今回のご相談者は、千葉県にお住まいの大西倫子さんです。お勤めをしていましたが、3人目のお子様が生まれたばかりで現在は休職中とのこと。ご主人と共同名義で購入した自宅は、すでにご自身の分は完済済みという堅実な大西さん。投資家であったお祖父様の影響で不動産投資に目覚めたそうです。そんな大西さんのお悩みとは?
お名前 |
大西倫子さん(仮名) |
性別 |
女性 |
自己資金 |
500万円 |
ご職業 |
正社員(現在は育児休業中) |
ご年収 |
300万円 |
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居住地 |
千葉県 |
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ご自宅 |
自分と夫で1/2ずつ所有、自分のローン完済済み |
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所有投資物件 |
無し |
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不動産投資経験 |
勉強開始から4カ月 |
はじめに
不動産投資家であったお祖父様の影響で不動産投資家に目覚めた大西さん。近所にある馴染みのアパートが2000万円で売り出されているのを知り「意外に安い!」と感じたそうです。
これなら自分にも大家さんができるかも、と読んでみたのが石原さんの本でした。しかし、小さなお子様が3人、旦那様とは仕事の関係で別居中、協力は期待できません。さて、そんな大西さんに、石原さんはどのようなアドバイスをされるのでしょうか?
アクセス数はどれくらい大事? 地方アパートの需要はないのか!?
大西
石原さんの『まずはアパート一棟、買いなさい!』を読んで感銘を受けました。それにしても地方投資の「地方」というのが、どこまでのエリアなのかわかりません。
「いいな」と思える物件を見つけて、現地の客付業者にヒアリングしたところ「地方のアパートは需要がないから、止めておきなさい」とアドバイスされました。やはりアクセス数を重視した方が良いのでしょうか。
石原
拙書をご覧下さり、ありがとうございます! 地方であれ都心であれ、物件はお金を出せば買えますが、そこにお客様を招き入れて稼働させなければ収入につながりません。
僕の場合はまず地元の不動産屋さんへ電話で確認しています。商売をされているのだから、良い部分も認識していると同時に、悪い部分も知っています。
しかし前提として大西さんにもご認識頂きたいのは、回答下さる方々が売買に関わっていなければ、物件が売れようが売れまいが関係ありませんし、誠心誠意お応えする義理もありません。
もちろん管理を任せてもらえれば、その分に関して商売につながるかもしれませんが、いろんな背景を考えていくと、必ずしも正しいアドバイスが得られるとは限りません。ましてや大西さんについて、知識や経験、実力は分からない訳ですし……。
大西
なるほど。そのままストレートに受けとめる必要はないのですね。
石原
ですからまずは少しでも多くの話を聞くことをお勧めしています。その町の人口動態や、駅の乗降客数といった表面的な数字はネットで検索すれば調べられますが、それが賃貸にどのような影響を及ぼしているのかを確認します。
やはり、それは地元で商売をしている方でなければ本当のところはわからないですよね。「人口が増えた!」といっても、それを見込んで多くの競合物件が参入すれば供給過多になります。
それゆえに一歩踏み込んで、地場で商売をしている方や、実際に大家さんをしている方に聞くことが生きた情報収集につながると思います。
大西
今、購入を悩んでいる物件の相談をしても良いでしょうか。私は物件購入にあたって、問合せの電話を200件ほどしたのですが、現地の不動産屋さんで親切に物件を紹介してくださる業者さんがいます。
千葉県の東金市にある築40年の戸建てですが、4SLDKで価格は250万円です。もともとお医者さんの別荘でしたが、もう高齢なので使わなくなったから売り出されたそうです。
石原
部屋数が多いですね。延べ床面積はどれくらいでしょうか?
