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こんにちは。銀座第一法律事務所弁護士、鷲尾です。

今回は、所有する築38年の木造アパート建替えのために入居者に立ち退いてもらいたいが、どのように説明したらよいかというご相談です。

 

現在、築38年の木造アパートを所有しています。建物が老朽化している上、入居率も悪い(8室中2室)ため、建て替えを検討しています。入居者にはどのように説明して、立ち退いて頂けば良いのでしょうか? ちなみに、見た目はボロボロですが、特段大きなトラブルもないため、説明しづらいと考えています。

老朽化した賃貸物件は競争力が低下する

建物の老朽化が進行したまま手を入れないでおくと、周辺の築年数の新しい物件に比べて賃貸物件としての競争力が低下してしまいます。そうなると、入居者を確保することが難しくなっていきます。

また、税務上の法定耐用年数(木造建物は22年)を経過してしまうと、減価償却費を経費として計上することができなくなり、税引き後のキャッシュが減少するというデメリットもあります。

そこでご相談者のように建物の建て替えを検討する必要が生じてくるわけですが、その際、入居者にスムーズに退去してもらえるかということが大きな問題となります。


退去を求めるには正当事由が必要

まず、入居者との賃貸借契約が定期賃貸借契約なら、契約期間満了により更新することなく契約が終了します。

そこで、今回のケースには当てはまりそうもありませんが、もし建て替えの実施までに時間的余裕がある場合には、契約の更新時に定期賃貸借契約への切り替えを提案してみることも検討すべきでしょう。

たとえば更新料の支払を免除するなど一定の譲歩を行ったとしても、将来、退去を要請しなければならないことが予定されているような場合には十分なメリットがあります。

これに対し、契約が普通賃貸借契約の場合には、たとえ契約期間が満了して更新を拒絶したとしても、そのことのみを理由として入居者を退去させることはできません。

仮に契約書に、「貸主は、契約期間中であっても、6カ月前に予告することによりこの貸借契約を終了させることができる」など、貸主による中途解約を可能とする条項が入っていたとしても、6カ月前に予告したからといってそれだけで契約を終了させることはできません。

それは、家主の側から賃貸借契約の解約を申し入れたり、契約更新の拒絶をするためには、借地借家法により「正当な事由」がなければならないとされているからです。

また、賃借人側に契約上の義務の不履行があったとしても、それが家主との信頼関係を破壊する程度に至らない軽微なものとされる場合には、賃借人の債務不履行を理由として契約を解除することも認められないのです。


正当事由の判断要素

退去を求める「正当な事由」の有無は、賃貸人側と賃借人側それぞれの建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関するそれまでの経緯、建物の利用状況、建物の状態、立退料の提供などの事情を考慮して判断されます。

たとえば、建物の老朽化という事情は、その程度にもよりますが、正当事由を肯定する重要な要素となり得ます。

また、過去に何度も家賃の滞納が繰り返されてきたとか、しばしば隣室の生活音にクレームをつけ、嫌気がさした隣室の入居者が退去してしまったことがある、などそれだけでは契約を解除するには十分といえないような賃借人側の事情についても、更新を拒絶する際の正当事由の判断要素の一つとして主張することは可能です。

ただし、賃貸人側が自己使用の必要性などの正当事由を主張して明渡しを求めても、現にその建物に住んでいる賃借人と比べると、賃借人の同意なく強制的に(明渡しを認める判決を得て)明渡しを実現することは困難な場合が多いのが実情です。

そこで家主側としては、立退料を提供したり、代替物件を紹介するなどして、正当事由を補強することが必要となります。

立退料の相場というものはとくにない

立退料としてどの程度の額が妥当かは、賃料の額、それまでの経緯、賃借人の家庭環境、賃借人の住み続ける必要性などにより、ケースバイケースであり、一定の基準というものはとくにありません。

「それまで貸してもらってありがとうございます」と言って無料で退去してくれるような賃借人もいますが立退きを拒否したり高額な立退料を要求する人もいます。

しかし、一般的にいえば、ご相談のケースであれば、引越代に加えて、賃料の3カ月から10カ月分程度あたりが一応の目安になると思われます。

その他、賃借人が転居先を見つけるのに困難な事情があったりする場合には、家主側で代替物件を探して提案してみることも有効です。


まず交渉から

先に述べたとおり、判決によって明渡しを認めさせるためには正当事由が必要であるうえ、裁判となると賃借人の出方によっては解決が長引くこともあります。そのため、できれば話合いによる解決を図るべきです。

交渉する場合には、賃借人に退去してもらわなければならない家主側の事情を丁寧に伝えることが大切です。ご相談のケースでは、建物が老朽化しておりそのままでは新たな賃借人も入りにくいので建て替えが必要だというのが家主側の事情です。

これに対し、賃借人側がこの建物に住み続けたいとする事情はどのようなものでしょうか。とにかく住み続けたいというだけなら、昨今では賃貸物件があふれており、条件次第で立退きに応じてくれる可能性が高いでしょう。

しかし、たとえば子供の学区内に適当な物件がない、高齢のため新しく賃貸借契約を結んで別物件に入居することが困難、転居すると家賃が値上がりするなど、そう簡単に転居できない理由をあげられるということもあります。そうした場合、ただ収益を上げたいだけだろうということで入居者の理解が得にくいかもしれません。

そこで、単に老朽化したので建替えたいというだけでなく、是非退去してもらいたいという事情をもう少し補強しておきたいところです。

築38年の建物ということは昭和53年に新築されたことになります。建築基準法に基づく現行の耐震基準(新耐震基準)は、昭和56年6月1日に導入されていますから、ご相談の建物は現行の耐震基準を満たしていません。

つまり、ご相談の建物は新耐震基準を満たしていない可能性が高いといえます。そこで、耐震診断の検査を依頼して、建物倒壊のおそれの有無や耐震性能が十分かを調査してもらうことが有効です。

万一大地震が起きて建物が倒壊して入居者等に被害が生じるような事態を未然に防ぐため、是非建て替えをする必要があるので協力してほしい、という事情は有効な交渉材料となります。

もちろん、耐震補強工事を行えばよいではないかという反論もあり得ます。しかし、耐震補強工事にも相当の費用がかかりますから、建て替えた方が経済合理性が高いことを訴えるなど粘り強く交渉すべきです。

交渉でまとまらなければ裁判

交渉によってはどうしてもまとまらない場合は裁判ということになります。裁判では、明渡しに正当事由があるかどうか、立退料の額の妥当性などについて争われます。

しかし必ず判決が言い渡されて終わるというわけではなく、こうした裁判では、むしろ和解によって解決することが多いのです。

ですから正当事由が弱いと思われる場合でも、立退料の提供は必要となるでしょうが、裁判を試みる価値は十分にあるのです。

結論

○入居者が立ち退いてくれる率: 80%

ご相談のケースは、細かい事情が分かりませんが、特段のことがなければ一定の立退料の提供や退去時期について配慮するなどにより明け渡してもらえる可能性が高くその可能性は80%程度ではないかと思います。

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