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みなさん、こんにちは! 不動産投資専門税理士の叶です。
お金を残す不動産投資コラム。今回は、現在、税制改正のターゲットなっている、相続税逃れの海外移住について、不動産投資家へどのような影響があるかを解説します。
富裕層が回避したい日本の相続税
今、富裕層の海外移住が進んでいるそうです。では、なぜ富裕層は海外に移住したがるのでしょう? その意図は日本の相続税が高いことが原因と言われています。
ではまず、日本の相続税がどれくらい高いかを解説しましょう。
日本の相続税は、まず、全相続財産額から基礎控除を差引きます。
基礎控除は3000万円+600万円×法定相続人の数で計算します。
亡くなった方に配偶者と子供2人がいる場合は、4800万円の基礎控除があります。
3000万円+600万円×法定相続人3名=4800万円
そして、全相続財産額から基礎控除を引いた金額を、法定相続分で分けた金額に対して、次の相続税率が掛かります。
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1000万円以下 |
10% |
– |
3000万円以下 |
15% |
50万円 |
5000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1700万円 |
3億円以下 |
45% |
2700万円 |
6億円以下 |
50% |
4200万円 |
6億円超 |
55% |
7200万円 |
例えば、法定相続分で分けた金額が10億円だったとすると、単純に財産もらった人は、4億7800万円の相続税を納めることになるわけです。
法定相続分に応ずる取得金額10億円×55%-7200万円=相続税4億7800万円
相続した財産は、日本の相続税によって、およそ半分ちょっとしか残らなくなるわけです。
これだと、代々財産を受け継いできていたり、自ら頑張って資産を築いた富裕層は、相続税をどうにかしたいと思うようになります。
なぜ富裕層は海外に移住したがるのか?
では、もし先ほどのような富裕層が、海外に移住するとどうなるのでしょう?
実は条件に合致すれば、日本の相続税が掛からなくなるんです! そして、シンガポールやマレーシアなどの相続税のない国に移住すると、相続税を納めなくてよい状態になります。
では、日本の相続税が掛からなくなる条件を過去の経緯も含めて見てみましょう。まず、平成12年の税制改正がなされる前までは、海外に移住しただけで、国外の財産については相続税、贈与税が掛かりませんでした。
○平成12年税制改正以前
これが、平成12年の改正以降は、次のように変わり、相続する人も相続される人も、海外に移住したとしても、過去5年以内に日本国内に住所があった場合は、全財産に相続税が掛かるようになりました。
○平成12年税制改正以降
ここから平成25年にさらに改正が入り、現在は次の表の通り、財産を相続する人が日本国籍を持っておらず、亡くなった方が国内に居住していたケースでも、全財産に相続税が掛かるようになっています。
○平成25年税制改正後
そして、今回の改正では、5年の部分が10年に、そして日本国籍を持つ人は全財産に相続税が掛かるようになることが予想され、さらに海外移住による相続税節税策の封じ込めが検討されているんです。
○平成29年改正案の予想
海外移住による節税対策で不動産投資にどのような影響があるのか?
ただ、亡くなった人が10年を超えて海外に住んでいる場合でも、日本国内にある財産については、日本の相続税が掛かります。
したがって相続税の節税に合致する条件だったとしても、すべての財産を海外に持つようにしなければいけないわけです。
財産が預金だけなら海外の銀行口座を作って移せばいいだけですが、日本国内にある不動産はそういうわけにはいきません。したがって日本の不動産を所有している人は、次の2つの方法で財産を海外に移すようにしなければいけません。
(1)日本の不動産を売却して現金化するか、海外の不動産に組み替える
(2)海外に本店をもつ法人を設立してその株式を所有し、その法人に不動産を売却する
(2)の方法だと、不動産が市場に出ることはありませんが、(1)の方法を採用する人が増えれば、日本の不動産の売却が多くなり、単純には不動産価格が下がっていくことが考えられます。
しかし、今後さらに厳しくなる相続税から逃れるために、日本国籍まで捨てて海外に移住する日本人がどれくらいいるかというと、個人的な意見では、それほどいないのではないかと思います。
何といっても、日本はとても治安がいい国ですし、言葉の問題や、歳を重ねたときの介護や医療の問題を考えても、なかなかそこまで決断できる人は少ないと思うからです。
とはいえ、国がこのような改正を検討しているということは、実際に海外移住する人がいるということですし、条件はかなり厳しくなっていくものの、相続税を絶対に払いたくない方にとっては、検討してもいいかもしれませんね。
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