大西
建物が80平米で土地は120坪です。障子が破れているくらいでリフォームする必要もありません。駐車場は1台分ですが、田舎なので周りが空いています。
駅前にある数軒の不動産屋さんに賃貸相場を聞くと、「6~7万円なら入るし、戸建ての賃貸が少ないから大丈夫ですよ!」と言われました。
ただし下水は浄化槽で、その分メンテナンスがかかります。井戸なので電動ポンプも壊れたりすると修理費がかかります。これがいい物件なのかわからないのです。
紹介してくださるその業者さんが客付けから管理までしてくれるそうです。親切な方で「管理料はいらないよ」と言ってくれています。
石原
とても親身になってくれていますね。
大西
もともと東金市でアパートを買おうと思っていて問い合わせたら、「こんな田舎でアパートに入る人は収入が不安定だからやめなさい。それよりも戸建てにしなさい!」とアドバイスされました。
「家賃保証と保険は入っておき、もし何かあれば確認しておきますから」とまで言ってくれるのです。私にとってはうますぎる話なので怪しく感じます。それで免許証番号を確認したら (7)でした。
宅地建物取引業免許証に記載される「免許番号」の数字から、会社の営業年数を知ることができる。免許番号は1995年までは3年ごとに、1996年以降は5年ごとに1つずつ増える。
石原
老舗ならではの安心感がありますね。
大西
建物は良さそうですが、土台がどれほど悪くなっているのか心配です。見た感じは悪くありませんし浄化槽も問題はありません。
石原
基礎周りにヒビが入っているか確認しましたか?
大西
はい、大丈夫でした。壁や屋根にも問題はなく、雨漏りもしていません。
石原
長年に渡って空室であれば、水道が使われておらず、そのため昔よく使用されていた白管なら錆びて痛んでいる場合があります。水道の蛇口はひねって確認しましたか?
大西
しっかり水が出ました。心配なのはキッチン周りが汚いことです。その親切な不動産屋さんが「工事をしましょう!」と、プロパン会社に交渉してくださり、オーナーの負担なく修繕してもらえることになりました。さらにキッチンのくたびれ具合を根拠に、購入金額を280万円から250万円に下げてくれました。
石原
至れり尽くせりですね!
大西
はい。東金市という地域が不安でしたが、そこで買っても大丈夫でしょうか?
石原
その親切な不動産屋さんや、他の業者さんも口をそろえて言うように、戸建てなら需要もあり6~7万円の家賃が取れるのなら大丈夫でしょう。駐車場を広げてペット可にすれば7万円はいけるかもしれませんよ。
大西
それが他の不動産屋さんは6~7万円の家賃がとれると言ってくれるのです。しかし、物件を紹介してくれた不動産屋さんは「いや、そんなに取れない。4万5000円が限界だから、この値段で早く埋めましょう」と言います。
「5万円の家賃を払える人なら、そもそも戸建てを自分で建てる。7万円も払って住む人なんていません」という主張なのです。
石原
なるほど決めつけてしまうのですね。地元で長く商売しているからといって、金甌無欠(きんおうむけつ)の情報を把握されているとは限りません。もちろんお客様は付けやすいでしょうけれど。
大西
そのようなこともありお願いしてよいものか、それとも客付から管理は他の業者さんへお願いしていいものか。「管理料なしでいいよ」と言ってくれていますが、これが有料でしたら「他社で客付しますね」と断りやすいのですが。
石原
家賃が4万5000円ならば、相場よりも安いからお客様をつける自信があるのでしょう。
大西
おそらく家賃を高く見せないでおいた方が、後で何か言われずに済むということもあると思います。その人はネットワークもあるようで、生活保護の人をお世話して客付けをしています。
石原
あ、なるほど!生活保護受給者をターゲットにしているわけですね。合点がいきました。それならば家賃に上限がありますから。
生活保護受給者の家賃負担は「住宅扶助」といって、市町村ごとに上限が決まっている。
大西
「部屋の中で亡くなることもあるから覚悟しておいた方がいい」とも言われました。
石原
年配の方ですと全ての大家さんが受け入れてくれるわけでもありませんから、さらに需要がありそうです。
大西
そのターゲットに決め打ちも悪くありませんが、もっとお家賃が頂ける可能性を考えると悩ましいです。「6~7万円で決まるのを1年も待つより早く入居を決めた方がいい」という考え方なのかと思うのですが…。
石原
それでも仕入れ値が安いから、とりあえずその方のルートで何軒か買いすすめて、いずれ入居者ターゲットや賃料設定を変える交渉をされてもいいのではないでしょうか。
家賃が4万5000円になっても、仕入れ値の250万円だけで手がかからないのであれば、表面利回りは21.6%になりますね。諸費用や固定資産税、火災保険、その他全て含めても15%は稼げますからいいと思いますよ。
大西
アドバイスありがとうございます! 次へ進めそうです。
ローンは目一杯、借りた方がいいのでしょうか?
