浴槽・トイレ・洗面台が一体になった「3点ユニット」といえば、「狭くて使いにくい」「不衛生」などの理由から入居者に敬遠され、賃貸市場でも「人気がなく競争力に劣る」というイメージが根強かった。

しかしここ数年、バブル期に建設された狭小の3点ユニットワンルームの区分投資がにわかに過熱している。特に都心部では投資家の間で争奪戦状態となり、取引価格も高騰。背景には、社会情勢の変化に伴う入居者ニーズの高まりに加え、中国マネーによる”爆買い”の影も見え隠れしている。

跳ね上がる取引価格

「この1年ぐらいは、オープンに情報が出回らない上流の段階で激烈な取り合いになっています。夜11時ごろに情報が流れて、朝電話するとすでに2、3件買い付けが入っているほどのスピード勝負です」

投資歴20年以上、都心や京浜地区を中心に中古ワンルーム約50戸を所有する芦沢晃さん(58)は、ここ数年の状況の変化を肌で感じている。「恵比寿や渋谷など城西・城南地区では、20年前に700万円台で購入した3点ユニットワンルームの区分が1000万円を超えて売買されています。平均して3~4割以上上昇しているのでは」と、驚きを持って受け止めている。

芦沢さんの投資総額は約3億円に上るが、「購入当時は価格が下がることしか考えていなかったので、これだけ上がるならもっと買っていればよかった」と苦笑い。仮に今50戸全て売った場合の売却益は1億5000万円近くに達する見通しだという。

規制強化で崩れた需給

ここまで価格が高騰している要因の一つは、ワンルームマンションに対する建築規制だ。2000年代に入って以降、ワンルームマンションはゴミ出しや駐輪マナー、騒音トラブルなどの問題が多発したことなどを受けて規制強化の機運が高まり、東京都内では現在23区すべてで条例や指導要綱による制限がある。最低専有面積に関しては、ほとんどの区が「25平米以上」と規定。つまり、バブル期に地方出身の学生や単身赴任者などの割安な住まいとして急増した狭小のワンルームは建築できない状況になっている。

供給が大幅に減少したことで希少性が高まり、需給バランスの歪みが価格を押し上げている状態だ。芦沢さんは「16平米ぐらいの3点ユニットは未来永劫増えないのだから、いわば競合が100%生まれないマーケット。『未来が読める投資』に参入者が殺到するのはある意味必然といえます」と語る。

芦沢さんによると、限定的な市場であるワンルーム区分投資には昔から独自のマニアが存在する。売りに出た物件の名前を聞くだけで外観や共用部の管理状態が頭に浮かび、過去10年の賃料推移や修繕履歴、積立額まで正確に把握しているようなレベルだという。「一棟物件のように現地を見に行っていたら間に合いません。業者が馴染みのオーナーだけに情報を流した段階で即決が必要な”戦場”です」

「都心を買い漁る」中国マネー

価格上昇のもう一つの要因として、芦沢さんは「中国系の個人投資家による”爆買い”の影響が大きい」とみている。投資対象が高級タワーマンションだけでなく、都心の中古狭小ワンルームにまで広がっているという見方だ。「日本の仲介業者が香港や台湾で中古ワンルームのセミナーを開くと、資料を持参した20件近い物件が全部その場で完売してしまうと聞きます」。参加者はスカイツリーと羽田空港、それに物件の位置だけが書いてある簡略なチラシのみを見て購入を決めるのだという。

中国人投資家にとって日本の不動産の利回りは魅力的で、現金で購入できる手ごろさから中古区分の人気も高まっているようだ。「彼らはブランド力の高さを重視するので、都心3区などは圧倒的に足が速い」と芦沢さん。「この1年ぐらいは凄まじい競争で、真っ向勝負になった結果、満額以上の『被せ』の買い付けで持っていかれることもあります」。逆に武蔵小杉や立川など、国外での知名度は低いが発展中のエリアは狙い目で、「昨年、武蔵小杉で2戸立て続けに買ったときにはほとんど競争になりませんでした」と振り返る。

快適さよりも「立地」と「安さ」

供給数が減る中で、割安な狭小ワンルームのニーズは高まっている。芦沢さんが所有している区分のうち47戸が3点ユニットだが、現在は全て満室。「昨年の夏に町田の物件を掃除しに行ったら、エレベーターの前に行列ができていて、何かな、と思ったらみんな私の物件を内見に来た人だったんです。需要が高まっていることを実感した光景でした」

