しいだろう。
○無人島
島国の日本に、6000もあると言われる無人島。基本的に日本の無人島には、所有者が存在する。
中には販売に出されている無人島もあり、値段は2000万円~5億円。ローンが組めない場合もあるが、現金一括払いができれば不動産投資も可能と考えられる。
○東京駅
1914年(大正3年)に完成し2011年に改装された東京駅は、JR東日本とJR東海の区分所有となっている。
ちなみこの改装工事には500億円もの費用がかかり、東京駅は空中権を販売したが、実際に土地を販売する可能性は低く、不動産投資は不可能だろう。
○皇居
郵便番号100-0001、東京都千代田区千代田1-1。本籍として人気があり、2000人以上の人が本籍を置いていると言われる皇居。
皇居の所有者は国で、資産価値は土地と建物を合わせて約2146億4500万円と言われている。仮に皇居が売りに出されるとなっても富士山以上の困難が予想され、不動産投資は不可能と考えられる。
○城
ヨーロッパでは個人で城を所有するのはよくある話らしく、値段は数千万円~数億円。日本の城のほとんどは国や自治体が所有しているが、そうではない城もある。
犬山城は日本で唯一の個人所有の城であったが、2004年に財団法人犬山城白帝文庫(現在は公益財団法人)が所有者となっている。
中津城の場合、模擬天守等の城跡の建築物は中津勧業が、城址の土地は隣接する奥平神社がそれぞれ所有していたが、2010年に模擬天守などの建物のみ売却され、現在は民間企業が所有している(土地や展示物は有料で貸与されている)。
となると日本でも城を個人で所有し、不動産投資ができる可能性がある。
見てきたように公共の土地や建物は、必ずしも国や自治体が所有者ではなく、企業や個人の場合もある。であれば月の土地と異なり、販売に出されれば購入し、不動産投資することも不可能ではない。国有地や都道府県有地は、一般競争入札も行われている。
富士山や皇居など、多くの人たちの心の拠りどころになるものは、そこに様々な思いも集まる。いろいろな人たちの思いがそこに集まるからこそ、販売されても不動産投資に多くの困難が予想され、それ故に販売されることもないだろう。
だが同じく多くの人たちの心の拠りどころである月は、1200坪という広大な土地を格安で気軽に購入することができる。不動産投資はできないがまずは楽しむことを目的に、月の土地を買い夜空を眺めるのもいいかもしれない。
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