TamTamさん

今年1年を振り返ってみると、日経平均株価は1万9000円代を回復し、収益物件市場もおおむね好況。なかには「売却で◯千万円の利益を確定した」なんて景気のいい話も聞こえてくる。

しかしその一方で、苦戦を強いられている大家さんも確実に存在していることを忘れてはならない。年の瀬に「しくじり大家さん」の苦しい胸の内をうかがった。

今回取材に応じてくれたのは、サラリーマン大家のTamTamさん(40代・独身)。

都内の大手メーカーに勤めるTamTamさんの年収は800万円以上、何とも羨ましい高属性の持ち主だ。アパート・マンションを中心に区分、戸建ても含め50室以上の収益物件を所有しており、総投資額は4億円以上にのぼる。

インタビューに応じるTamTamさん。都内の有名企業に勤めるサラリーマンだ

さぞかし順調に規模を拡大してきたのかと思いきや、「いえいえ、実情は火の車ですよ。税金を納めると収支がトントンの状態が数年続いています」とのこと。

一見順調そうに見えるTamTamさんの不動産投資、一体どこに罠が潜んでいたのか? 波乱万丈な投資遍歴を振り返ってもらった。

しくじりエピソードその1:
新築区分マンションで毎月の持ち出しが発生【しくじり度★☆☆】

「不動産投資を始めたきっかけは、2004年に会社にかかってきた一本の電話です。よくある新築マンションの営業で、低金利で融資が受けられることと、月々多少プラス収支ということもあり、物件を見ることもなく購入しました。

その後『ローンを払い終われば、毎月の家賃が年金代わりになる』と勧められた都内の新築区分マンションを、投資目的で2戸購入しています。

当時は営業マンの『多少の持ち出しは積立と思ってください。節税効果もありますから』というセールストークを真に受けましたが、利回りでいうと3〜5%の物件ですから、当然、毎月の収支は赤字です」

購入から10年以上経過しているが、現在の相場で売却しても残債が消えない状態だという。賃貸に出している元自宅は実需向けに売ればトントン程度になるというが「入居者が出ていく気配が無いので、売るに売れないのです」とのこと。

サブリース契約で10年間、一度も家賃保証を下げられたことがないのが唯一の救いだとTamTamさん。

しくじりエピソード2:
業者が突然音信不通に! 重要書類が手元にない状態に!! 【しくじり度★★☆】

普通のサラリーマンであれば、新築区分を複数買った時点で次に進めないことも珍しくない。しかし、TamTamさんには持ち前の属性の良さも手伝って、次なる収益物件として一棟アパートを購入することで赤字の解消を画策した。

「少額とはいえ、毎月持ち出しが発生している状況だったので、中古物件を購入してキャッシュフローを得れば、年金対策で購入した新築区分のマイナスをカバーできると考えました

この一棟アパートも会社にかかってきた営業電話がきっかけで購入したという。

「中古アパートに目を向けたまでは良かったのですが、物件購入後ほどなくして取引した業者が音信不通になってしまいました。私の手元にあるのは謄本と売買契約書くらいで、前オーナーから引き継いだ修繕履歴や各種書類の所在が分からずじまいです」

何とも穏やかでない話だが「連絡先の手がかりはあるので、どうにかなるだろう」と楽観視しているTamTamさん。物件資料が揃っているかどうかで売却時の価格も変わってくるだけに一刻も早く書類を取り戻すべき状況だろう。

しくじりエピソード3:
何も悪いことをしてないのに、会社にマルサが押しかける羽目に【しくじり度★☆☆】

悪いことは続くもので、次に購入した中古一棟マンションでもトラブルに見舞われたというTamTamさん。

「ある日突然、国税局から職場に電話がかかってきたんです。話を聞くと、私が物件を購入した業者がペーパーカンパニーと不透明な資金のやりとりをしているとのことでした」

TamTamさんが快く協力を申し出ると、翌日、映画さながらに国税の担当官が職場に押しかけてきたという。

「予約しておいた会社の会議室は異様な空気になりましたよ。あとで同僚に説明するのに苦労しました」

重苦しい状況の中、TamTamさんへの聴取は半日に及んだ。

「思い返すと、銀行の融資基準に合わせるためなのか、サブリース契約の金額を実際より多く書いて利回り10%オーバーに見せかけるなど、きな臭いことをやっていた業者でした。

