万引き老人_RobertKneschke-Fotolia

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超高齢社会を迎えた日本。しかし、今や人口の25%を占める高齢者の金銭面は厳しい実情となっている。「下流老人」や「老後破綻」といった言葉が盛んに聞かれるのは、実態を伴っているからに他ならないだろう。

それを表すのが、近年増加している高齢者の「万引き」だ。2015年に発表した法務省の「犯罪白書」において、65歳以上の刑法犯は、過去最高となる18.8%を占めた。その中で最も多い罪名は「窃盗」で7割を超えるが、特に増加が目立つのが「万引き」なのだという。

はたして万引き老人は、どんな理由から何を盗むのか。著書に『万引き老人』(双葉社)がある、万引き対策コンサルタントの伊東ゆうさんに話を聞いた。

「ちょっと贅沢」な生鮮食品は盗まれやすい

スーパーやデパートなどを中心に、普段から万引き防止の対策や万引き犯の監視を行う伊東さん。高齢者の万引きは多く、小売店はその対策に迫られているという。

「真剣に対策している店もあれば、盗まれる損失をあらかじめ覚悟して、防止対策をあまりしていない店もあります。いずれにせよ、万引きに対する防犯コストや損失分は商品価格に上乗せされ、最終的に罪のない消費者が影響を受けている可能性さえありますね」

では、高齢者たちは一体何を万引きするのだろうか。伊東さんは「高齢者が盗む商品には、ひとつの傾向があります」と語る。

「普段はなかなか手を出しにくい、ちょっと贅沢な商品ですね。老人の万引きはスーパーが多いのですが、狙われるのは高級な生鮮食品。たとえばトロや和牛、ウナギなど。マグロも『養殖より本マグロ』という場合が多いです」

伊東さんによれば、「本当に食うに困っている老人よりも、ちょっと贅沢をしたい老人が万引きに及ぶ」と言う。その背景には、加齢によるこんな心理の変化があるという。

「若い頃は『万引きなんてしてはいけない』と思っていた人が、老人になると次第に『バレないんじゃないか』と心の中で感じ出すのでしょう。そういった心のささやきから悪事に及び、その後は同じ手口の万引きを繰り返すようになります」

万引き老人の手口はきわめてシンプルで、男性は盗んだものをポケットやお腹に隠す形が多く、女性はバッグの中に盗品を入れて店を出ようとするケースが目立つようだ。

ブランドものを身につけて、お金持ちのふりをして盗む人もいます。明らかに貧しそうな格好の人は怪しまれるためか、そこまで万引きに及ぶケースは多くないですね。派手な格好の人が行う場面によく遭遇します」


万引き老人が抱える「貧困」と「孤独」の根深さ

万引き老人であるかどうかは、見た目だけでは判断しにくいとも言えそうだ。とはいえ、彼らと接していくと、生活環境や内面の部分には「共通点を感じる」と伊東さんは言う。

「基本的には『貧困』と『孤独』に苦しんでいる老人が多いですね。貧困でいうと、扱いの悪い介護施設に入っていて、その生活が嫌で抜け出して万引きに及ぶ人もいます。職員からひどい対応を受けるうちに自己否定が強くなり、自暴自棄になる。

そして『こんな生活なら逮捕されたほうがマシだ』と万引きするケースもあるんですね」

つまり、現状自分が置かれている生活環境が悪いために、その生活を捨てることに恐怖心がなくなる。そして、「ある程度悪いことやっても大丈夫だ、こんな生活捨ててもいいし」となるようだ。

「生活レベルでいうと、団地や『~荘』『~コーポ』といったアパートなどでひっそりと暮らしている老人が多いですね。ほとんどが一人暮らしです」

彼らは決して、生活できないほどの困窮レベルではないだろう。しかし、生活環境の悪さなどから「少しくらい贅沢をしたい」という欲求を日々溜め込んでいる。そしてそれが万引きへとつながる。もちろん、その根源にあるのは「貧困」。ちょっとした贅沢すらできないという実情だ。

「生活できる程度の貯蓄」では、老後に困窮する可能性も

万引き老人の共通点として、「貧困」と同様に挙げられるのが「孤独」だ。伊東さんがその意味を説明する。

万引き老人の7~8割は一人暮らし。子どもがいてもバラバラに暮らしていて、ガラ受け(身柄引受人)さえ用意できないことが多いですね。彼らと話してみると、自分のことだけをひたすら喋り続ける老人も珍しくなく、その裏には孤独が垣間見えます」

老人が貧困化する背景として、家族関係の希薄化や未婚者の増加、隣人同士の関係性の希薄さなど、他者とのつながりが弱くなっていることも相関しているといわれる。

昔のような助け合いがなくなったために、彼らを貧困から救い出す環境ではなくなっているのだ。

万引き老人に孤独な人が多いのも、そういった状況がもたらした結果かもしれない。貧困と孤独という問題は、密接なつながりを持っているといえよう。

「万引き老人にならないためには、第一に孤独にならないことが大切だと思います。孤独になれば『失うものはない』という考えが生まれ、すべての行動が自分だけの問題になります。すると、犯罪に対しても抵抗感がなくなってしまう。若いうちから、孤独にならないことを心がけるべきでしょう」

もちろん、もう一方の「貧困」に対しても、何かをしていくことが大切だ。「老後は、生活できる分の貯蓄があれば大丈夫」と思っていても、やはり人間は日常でささやかな贅沢を求める。

それをできるお金がなければ万引きに手を染めてしまうかもしれない。犯行に及ぶ老人の姿にも、ちょっとした贅沢を望む姿は現れている。

充実した老後を過ごし、最後まで幸せに生きる。そのための手段として、若いうちから金銭面や人間関係の構築をしておくべきではないだろうか。万引き老人の実態は、これから老後を控える私たちに、そんな人生訓を教えてくれるのではないだろうか。

伊東ゆうさんプロフィール

1971年生まれ。フリーライター、万引き対策コンサルタント、万引きGメン。ジーワンセキュリティサービス株式会社 取締役会長。約16年間「万引きGメン(保安員)」として、四千数百人の万引き犯を捕捉。

香川大学教育学部特別講師、香川県万引き対策協議会メンバー、「北海道万引き防止 ウィーブネットワーク」講師などを務める。主な著書に『万引き老人』(双葉社)、『万引きGメンは見た!』(河出書房新社)がある。

公式ブログ http://ameblo.jp/mad110/