特に賃貸需要の高まりを感じるようになったのはアベノミクス以降だという。「民主党政権時代は川崎駅徒歩7分という抜群の立地でも1、2カ月埋まらないことがありました。昨年ぐらいからはほぼ1週間以内で決まり、ルームクリーニングが終わる前に成約することも。1カ月空くことはまずありません」

今年3月に600万円弱で購入した品川の区分は、築32年でわずか9平米だが、家賃5万9000円の設定で表面利回りは10%弱。入居しているのは20代後半の女性会社員だ。大井町駅徒歩5分の好立地で、「仕事も忙しいから夜中に帰って寝るだけで、ホテルと同じ感覚なのでは」と芦沢さん。別の家賃5万円台の物件の入居者の中には、中央省庁の官僚もいるという。

品川の物件の新築時パンフレット写真。バブルの入り口だった1985年発販売開始で、歴史を感じさせる1 枚

実際に、立地と家賃に惹かれて3点ユニットを選択する現代人は多い。横浜市港北区の会社員の男性(38)は「毎日仕事から帰ってくるのは深夜で、休日も忙しい。ゆっくりお風呂に入る時間もないから、3点ユニットのシャワーで十分」と語る。東京都渋谷区の会社員の男性(31)も「駅近の物件では家賃の面で3点ユニットしか選択肢がなかった。住んでみるとトイレもシャワーで丸洗いできるし、思ったより使いやすい」と、それほど不便さは感じていないようだ。

「3つの誤算」が異常な状況を生み出した

3点ユニットは1964年の東京オリンピック開催に向けたホテルの建設ラッシュに伴って登場し、バブル期に大量供給された。キャピタルゲイン狙いの投資が主流だった当時は居住性もそれほど重視されず、銀行も積極的に融資していたが、バブル崩壊後はインカムゲイン狙いの投資に軸が移り、競争力の弱さから徐々に人気が落ち込んでいった。

芦沢さんが不動産投資を始めた1990年代は物件価格が急落していた時代。当時は投資や経済の専門家の間でも、3点ユニットに関して「10年後には借り手がいなくなる」「100万円以下でも売れない時代が来る」という見方が大勢だった。そんな予想に反してここ数年、入居者のニーズが高まっていった背景には、いくつかの社会的要因がある。

「3つの誤算」

1つは若年層の低所得化による”住まいの貧困”だ。総務省の統計によると、1984年に604万人だった非正規雇用労働者の数は2016年末で2042万人まで増加し、全労働者に占める割合は15.3%から37.7%と急激に上昇している。

国税庁の2015年民間給与実態統計調査では、非正規雇用労働者の平均年収は正規雇用労働者の485万円を大きく下回る171万円。少ない収入の中から家賃に充てられる金額は限られている。芦沢さんは「年収250万円だとしても、月の手取りは15万円程度。家賃として払えるのは3分の1の5万円前後が限界でしょう」と語る。

さらに、在留外国人の増加も大きく影響している。日本学生支援機構によると、16年5月1日現在の外国人留学生数は23万9287人で、前年から14.8%増加。09年の入管難民法改正で留学のハードルが引き下げられたことも追い風となり、右肩上がりを続けている。

芦沢さんの所有物件でも韓国人や中国人、フィリピン人などの入居者は増加傾向にあり、「3点ユニットを見て『まるでホテルに住むみたい』と喜ぶ外国人入居者もいます」。都心の学校に通う学生は本国ではエリート層が大半であることから、家賃滞納などトラブルのリスクが低いという考えもあるようだ。

高齢の生活保護受給者の増加も要因の1つ。芦沢さんが都心で所有している区分は50歳以上の入居者も多く、最高齢は75歳。多くはリストラに遭うなどした生活保護受給者だという。「川崎や横浜など、都市性があって駅に近い物件が人気です。補助金が社会保険事務所等から直接振り込まれるので滞納の心配はありません」

若年層の貧困化と外国人の流入増、そして高齢者の経済的困窮。芦沢さんは「すべてバブルの時代には予想できなかったこと」と実感を込めて語る。「賃金が右肩上がりの経済状況が続いていたら、3点ユニットは見向きもされなくなっていたでしょう。東京への一極集中も含めたマクロ的な潮流の中で、必然的にニーズが高まっていった結果だと思います。同じ3点ユニット部屋でも、郊外アパートと都心ワンルームでは別次元の物件と考えるべきです」

