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みなさん、こんにちは! 不動産投資専門税理士の叶です。
今回は、無理な節税をして失敗した人の事例をいくつか紹介します。
経費を計上しすぎて、銀行の評価が悪くなる事例
うちの事務所に相談に来られるお客様や、新規の関与先からよく相談を受けることの一つに次があります。
「税金はできるだけ少なくしたいので、できるだけ経費を入れたいんです!」
特にうちの事務所に相談に来られる方は、サラリーマンとして働きながらの兼業大家さんが多いので、「経費」という言葉にはとっても敏感です。
普通にサラリーマンとして働いていても、「経費」はなかなか使えませんからね。(と言っても、サラリーマンには、「給与所得控除」という概算経費を年収から引いてもらっているのですが……)
不動産運営の経費と言っても色んなものがあります。中でも、管理費や固定資産税、水道光熱費、修繕費、客付け会社へ仲介手数料などは、物件にひも付きの経費なので、少ないほどいいですが、必ず出てきますよね。
また、物件調査のための交通費やセミナー参加費、あるいは不動産投資を勉強するための書籍代や我々のような税理士報酬は、人によって多い少ないはあっても、必要であれば出てくる経費です。
さらに、車両に係る経費や携帯代、接待交際費、あるいは自分が住んでいる部屋の賃料の一部を経費に入れたいという人もいます。
もちろん、これらの経費は、不動産運営に必要で実際に支出しているのであれば、経費にすることができますが、ひどい人だと、舛添元東京都知事のように家族旅行や、子供のための生活品まで経費に入れたがる人もいます。これは完全にブラックですけどね。
ただ、将来的に借入金の金利を下げたい人や、これからも融資を使って物件を買い増していきたい人は、銀行の立場に立って考える必要があります。
あなたが銀行で、自分のお金を人に貸すのであれば、利益を出している人、出していない人、どちらにお金を貸したいと思いますか? 当然、利益を出している人ですよね。利益を出しているということは、税金を払っているということです。
何が言いたいのかといいますと、ちまちまと領収書を集めて帳簿を付け、経費を積み増して目先の節税をするよりも、しっかりと利益を出して税金を払い、将来的に銀行に金利を下げてもらう方が、よっぽどお金が残るということです。
例えば、1億円を借りている人が、金利を1%下げることができれば、年間約100万円の利息が軽減され、キャッシュフローが増えることになります。さらには、将来的に物件を購入するときも、銀行の評価が良いと借りやすくなりますよね。
目先の節税にとらわれて、将来の健全なキャッシュフローと信用を失う人が結構いますので、皆さんは気を付けるようにして下さいね。
設備の減価償却費を取りすぎて失敗する事例
不動産投資家の中には、減価償却費は、できるだけ多く計上したいと思っている方が多いです。なぜなら、減価償却費は物件購入後にお金は出ていかないのに経費にできるからです。そして、もっと減価償却費を取りたいと思っている人は、設備の減価償却費を取りたがる傾向があります。
設備の減価償却費を取るとどうなるのでしょう? 数字を使って具体的に解説してみます。
例えば、1億円の建物で、50年の耐用年数だったとしましょう。そのまま定額法で、計算すれば、1年あたりの減価償却費は200万円になります。
建物1億円÷耐用年数50年=減価償却費200万円/年
では、この1億円の建物の中に、電気設備や給排水設備などを合わせて、設備が20%の2000万円あったとしましょう。設備の耐用年数は15年とします。
すると、当初15年間の1年あたりの減価償却費は293万円になります。
(1)建物8000万円÷耐用年数50年=減価償却費160万円/年
(2)設備2000万円÷耐用年数15年=減価償却費133万円/年
(1)+(2)=減価償却費293万円/年
当初15年だけですが、建物だけの時より93万円も多く減価償却費が計上できることになりましたね。減価償却費という経費が増えれば、利益が減り、税金が減って、キャッシュフローは増えることになるので、不動産投資家の中には設備を取りたい方が多いわけです。
でも、これは本当に節税になっているのでしょうか? 当初15年間、293万円計上できていた減価償却費は、16年目からは建物分だけの160万円に減ってしまいます。
結局、建物1億円というパイは変わらず、設備を取るということは、パイを早食いしているだけなんですね。当然、早食いした分、後々のパイは少なくなります。
ではさらに、売却まで考えてみましょう。当初15年間は、建物だけだと200万円の減価償却費が設備を取ったことによって293万円と93万円増えています。
この物件を3年後に売却し、物件を所有していた時の税率が30%だったとすると、年間93万円減価償却費が増えたことによる節税額は、3年間合計で83万7000円になります。
減価償却費の差額93万円×所有期間3年間×税率30%=節税額83万7000円
この物件を個人で所有していて、3年後に買った時と同じ1億円で売却すると、売却益が879万円発生します。
売価1億円-3年間の減価償却費を引いた簿価9121万円=879万円
もし、設備の減価償却費を取ってなかったとすると、売却益は600万円発生します。
売価1億円-3年間の減価償却費を引いた簿価9400万円=600万円
設備を取ってない時より、設備を取っている時の方が、売却益が279万円多くなっていることがわかります。減価償却費を多くとれば、その分簿価が減り、売却時には売却益に転じるわけですね。
そして、この増えた売却益に対して、個人の短期譲渡所得の税率39%が掛かるので、108万8100円納税します。
減価償却費の3年間の差額による売却益279万円×税率39%=納税額108万8100円
そして、減価償却費の3年間の差額によって発生した、所有していた時の節税額83万7000円と、売却した時の納税額108万8100円を比較してみると、25万1100円発生額の方が多くなっていることがわかります。
つまり、3年間の設備を取らなかった場合と、取った場合の減価償却費の差額279万円に、所有時の税率30%と売却時の税率39%の税率差9%を掛けた25万1100円、トータルすると納税額が増えてしまっているんですね。
このように、減価償却費を早く多くとった方がよいかどうかは、その人の税率や、投資の目的によっても変わるので、安易に計上せず、しっかりとシミュレーションをするようにして下さいね。
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