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一般住宅を宿泊施設として活用する「民泊」について、政府は本格的な全国解禁に向けた新法を今国会に提出する方針を示している。旅館業法の許可を受けずにマンションの空き部屋などを提供する「違法民泊」が横行し、近隣住民とのトラブルも頻発するなど、急速なマーケットの拡大に法整備が追い付いていないためだ。

民泊を観光振興の起爆剤としたい政府は規制緩和に舵を切ってきたが、新法では年間営業日数が180日に制限される見通しで、成立すれば投資対象としての旨みは大きく減る。「楽に稼げる副業」として参入が急増してきた民泊も、近年は大都市圏を中心に競争が激化。増え続ける違法民泊は新法で駆逐されるのか、また旅館業法の許可を得て合法的に参入するメリットはあるのか。2回にわたって考える。

たった1泊で月額賃料の8割をたたき出す怪物性

「月に2日予約が入っただけで1カ月分の家賃が回収できてしまう。民泊の旨みを知ったら、真面目に賃貸経営するのが馬鹿らしくなる人もいると思いますよ」

埼玉県内に住む30代の男性は昨年8月、栃木県の所有物件で民泊をスタートさせた。賃料3万円台後半の1LDKで、1泊の宿泊料を3万~3万5000円に設定していたが、この金額でも週末はほぼ埋まるような状況。1カ月半で15組を受け入れ、手残りは賃料約14カ月分に相当する54万円に上った。

転貸で利回り200%オーバー

民泊は戸建てやマンションなどの空き部屋を旅行者に有料で貸し出す仕組みで、訪日外国人の増加による宿泊施設不足を背景に需要が拡大。現行法では宿泊期間が1カ月未満の場合は旅館業法が適用され、特例を除いて行政の許可が必要になるが、ほとんどの物件は無許可で営業しているのが現状だ。

不動産投資家が空室対策として参入するケースのほか、部屋を借りて宿泊客を受け入れる「転貸」での営業も全国的に増加。初期費用が敷金・礼金などを含め50万~100万円程度と一般的な賃貸経営に比べて最初のハードルが低いため、数年前からサラリーマンなどが手軽な副業として選ぶケースが目立っている。

この男性も昨年から東京と大阪で計6部屋を借り、転貸での民泊営業に乗り出した。賃料18万円の新宿の部屋は1泊2万3000円前後に設定し、繁忙期の稼働率は70%以上。「初期投資100万円ほどでキャッシュフローは月20万円前後なので、利回りに直せば240%近くになります」

男性が民泊営業をしていた部屋の1つ。なぜかキッチンの前で寝る外国人宿泊客もいる

男性が民泊営業をしていた部屋の1つ。なぜかキッチンの前で寝る外国人宿泊客もいる

初期投資が回収しきれないケースも

男性が現在運営している部屋はオーナー・管理会社ともに転貸を認めているが、無断転貸の場合は発覚で強制退去に追い込まれるリスクがある。「オーナーが認めていても管理会社がNG」「管理会社が認めていても管理組合がNG」というケースもあり、周りの住民からのクレームで発覚することも少なくない。

男性が昨年2月から営業を始めた西新宿の部屋も、初期費用70万円を回収する前に数カ月で撤退を余儀なくされた。代行業者から「ここならオーナーにバレず営業できます」と紹介された駅徒歩2分の1LDKで、家賃は16万円。1泊2万~2万3000円で稼働率はほぼ100%と高い収益を上げていたが、ある日問題が起こった。

「アジア圏の団体客が『チェックアウト後も荷物だけ部屋に置かせてくれないか』というので断ったら、エントランスに5つぐらいキャリーバッグを置いたまま観光に行ってしまったんです。それが最上階に住んでいたオーナーに見つかって無断転貸が発覚し、客付け会社から連絡が入ってやめざるを得なくなりました」

文化の違いによるトラブルが多発

民泊をめぐる大きな問題点の一つが、利用する外国人ゲストによるトラブルだ。「家具が盗まれる、夜中まで大騒ぎする、ゴミを散乱させたまま帰る―などは日常茶飯事です」と男性。大阪の物件では中国人の宿泊客が新品のシーツとマットにタバコの焦げ跡を付けたが、「別のゲストの仕業だ」と修繕費の支払いを徹底して拒否したため、最終的には仲介会社が間に入って補償を受けることになった。