ちなみに私が融資を受けた某地銀は都内に生え抜きを集めた特別チームを編成しているのですが、それだけ優秀な担当者なら、この業者の『フカシ』を見抜けてもおかしくありません」

現在、その不動産業者は国から訴えられ係争中だという。

私の契約書や各種書類は国税に提出したままになってます。この業者とのサブリース契約は継続していますが、業者の提案でシェアハウスに改修していることもあり、この業者に万が一のことがあると大変なので、なにごとも起こらないことを祈っています。

まあ、『マルサの女』みたいな貴重な経験をさせてもらったと前向きに捉えています(笑)」

シェアハウスへの改修費用500万円は運営会社が負担したものの、入居率があまりよくないため、いつか来る撤退に怯える日々が続いている。


これまでTamTamさんの話を伺っていると、業者の電話営業がきっかけで物件購入に至るケースが多いことに気がつく。職場へのセールス電話は、一般的に疎まれることが多いが、そのあたりはどう感じているのだろうか。

テレアポがかかってくると「可哀想だから」とつい話を聞いてしまうという

「自分の友人も独立して不動産会社を立ち上げていて、社員にきつく当たっていると聞いているので、彼らの大変さが理解できるんですよね。アポイントが取れるまで椅子に座らせてもらえない、家に帰れない。そんな事情を知っているとつい『じゃあ、会って話だけは聞きますよ』となってしまうんです。

でも、実際会ってみるととてもいい人だったり、有益な情報を提供してくれることもあるので、情報源の一つとして使いようだと思います」

というのがTamTamさんの持論だ。本業の忙しさもあり、業者に勧められるがままに物件を買うこともあるというTamTamさん。今回の取材場所である職場近くのカフェで、毎週のように別の業者と会っているのだという。

「もちろん、いつも業者任せではなくて、自分で探した物件もあります。楽待で見つけた栃木県の満室利回り15%の重鉄アパート。これは新設法人を作って、政策金融公庫の融資で購入しました。この物件が稼ぎ頭になっているので、何とかやっていける状態です」

この物件も最初から遠隔経営が上手く行ったわけではなく、空室に苦しみながら、慣れないDIYに挑戦したりと苦労があったという。

「前オーナーがそのエリアの大地主で、購入した私は地縁もないよそ者でした。そうすると最初は、業者が客付けに力を全然入れてくれないのです。そこで、現地に通ってコミュニケーションを取ったりして関係構築を図りました

持ち前の人柄の良さは空室解消の一助にもなっているようだ。

しくじりエピソード4:
「融資付けが得意」だという業者の提案に乗ったら、身動き取れない事態に【しくじり度★★★】

独学で物件を買い進めてきたTamTamさんも、このころからいわゆる『融資の壁』を感じるようになったという。

「いろいろな業者が銀行に物件を持ち込んだのですが、『これだけ借り入れがある方だと難しいですね』と断られる結果が続きました

そんな時に、またしても職場に一本の営業電話がかかってきた。『融資付けに自信がある』という業者のセールスだ。

「会って話を聞いてみたら、宅建免許を持っているかも定かでない、ブローカーのような業者だったのですが、半信半疑でその担当に一任してみたら相当のやり手だったらしく、オーバーローンで融資を引くことが出来ました