大西
アパートと戸建てと両方を持っていると安定するかなと思っています。これから、もっと物件を増やしていきたい気持ちがあり、インターネットで毎日探しています。先ほど、お話した東金の戸建てを購入するとなると、資金が少なくなってしまうのですが、今後はなるべくローンを使った方がよいのでしょうか。
石原
手元にあるお金を使ってしまったら消えてしまいますが、貯金を見せ金にすれば、信用というレバレッジとして使えます。ともあれ最初は一定規模まで増やすことを目指したら良いと思います。
ただし、ローンを組むと完済するまでは、その物件の価格の他に金利も支払わなければなりません。借金が終わるまで手残りはあまり期待できませんね。
大西
やはり、なるべくローンの金額を大きくする方針がいいのですね。今、検討している物件で日本政策金融公庫に相談に行ったのですが、「築年数も古いし、半額か3分の1が現実的なお話になりますよ」ということでした。リフォーム費用は別に見積もりをとるつもりです。
石原
東金の250万円の話であれば、リフォーム費用を合わせても300万円くらいですね。物件の価値でいえば1/2や1/3は、「土地の価値がそれしかない」と判断されているのかもしれません。実際に公庫は厳しめに見ます。古い建物の価値はほとんど見ていないと思います。
大西
建物の価値は50万円程度でした。
石原
金融機関では、担保とする不動産の時価に「掛け目」をかけて、融資する金額の目安を算出します。担保評価額といいます。その「掛け目」の割合は、一般的な金融機関では70%くらいですが、公庫の場合では45%から50%くらいです。それでも借りた方がよいでしょう。
大西
なるほど! そうすれば次の物件も買えそうです。
石原
物件の担保価値以外に無担保融資枠が2000万円まであります。土地と建物の価値(時価)が合計で300万円として、担保は厳し目で見ますから50%の掛け目で150万円までしか借りられませんが、無担保融資枠は別途に出しますので、フルローンに近い状態を目指すことは可能です。
ただし、そこまでしなくても、半分は現金を入れて、半分は融資をつけて、ある程度の短い期間になりますが、キャッシュフローを確保しながら信用の構築を同時に進めていけばよいでしょう。返済比率が少なければその分お金が残ります。不動産賃貸をやっている充実感も出てきますしね!
大西
それでは最初は、公庫から半額程度を借りて、残りは自己資金でやればいいのでしょうか。
石原
そうすれば借金がそれほど多くありませんから、キャッシュフローもある程度は残ります。
大西
じつは買おうとしている物件が、東日本復興支援の地域に該当し、金利が優遇されます。1%を切って借りられるので、なるべく大きく借りる方がいいのか悩みどころです。公庫が持っている復興支援の優遇金利で上限が1000万円です。それならいま見ている物件だと2軒が対象となります。
石原
金利がそれだけ安いのであれば、なるべく多く借りた方がいいでしょう。ただしキャッシュフローは出ませんが。
大西
では、キャッシュフローは出なくても借り入れをして、現金を手元に残して増やしていく方がいいですね。
石原
有利な条件で融資が受けられて、なおかつ返済期間中はCFに依存しなくても大丈夫でしたら、それも方法だと思います。まずは物件を増やしていき、「この物件は繰り上げ返済をしよう」など、後から足元を整えていけばよいことです。
「この物件は貸家ではなく、実需のご自宅として入居者さんへお売りしよう!」など、様々な戦略が組めると思います。
オーナーチェンジ物件と空き家、どちらがよいですか?