マットレスについたタバコの焦げ跡(左)フローリングにキャリーバッグの擦り跡が残ることも(右)

マットレスについたタバコの焦げ跡(左)   フローリングにキャリーバッグの擦り跡が残る(右)

新宿区のまとめによると、2014年度に6件だった民泊に関する苦情は15年に95件まで急増し、16年度も4~9月だけで115件に上った。「外国人宿泊客に傘を盗まれた」「中国人が自宅の敷地で勝手に洗濯物を干していた」「ナイフを持った宿泊客が敷地に侵入してきた」など、危険性の高い事案も多発している。

ライバルの急増で儲からなくなっている現実

民泊で高収益を実現していた男性だが、栃木県の所有物件は数カ月で撤退を決断し、転貸も現在は東京と大阪で1部屋ずつに絞って営業している。「通常賃貸と違って1泊1泊を取りにいくビジネスは想像以上に大変です。利益だけを考えるなら通常賃貸より上ですが、すべて代行業者任せでは儲からない。手間のわりに効率が悪い面はあると思います」

撤退を決断した理由はもう1つある。大都市圏を中心に、急激な供給過剰で収益性が下がっていることだ。実際に、民泊仲介最大手「Airbnb」の登録物件数は14年の7000件から15年末に2万5000件、16年末には4万件まで増加するなど、競争は激しさを増している。

男性によると、家賃7万5000円の東京の部屋は宿泊料7500円前後でも稼働率85~95%を維持できるが、家賃7万円の大阪の部屋は3500~4000円まで下げても集客が苦しいという。「供給過多の大阪では宿泊料を賃料日割り額の1.5倍まで落としても厳しい。周りには月4、5日しか予約が取れない人もいるほどです」

勝ち逃げできない局面に入った

参入障壁の低さから供給過剰が進行し、立地や設備を追求しなければ旅行者に選ばれない「買い手市場」になりつつある民泊。男性は「早くに参入した人は、オーナーも管理会社も民泊についてよく分かっていない時期に初期投資を回収し終わり、すでに『バレたらやめればいい』という状態の人がほとんど。今は軌道に乗る前に潰されるケースが多いから危険ですね」

Airbnbのサイトでは物件の正確な位置が行政側にキャッチされないよう、マップ上のピンの位置をズラして特定を防ぐ手口が常態化している。管理会社や管理組合の民泊に対する視線が年々厳しくなり、住民のクレームで強制退去に追い込まれるケースも多くなっているためだ。男性は「昨年夏ぐらいにはひと月で10人ぐらいの知り合いが民泊から撤退しました」と明かす。

民泊新法の「180日ルール」について、男性は「採算性を考えれば適法での営業は難しい。転貸で民泊をしている人は撤退するか違法のまま続けるかの二択でしょうね」と指摘。「今は民泊の宿泊料設定は高くても家賃日割り額の2倍程度。180日なら家賃分しか回収できない計算で、代行手数料や清掃代、光熱費などの経費を引けばマイナスですからね。真面目に申請する人が馬鹿を見るだけですよ」

無許可営業の罰金が大幅に引き上げか

日本政府観光局によると、昨年の訪日外国人は前年比22%増の2400万人に達し、過去最高を更新した。政府は東京五輪が開かれる2020年に「インバウンド4000万人」を掲げているが、都市部を中心に宿泊施設の不足は深刻で、みずほ総合研究所の試算データでは20年に東京や大阪を中心に4万4000室が不足する見通しとされている。

出典:日本政府観光局(JNTO)

出典:日本政府観光局(JNTO)

爆発的に増える訪日外国人の受け皿として期待されてきた民泊。Airbnb経由で民泊を利用した訪日外国人は15年に130万人だったが、16年は10月までに300万人を突破するなど、マーケットは急拡大を続けている。

ただ、現在の民泊のほとんどは旅館業法の許可を得ていない「違法民泊」だ。無許可での営業は6月以下の懲役または3万円以下の罰金という罰則があり、新法成立後は罰金が100万円に引き上げられるという報道も出ている。

「民泊新法」の問題点とは?

