簡易宿所

こんにちは。デザイナーのみなやまくみこです。今年もあと少しで終わりとなりましたが、現場も年末までの追い込み時期で忙しくしております。

その中で今回は、都内観光でも有名な地域での簡易宿所物件、こちらのリノベーション中の現場をご紹介いたします。

簡易宿所許可を取ることは

旅館業には構造設備により、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業があります。

簡易宿所営業とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業のうち、下宿営業以外のものがそれにあたります。

今回は、オーナー様自ら許可を取得されていることがポイント

お手伝いをしてよくわかったことですが、取得は誰でも何とかできるものです。ただ、時間と手間をかなり要します。それが可能かどうか、また設計や建築での協力体制が取れているかどうか、それがあれば是非ご自分でされると良いのではないでしょうか。

ただ、この時間と手間も「費用対効果」という点でみるとどうでしょうか。

私は他者に依頼するに十分値すると考えます。その場合、簡易宿所専門のコンサルティングやホテル等の施設をされた設計士の方に依頼するのが良いでしょう。


今回の物件は立地も申し分のない場所で、駅より直進で徒歩5~6分、大通りに面しています。民泊などでよくあるトラブルの「道案内」も楽になります。

もともと店舗だった物件ですので、プランをする側から見て、外観などはとても造りやすい形で、いわゆる表面のファサード部分(建物の正面)を造り込みやすくなっています。内装工事の後になりますが、既存のシャッターを撤去し、格子のファサードを予定しています。

内部の店舗部分は天井高も3250mmあり、壁にはレトロチックな書棚が天井まで設置されています。こちらを活かしたプランで進んでいます。

内部の天井が高い

1階玄関からラウンジスペースは全て畳敷きの間を採用しました。まずは入口、ファーストインプレッションでゲストの心を掴むという手法です(笑)

1階玄関から畳敷きの間を採用

畳を敷いている様子

メンテナンスやコストを考えるとフローリングやフロアタイルを張りたいところですが、2階の客室などは既存を活かすことでコストカットし、その分の予算で一番力を入れたい部分に集中させます。

とはいえ、コストカットする部分、既存を活かす部分には、工事ではなく、インテリアや調度品等でコーディネート力で差をつけます

また天井が高い分、壁の面積も広く取れていますが、そこもあえてアクセントクロスを使わず、量産のシンプルな白です。

アクセントで柄物を使うことが、全体のどれくらい占めるかを考えると、今回は3分の1以上を占めることになります。これでは折角のレトロな書棚も畳敷きも台無しにしかねません。だからといってそのままでは殺風景でしょう。ここはオリジナルでパネルを作り、壁を装飾します。

もちろん書や和テイストの額装などがあれば一番良いのですが、無ければ作ってしまえという考えです。

それは最後のコーディネート、ディスプレイでの作業になりますので、施工後のコラムでお見せいたします。

またこの物件には中2階がありまして、狭いのですが、こちらには少し派手目のクロスを何種か使い、オーナー様の希望でもあり、より狭さを強調し面白いスペースを作ろうということになっています。

中2階の様子

派手目のクロス


許可に必要な条件とは

簡易宿所営業の施設の構造設備の基準については、旅館業法施行令で次のように定められています(旅館業法施行令1条3項)。

・客室の延床面積は、33平方メートル以上であること。

・階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね1メートル以上であること。

・適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。

・当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。

・宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。

・適当な数の便所を有すること。

・その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。

こちらの簡易宿所は基本的に大幅にプランを変えず、既存を活かす形で進めていますが、どうしても変更しなければいけない箇所があります。

申請上、客室にトイレが2カ所と洗面スペースが必要となっています。

今回2階が客室となるわけですが、現在トイレは1カ所です。どこに増設するか検討したところ、押入れや物入れスペースを利用もありましたが、やはり水回りを1カ所にまとめる案に決定し、この写真のような位置、居室としては窓を潰してしまう形をとりました。通り側に大きな窓があるため、採光面では十分とれています。

また一つ提案として、潰した窓からの明るさを取り入れるため、トイレドアを障子風にする案もありましたが、予算的なものもあり不採用でした。

窓を潰してトイレに

洗面スペースは、既存トイレと新設したトイレの間に造ります。ギリギリ幅が750mm取れましたが、既製の洗面台ではなく、カウンターに洗面ボウルで対応することで融通を利かせました。

客室の設備に関してはこちらで全てクリアです。

1階部分の設備はもともとクリアできていますが、トイレ以外は新しいものと交換・移設します。以下は、浴室をユニットバスに交換する様子です。

浴室の様子

ユニットバスに交換する

また、既存のキッチンも撤去し、移設してミニキッチンを入れることになりました。以前、民泊の内装工事を請けた際に、そのオーナー様が代行をお願いしている業者の話で、キッチンは最低限のもので大丈夫ということを聞いておりました。

確かに通常のホテルや旅館にはキッチンは付いていませんし、あると変に使う人がいる、火の取り扱いが気になるというものです。もちろんIHで対応はしていますが、なるべくならば使わないように仕向けるのも手で、電子レンジや電気ケトルで十分対応できます。

ただ、簡易宿所をやめた場合の方向性として、戸建て賃貸ということになるため普通のシステムキッチンを入れるということもあります。今回は申し分なく、簡易宿所でいく方向ですのでミニキッチンを採用することにしました。

それから、消防用設備設置義務に関しましては、今回わたしは関わっておりません。必要なものとしては、自動火災報知設備、誘導灯、消火器などになります。

オーナー様の知人に専門業者がいらっしゃるとのことで、消防や電気工事関連はわたしの方では照明器具を選ぶ程度でした。

1階はもともとレールが付いていますので、天井高を活かしたペンダントを大小、コードの長さを変えて配置しようと考えています。

現在、年内完了に向けて進んでおります。こちらもまたオープンしましたらご紹介しますので、楽しみにしていてくださいね!

まとめ

最近では取り締まりが強化され、あくまでグレーなAirbnbや違法民泊は撤退が目立つようになりました。

そんななか、合法な簡易宿所営業を実践すること、許可や設備を重要視していくことで、多少の手間と時間はかかりますが、他の民泊物件との差別化になり、安定した運営・収入に繋がるのは確かです。

可能な立地、物件を取得できるならば、合法で、不動産投資ではなく不動産経営というスタンスで臨まれてはいかがでしょうか。