大西
現在、検討している物件は空き家ですが、今後、物件を探すにおいて、空き家とオーナーチェンジ物件のどちらを狙っていったら良いでしょう。
石原
僕の友人が足立区の駅から少し離れた古い戸建てを、オーナーチェンジで立て続けに2軒を買った人がいます。仕入れ値は相場よりも安くて1000万円を切っていましたが、ひとつは購入直後から滞納が始まり、もうひとつは、入居者が退去した後が酷い状況でした。
大西
やはり退去後の修繕でお金がかかるものですか。
石原
都内という恵まれたエリアにも関わらず、「相場よりも安いから何かあるのかな?」と思ったら、やはり住んでいる方々に問題があったようです。
相場よりも変に安ければ疑うべきですね。またこの話のように入居者がついて売買されていて、でも実際に家賃が入ってこなくても「そのタイミングで家賃が滞納されたのではないですか?」と言い逃れされてしまうこともあります。
大西
なるほど。空き家を買うのは入居について不安があるのですが、オーナーチェンジもまた別の不安があるというわけですね。
石原
空き家であってもオーナーチェンジ物件であっても相場よりも安いときは、「何かあるのか」と疑った方がいいと思います。ただし、実際のところどうなのかは、現場を見ることができる空き家の方が実態はわかりますよね。
見積りをとってどれくらい修繕費がかかるのか、はじめに知ってから購入することができます。
大西
ありがとうございます。よく理解できました。
石原
大西さんは買い進めて、どれくらいまで増やす予定でしょうか。
大西
とりあえずの目標は家賃年収600万円です。戸建てを10軒、アパート2棟も持てば安定すると思います。
石原
不動産投資の他にやりたいことはありますか?
大西
小さくてもいいから自分で木材から買ってきて、自宅のセルフビルドに挑戦したいです。かつて祖父が不動産投資をしており、自宅も土地をさがしてきて自分で家を建てました。
畑も肥料をまいて土作りからはじめました。全国を渡り歩き、土地や物件を仕入れてきてはアパート経営をしていたのです。私も会社員より、そちらの方が向いている気がします。
石原
自由人なのですね。
大西
都内の学校の目前に雑貨店を開き、経営は祖母に任せていました。その収入で家族を養わせ、自分は旅に出てはお金を稼いできて帰ってくる生活です。私も家に寄りつかない性格で、祖父の血を継いでいる気がします。タイが好きで、海外にも家を買えたらという夢があります。
石原
それを実現するためにも是非がんばってください!
大西
ありがとうございます!!
現在育児休暇中の大西さん、本日は可愛い赤ちゃんと一緒にお越し下さいました。お母様と一緒に収益不動産を増やしていきたくて、そのための担保やご資金も十分です。
しかし不動産投資を行っている伯父様の成績が振るわないことが気がかりで、目の前の物件が本当によいものか判断に迷われているご様子でした。
いま検討中の東金の家は、お伺いした限りでは、リフォームが不要な駐車スペース付きの一軒家が、生活保護世帯の上限4.5万円でみても15%以上は見込める素晴らしいものでした。
地元業者への聞き込みだと、ペット可にすれば7万円でも需要があるそうで、このような物件がまだまだ存在していることに地方投資の可能性を感じます。ぜひ貸家第一号として、最高の船出を飾ってほしいと願わずにはいられません。
お祖父様は全国に収益不動産を持ち、各地をさすらい、自由を愛したそうです。大西さんもそのような生き方に憧れているとか。
それを実現させるためは戸建10軒とアパート2棟の大家となって経済的な基盤をつくり、ゆくゆくは大好きなタイやベトナムを自由に旅し、自宅のセルフビルドにも挑戦したいと伺いました。
材木をかついで丸鋸を片手にウッドデッキを自作してしまう趣味にも驚きました(笑)ぜひ夢の実現に向けて、ご成功を心よりお祈りしています!
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