融資を受けたS銀行からは『300万円の定期預金を組むこと』を条件にされたのですが、実はそのお金もオーバーローンで引いているので手出しゼロで物件を買えました」

業者の「アレンジ」もあって、出身地である北海道に8000万円と4000万円の物件を立て続けにゲットすることができたTamTamさん。

「正直、もうどこも貸してくれないと思っていた状態から1億2000万円も借りられたことにビックリしました」
と、ここまでは順調だったのだが、

「正直、4%台の金利は高すぎるので、他行への借り換えをしたいところです。しかし、どこの金融機関も相手にしてくれません」

投資家にとって魅力的なフルローン、オーバーローンも背伸びして組んでしまうと、その後の借り換えもままならない状況に陥る。

仮に売却しても、物件の価格下落スピードが返済スピードを上回っていたら、オーバーローンゆえに多額の残債が残る状況となりかねない。物件が持つ実力以上の借り入れは諸刃の剣であり、慎重になるべきだろう。

「でも、借り換えで困っていると不思議なことに『借り換えコンサルタント』を名乗る業者から電話が来るようになるんですよ」

TamTamさんによると、『借り換えコンサルタント』とは、ローン借り換え交渉や手続きを本人にかわって金融機関と行い、借り換えができた場合のみ成功報酬をもらうのだという。

その営業タイミングの良さは「高値で物件を買った人名簿」の流通を匂わせる。

「仮に1%金利が下がれば、月のキャッシュフローが20万円は改善されます。これは大きいです」

TamTamさんは、公認会計士だというコンサルタントに依頼をしたものの、借り換えは実現せず。確定申告で仕切り直して、次なるチャンスを伺う状況だ。

彼の災難はさらに続く。


しくじりエピソード5:
帰省ついでに物件を見に行くと驚きの事態が判明、大ピンチに【しくじり度★★☆】

「休みに実家のある北海道に帰ったので、ついでに自分の物件を見に行ったんです。そしたら外壁がものすごく傷んでいるのが判明しまして」

なんとTamTamさん、これまで一度も購入前に現地で物件の確認をしたことが無いのだという。

「最初に新築から入ったせいか、紙の資料に書かれている数字やレントロールで判断してしまうんです。特にこの物件については土地勘のある北海道だったこともあり油断してました」

サラリーマン大家にとって、地方物件の現地確認は容易ではないが、大きな買い物だからこそ万全を期したいところである。

「そのまま放置していると、雨水が侵入する状態だったので、大規模修繕せざるを得ない状況です。しかし、見積もり取ったら800万円もかかると言われました。当然そんなお金ありませんよ」

なんとか提携リフォームローンがある管理会社へ乗り換えることで金策し、難局を乗り切ることができたTamTamさん。きれいに生まれ変わった物件が満室稼働する日を待ち望んでいるという。

北海道で購入した別のアパートのBefore写真。
このままだと借り手がつきそうにない

北海道で購入した別のアパートのAfter写真。
印象はグッと良くなったが、リフォーム費用を家賃に反映しづらいのが悩みだ

しくじりエピソード6:
利回り25%のオーナーチェンジ物件のはずが、このままだと廃虚へ一直線!【しくじり度★★★】

問題の戸建て。購入して半年で退去が発生し、ずっと空き家状態が続いている

予期せぬ大規模修繕こそあったものの、北海道にある2棟の物件はまずまずの入居率を維持し、少しずつだがキャッシュフローも積み上がっている。そんななかTamTamさんが次に目をつけたのが、これも別の業者から提案された『ボロ戸建ての現金買い』だ。

大型物件からのキャッシュフローで、小ぶりの物件を現金購入するのは、多くの投資家が実践している不動産投資の王道でもある。TamTamさんは故郷の北海道でボロ戸建てを購入することに。

釧路で3.5万円で入居がついている戸建てが210万円で出ていたのを170万円の指値で買ったのですが、これが失敗でした。表面利回り25%の優良物件を購入できたと喜んでいたのですが……。

購入後、半年で入居者が退去してしまったのです。現地の業者に退去立会を頼んだのですが、中はひどい有り様で、ダンボールで隙間風を凌いでいるような状態です。特に頭が痛いのがお風呂です。見積もりを取ったところ直すのに220万円はかかると言われました。これじゃ投資になりません」