3点ユニットで「勝つ」ための戦略とは

現金での区分投資に絞っている芦沢さんの現在の年間手取り額は約2500万円に上る。最も重視しているのは立地で、都内では渋谷、世田谷、目黒などの城西・城南地区が中心。都内以外でも川崎や横浜、大宮など、東京との距離より「都市性の高さ」をポイントとしている。

家賃設定は「将来的に賃料が下落したり、老朽化で管理費・修繕積立金が上がったりしても採算が取れる目安」という5万円が一つのライン。同じような条件のバス・トイレ別の物件よりは1万円程度割安で価格的な競争力はあり、三軒茶屋や池尻あたりのエリアでは7万円でも埋まるという。

30平米以上の1LDKなど、広めのバス・トイレ別の物件には投資していない。「都心では10万円以上の家賃を払える人なら持ち家に向かうので、頑張っても9万円。そうなると利回りは8%を切るぐらいで、維持費の高さもネックになります」

修繕費用の低さ

3点ユニットの大きな利点は、バス・トイレ別の物件に比べて維持コストが低いことだ。芦沢さんは「都心のワンルームなら3万円ぐらいでルームクリーニングでき、敷金以内で内装復旧が可能なケースもある。30年ぐらいでトラブルは起こりますが、ユニットバスを入れ替えることになっても70万円見れば余裕です」と語る。

実際に川崎の物件では、壁が変色して床にゴキブリが住み着き、キッチンもひどい有り様だった部屋がわずか40万円で生まれ変わった。「戸建てでこんな状態だったら復旧に200~300万円かかりますが、ワンルームなら何があっても平気なので怖くありません」

40万円の工事費で新築同様に生まれ変わった川崎のワンルーム

著しい二極化

人口が増えている都心では入居者ニーズが高まっている3点ユニットだが、地域によっては別の側面も見えてくる。

兵庫県神戸市で約20年前、父親が全22戸の3点ユニットワンルームマンションを購入したという女性(36)は「当時は4万円台後半でも満室でしたが、今では2万円台まで落としても埋まりません」と嘆く。周辺には大学も多かったが、キャンパスの移転や縮小も響いて入居付けは苦しくなっている。

「昔は入居者のほとんどが学生でしたが、今は2、3人。あとは30代後半から40代の単身男性です」。外壁工事やオートロックの交換、水栓交換、アクセントクロスなど手を尽くしたが、満室にはほど遠い状況で、「管理費・修繕積立金や火災保険などを差し引くとほとんど残りません」。

都心では「募集に苦労したことはない」(港区・60代男性)「賃料5万円前後で借り手には困らない」(横浜市・40代男性)などの意見が目立つ一方、「断られる理由となる場合が多い」(兵庫県宝塚市・50代男性)「入居付けでは不利になっている」(千葉県船橋市・40代男性)といった意見も。大分県大分市の男性(48)は「地方の3点ユニットはバス・トイレ分離工事をして募集していますが、都心に近い物件は分離するスペースがないのでそのまま。それでも入居は付いています」と語る。

選ばれる立地を

物件価格が高騰し続けている現在、3点ユニットの区分投資に参入する旨みはあるのだろうか。バブル期に大量供給された物件が今後、築30年、40年を迎えたときの建て替え問題もリスクの一つだ。

芦沢さんは「立地的な優位性がなく家賃下落が激しいエリアでは、物理的な建て替え問題より先に、維持費を家賃で回せない『経済的な立ち枯れ』が出てくるのでは」と指摘する。「渋谷や世田谷、目黒などの賃料は30年前とほぼ同じ。少し離れた橋本や町田、立川あたりでも10年前に比べて1万円弱の下落で踏み止まっていますが、その周辺エリアではもっと大きく落ち込んでいるのが現状です」

「立地は線や面ではなく『点(スポット)』で見ることが重要」と芦沢さんは強調する。都心周辺でも人気エリアであれば割安物件の入居者ニーズは依然として高い。家賃下落リスクが低いエリアをスポット的に選び、出口も視野に入れた戦略をとることが「負けない投資」には必要になってくる。

(楽待新聞編集部 金澤徹)