プロレス

リング上のニックネームは「喧嘩サイボーグ」や「浪速の喧嘩貴族」。190cm/105kgの鍛え上げられた肉体から繰り出される大技は華やかかつダイナミック、さらにハンサムなルックスで女性人気も高い。

「レスラー」のあだ名でバラエティ番組に出演していた時期もある。それがプロレスラーとして15年にわたり活躍する崔領二(さい・りょうじ)さんだ。

2016年3月には新団体「ランズエンド」を旗揚げし、選手兼会社代表を務める。他団体にも選手と社長を兼任するプロレスラーはいるが、崔さんはいい意味で「普通」ではない。億単位の融資や寄付金をもとに不動産投資を行い、その儲けを人材育成など「人」への投資に回している。

「逸材になる」と目をつけた若い選手を育成すべく海外遠征費用を負担したり、旗揚げから約半年でアジア・ヨーロッパ諸国、4ヶ国で興行をしたり、約5000万円を団体のオリジナルグッズ制作費に充てたり……彼のやっていることは、プロレス界の常識とは真逆ともいえるものばかり。

その顔はプロレスラーというより実業家、エグゼクティブ・プロデューサーのようだ。

「ぼくは頭がいいわけでも、学歴があるわけでもない。だから、常に物事のしくみやお金を回す方法を考え続け、独学でやってきました。出た利益で自分が期待する人たちに投資したい。それがぼくの贅沢なんです」

そう語る崔さんに、融資の話や投資的な考え方、不動産投資について話を伺った。

弱小プロレス団体が無利子で3億円を調達できた理由

——最初に伺いたいのですが、なぜ億単位の大金が、旗揚げ間もない小さな団体へバンバン入ってくるのでしょう? 3億円の融資(無利子)に1億円の寄付金、とのことですが。

「ぼくたちがブルーオーシャンで活動する団体だからだと思います。2016年は海外大会も多数やりましたが、たとえばイギリスやスコットランド、ウェールズで、障害のある方をご招待したり、オリジナルグッズを大量に作って配ったり。タオルなんて6万枚作りました。一般的に、プロレス業界ではバラマキでツアーをやったり、グッズを配ったりしません」

——ですよね。グッズは大会を観に行ったときに、物販コーナーで買うものだと思っていました。

「それが既存のやり方、常識です。プロレス業界という狭いパイのなかでチケットを売り、グッズも売るのが普通でした。でも、ぼくたちはそれとは真逆のことをやっているんです。Give&Giveというとわかりやすいでしょうか。誰もやらないことをやって前進しているから、興味を持ってもらえてスポンサーが集まってくる。勝ちが価値を生む――これがぼくなりの負けない法則です。

昨年の11月23日には中国の企業から、現金1億円をいただきました。資産の一部や儲けたお金を使って世界ツアーをしたり、ランズエンド・グッズを配ったり、新しい面白い仕掛けを投下するうちに、ぼくたちの活動やビジネスモデルに共感してくれて、ランズエンドに関わりたいと申し出てくださって。そういった企業さまがどんどん増えています」

——既存の手法にとらわれない、新しいやり方をなぜ生み出せたと思いますか?

「ぼくは自分の能力の限界を知っているんです。自分はスターだと勘違いすることも、過大評価することもありません。プロレスラーとしてはそこそこやれるほうだと思います。ただ、ぼくより優れたプロレスラーなんてゴロゴロいます。でも、決断力とタイミング、運――融資を受けるにあたり、その3つをすべて持っていたのは、ぼくくらいじゃないでしょうか。

あと、目指すものや到達したい地点も、ほかのプロレスラーとは違うと思います。プロレス界では『上にいきたい』と思うと、スター選手クラスの年収2000万円台を目指す人が多いと思います。でも、年収2000万円時代は、せいぜい5年くらいしか続きません。若い選手がどんどん入ってきて、必ず世代交代が起きますから。奇跡的に10年続いても、その後は団体のお荷物になりますよ。

ちなみに日本では、年収1800万円のラインを超えると税率はどっと上がります。1800万円をもらっても手取りは月150万円、税金などを差し引くと月100万円、妻子を養ったり自己投資に使ったりすると、残りは50万円ですよ。月50万円×1年で600万円、10年で6000万円しか貯まらないわけです。

一方、ぼくはプロレス界のスター選手になりたい、なんて思っていないんです。そもそもぼくがライバル視しているのは、元バスケ選手のマイケル・ジョーダンさんレベルの方たちです。世界には年収100億円くらい稼ぐスーパースターが普通にいますからね

——プロレス界だけではなく、世界を見ていらっしゃると。

「だから『1円もいらないですが、15年間無利子で3億円を貸してください』と、海外の投資家さんたちにかなり厚かましいお願いをして(笑)、新しいやり方に挑戦したんです。『でも、その過程でぼくたちの成長を見て、ともに楽しんでください。一緒に青春を味わいましょう』と。

3億円はうまく不動産運用をすれば14年で返済できます。今はシンプルに言うと『借金3億円・収入ゼロ』な状態ですけど、ぼくは14年後を見ているんです。3億円を、不動産をはじめ、人材などさまざまなものに投資していますが、それを現金に換算した場合、ぼくは14年後、3億円を持っている人になります。

でも、年収2000万円を5年間もらう道を選んだ人は、14年後、どんなに資産を守っても2000万円程度しか持っていないはずです。長い目で見るとどちらが勝ち組かは一目瞭然で、この差は大きいですが、みんな案外気づかないんですよね」