退去直後のお風呂の様子。使用していた形跡はない。
ダンボールは隙間風を防ぐ断熱材の役割をしていたのだとか

建物の傷みもひどく、敷金だけでは原状回復もできない状況だ。前オーナーは短期での売却だったという。

「そもそも、あんな空間で人が生活できてたのかも怪しいものです。やはりオーナーチェンジ物件として売るために、ダミーの入居者を居れていたのでしょうか

結局、リフォームは諦めて、現状のまま「倉庫」として賃貸募集をかけているというが、反響は絶望的。建物のコンディションはさらに悪化するなか、固定資産税を収め続けている。

「不謹慎かもしれませんが、せめて、自然災害が起きたら保険金で精算できるな。なんて考える自分がいます」


一進一退の状況が続く賃貸経営、心の支えになっているものとは

サブリースが多いので手間こそかからないが、トラブル続きで手元に残るお金は非常に少なく、これでは4億円の借金に見合ったリターンとは言い難い状況だ。ほかにも「デザインリフォームを発注したが、家賃が上がらなかった」など、小さな失敗を挙げればキリがない。

それでもTamTamさんの心が折れないのは、ある「生きがい」があるからだという。

彼がハマっているのは秋葉原を拠点に活動するアキバ系アイドル『バクステ外神田一丁目』の応援だ。大食いタレントとして活動している「もえのあずき」が所属するアイドルグループだという。

「まさかこの歳でアキバ系アイドルにハマるなんて、考えもしませんでした。AKBを見ても何とも思わなかったのですが、ある日大食い番組で、もえあずのことを知って。気になって調べてみたら秋葉原のカフェに行くと会えることが分かったのです。そこで興味本位で足を運んだら……今ではすっかり常連です」

ちなみにTamTamさんは箱推し(※特定のメンバーではなく、グループ全体を応援する意味)であるため、ドルオタの活動資金も文字通り桁外れな状況に。

「ここのお店のお客さんは『プロデューサー』と呼ばれ、来店を繰り返すことで、プロデューサーのランクがあがるシステムになっています。ついに今月、最高ランクの『超プロデューサー』に昇格しました!」

歴代の社員証。
最高ランクの証であるブラックカードはTamTamさんのアイデンティティといえる

この1年で500万円以上、『バクステ』関連に使っていると思います。たとえば海外公演ツアーに参加すると一回で数十万円は飛んでしまいますから。でも、自分の趣味に好きなだけお金を使えるのは独身の特権ですよ」

いわゆる「太いオタク」として、界隈で存在感を示しているようだ。そのお金を、修繕積立や繰り上げ返済に回すと良いと思うのだが……。

「超プロデューサー」昇格祝いとして、
お店からTamTamさんにお花をが贈られた

「独身で彼女がいない自分にとって、『バクステ』がいるからこそ本業を頑張れる部分があるのです! あ、そろそろ劇場に行ってステージを見る時間なので、このあたりで失礼します」

通勤に使っている自転車にまたがり、秋葉原方面へと走り去っていったTamTamさん。いまは独身貴族として趣味を満喫しているが、将来、「没落貴族」にならないことを祈るばかりだ。

しくじり大家さんからの教訓 失敗を避ける3箇条

(1)業者任せは確かに楽だが、全てを任せるのは考えもの

(2)必ず現地で物件を見てから買うようにする

(3)借り換えが難しい物件や、厳しい財務状況で高金利の融資を受けてはいけない

TamTamさんの保有物件一覧

保有物件

TamTamさんの保有物件一覧

リスト以外に、金利8%の諸費用ローンの返済も行っている。年間の手残り額は200万円強、そこから銀行への強制積立があるのでほとんどお金が残らない。都内にローンのない自宅を所有しているのが救い。

TamTamさんプロフィール

都内の有名メーカーに勤める、40代の独身男性。借入総額4億円まで投資規模を拡大してきたが、思ったよりお金が残らないのが悩みの種。

アキバ系アイドル『バクステ』の応援が生き甲斐となっている。もうひとつの趣味はエキストラ出演で、映画『HERO』でキムタクと共演したのがちょっとした自慢。