京都市が昨年5月に発表した「民泊施設実態調査報告」によると、Airbnbなど仲介サイト8社に登録されていた民泊施設2702件のうち、旅館業法の許可を受けていたのはわずか7%。登録施設のエリアに許可物件がないケースも含め、少なくとも全体の7割に当たる1847件が違法な施設とされた。

ごみ問題や騒音など近隣住民とのトラブルに関する報告も多く、同年7月には民泊に関する相談や苦情を一元的に受け付ける「民泊通報・相談窓口」を設置するなど、京都市は「全国一民泊に厳しい自治体」として認識されるようになった。

根回しがなければ潰される

「京都で民泊を成功させるのは至難の業でしょうね」

京都市内で戸建てやアパートなど40戸以上を所有する40代の男性投資家は「民泊に参入する気は全くない」と断言する。「今では外国人がキャリーバッグを引いて歩いているだけで通報されますから。黙って営業していれば住民から消防署に連絡が行って、防火設備などの要件を満たせないなら撤退せざるを得ない状態です」

行政側の監視体制も相当厳しいようだ。「Airbnb関係のブログで常にアクセス数上位だったのに、いつの間にかサイトごと消えていることがけっこうあります。それを書いているのはほとんど京都の人です」

男性の周りでも民泊に参入している人は多いが、予想より経費がかさんで実質利回り10%に満たないケースも目立つという。「うまくやっている人は事前にお菓子を持って周囲の家を1軒1軒回り、丁寧に説明しています。そうでもしなければ徹底的に嫌がらせされて、撤退する羽目になるんです。もともと京都は縄張り意識が強く排他的で、民泊との相性が悪い土地柄。自分はやろうと思いません」

規制緩和に本腰

政府は本格的な法整備に先立って14年、国家戦略特区のいくつかの自治体が旅館業法の適用を除外する仕組みを活用した「民泊特区」を指定。東京都大田区と大阪府、大阪市、北九州市は自治体として条例を制定し、旅館業法の制限を受けずに民泊を営業できるようになった。

ただ、大田区では申請受付開始から約1年となる2月20日の時点で、営業を認められた物件は31件にとどまっている。防火設備などの投資負担に加え、最低宿泊日数が「6泊7日以上」と長期滞在しか受け入れられない規制が大きなネックになっていた。

期待したほど認定物件が伸びない現状を受け、政府は昨年10月の閣議決定で最低宿泊日数を「2泊3日以上」に短縮。今年に入って大阪市と北九州市で関連条例が施行され、2泊3日からの営業が可能になった。

新法では1泊からの利用も可能に

政府は全国的な民泊解禁に向けた新法「住宅宿泊事業法案」の整備を進めており、厚生労働省と観光庁は15年11月、有識者らによる「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」を立ち上げた。

検討会の最終報告書によると、新法では民泊を「宿泊施設」ではなく「住宅」として扱い、家主(ホスト)が住んでいるかどうかで「家主居住型(ホームステイ型民泊)」と「家主不在型(投資型民泊)」に分類。住宅を提供する場合は自治体への届け出制となり、仲介業者にも観光庁への登録を求める方針だ。

新法が成立すれば、現行法では不可能だった住居専用地域での合法的な運営が可能になり、立地の制限を受けずに土地や家屋を活用できるようになる。さらに、特区のような最低宿泊日数の制限がなく、全国一律で1泊からの利用も可能になる。

「180日」をめぐる攻防

新法で注目すべきは年間営業日数の上限だ。最終報告書には「180日以下の範囲内で適切な日数を設定する」と明記されている。宿泊業を圧迫するとして「年間30日以下」を求めていたホテル・旅館業界と、民泊の推進に向けて上限設定自体に反対の立場を示してきた不動産業界の双方に配慮した格好となった。

個々の自治体が生活環境悪化の防止などを理由に、条例で180日からさらに引き下げることを認める方向で調整が進んでおり、家主不在型のホストにとっては厳しい制限といえる。採算性が悪く参入のメリットが低くなれば、旅館業法の許可を受けない違法民泊を助長する恐れもある。

供給過多で価格競争が激しさを増し、違法状態のまま続けることの意味が問われている民泊。新法の成立を見据え、早々に撤退を決断するケースも目立ってきている。そんな中、所有物件で旅館業の許可を取得し、「簡易宿所」として合法的な事業運営に乗り出す人が増えてきた。(後編に続く)

(楽待新聞編集部 金澤徹)