高齢者や障害者、低所得者などの「住宅確保要配慮者」に対し、民間の空き家を賃貸住宅として供給する制度などを含む「住宅セーフティネット法」の改正案が今年2月に閣議決定された。増加傾向にある空き家と要配慮者をマッチングさせる取り組みで、「入居を拒まない住宅」の登録制度や改修費の補助などの支援策が盛り込まれている。

社会的弱者の救済という大きな意義に加え、空室対策に悩むオーナーにもメリットがある施策なのか。改正法案の概要を探る。

高齢者を拒む社会

70.2%―。

この数字は、日本賃貸住宅管理協会が2015年に大家27万人を対象に実施したアンケートで「高齢者の入居に拒否感がある」と答えた人の割合だ。さらに、13.4%が「単身高齢者や高齢者世帯の入居を拒否している」と回答した。

入居を拒否する理由の上位には、「家賃の滞納」や「居室内での死亡事故」に対する不安などが挙がった。この結果から分かる通り、生活保護の受給条件を満たさない「隠れ貧困層」の高齢者などが住宅の確保に苦労している現状がある。

家賃の支払いに苦しむ存在

65歳以上の一人暮らし高齢者は増加し続けている。内閣府の「平成28年版高齢社会白書」によると、1980年の88万人から、2010年には479万人に増加。今から13年後の2030年には762万人まで増えると推計されている。

高齢者だけではなく、一人親世帯も住宅確保要配慮者に該当する。総務省の「平成26年全国消費実態調査」によると、平均世帯年収は夫婦子世帯の668万円に対し、一人親世帯は296万円と、夫婦子世帯の半分以下。また若年層の収入減にも歯止めがかからず、国税庁の「民間給与実態統計調査」では、1997年に474万円だった30代の平均年収が2015年に416万円までダウンしている。

全国に放置された空き家は800万戸以上

空き家の数は03年以降の10年で、660万戸から820万戸と1.2倍に増加している。そのうち、最寄り駅から1km圏内に位置し、腐朽破損がなく簡単な手入れさえすれば住宅として使えるようになる「活用しやすい空き家」は137万戸。そのほか、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や、建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅などが48万戸あると推計されている。

国土交通省住宅局住宅総合整備課課長補佐の鈴木健介さんは「民間の賃貸住宅で、耐震性に問題がなく、駅近であるといった良い物件も存在します。『活用しやすい空き家』と住宅確保要配慮者をマッチングできないか、という狙いから法改正へと動き出したわけです」と説明する。

住宅セーフティネット法は2007年に制定された後、10年の時を経て一部改正されることになった。今秋の施行が見込まれており、大きく3つの枠組みが付加される予定だ。

1. 大家が物件を「拒まない住宅」として都道府県などに登録できる

1つめは「住宅確保要配慮者向け」の賃貸住宅の登録制度。大家が自らの所有する物件を「要配慮者の入居を拒まない住宅」として都道府県などに申請・登録し、登録が済んだ住宅については都道府県などが情報を開示する仕組みだ。

国はできるだけ多くの都道府県・市区町村に動いてほしいと考えているようだ。鈴木さんは「この登録制度を開始するにあたり、国から都道府県・市区町村に働きかけ、住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の供給促進計画を策定してもらいます。都道府県・市区町村は国の基本方針に基づき、地域の実情に合わせて供給目標や施策を規定します」と語る。

登録基準は、居住面積が原則25平方メートル以上であること、一定の耐震性能があることなど。都道府県・市区町村が策定した供給促進計画によって、登録基準の強化や緩和が可能となる。たとえ新耐震基準を満たしていなくても、耐震診断を受け、適切な耐震補強がなされていれば申請は承認される。国交省は2020年度末までに、基準をクリアした登録住宅を17万5000戸まで増やすことを目標に掲げている。

2. 改修費の補助対象は、要配慮者限定の「専用住宅」のみ

2つめは、要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の改修・入居への経済的支援。大家が住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅として登録した住宅(以下登録住宅)について、改修費を補助する。バリアフリー工事などに対しては1戸当たり最大100万円、耐震改修工事や間取り変更工事などの大がかりな改修に対しては同200万円の補助を想定している。

このときに注意しなければならない点がある。補助を受けた登録住宅はすべて、住宅確保要配慮者に該当する人にのみ貸し出せる「専用住宅」となることだ。つまり、入居に際して不安要素のない人が入居を希望しても「専用住宅だから」という理由で断らなければいけない。

専用住宅では入居する人のうち、所得が低いなど一定の要件を満たし、地方公共団体が補助を行う場合には、最大で月4万円の家賃補助と、最大6万円(入居時)の家賃債務保証料の補助を受けられる。これらの補助は国と地方公共団体が1/2ずつ負担し、補助金は大家などへ振り込まれる。

大家としては、補助を受けて物件をバリアフリー化したり、リフォームしたりすることは、結果的に得だといえるのだろうか。鈴木さんは「専用住宅は金銭的な補助を受けられますが、貸し出せるのは住宅確保要配慮者のみです。補助を受けない登録住宅と比べると、空室が続く可能性があることも考慮に入れなければならないでしょう」と指摘する。

登録住宅であれば、住宅確保要配慮者以外が入居を希望してきても断る必要はない。また登録住宅にしておくだけで、大家と入居者とのマッチングなどを行う「居住支援法人」を通じて客付けの恩恵を受けられるなどのメリットもある。

入居者のターゲットを住宅確保要配慮者のみ絞り込む勇気があり、かつ国の補助金を活用して物件に大きく手を加えたいのであれば、専用住宅として登録するという選択もあるだろう。

3. 生活保護受給者の住宅扶助費が代理納付される可能性も

3つめは、住宅確保要配慮者のマッチング・入居支援を行うこと。登録住宅などの情報提供や入居相談、大家と入居希望者とのマッチングなどの役目を果たす「居住支援協議会」の活動の中核となる「居住支援法人」の指定制度を設け、居住支援活動に対して補助を行う。基準を満たす組織であれば、NPO法人や民間企業など形態は問わない。実際に指定されるのは法律施行後になるため、早くても今秋以降となる。

また、住宅確保要配慮者の入居支援と関連し、生活保護受給者の住宅扶助費の代理納付を推進する措置も盛り込まれる。生活保護受給者全員に代理納付が適用されるわけではなく、個別の事情を鑑みて判断し、代理納付が認められた場合は地方公共団体から大家へ直接入金されることになる。

鈴木さんは「生活保護受給者は大家さんに拒否感を持たれてしまうケースがあります。住宅扶助費が大家さんへ直接納付される仕組みがあれば、安心して受け入れられるようになるのでは、と考えています。そこで、代理納付の要否を判断する手続きの規定を設けることにしたのです」

現役大家はこうみている

住宅セーフティネット法の改正案について、現役の大家たちの見方はどうか。派遣社員として働きながら、首都圏でアパート2棟、戸建て2棟を所有する派遣大家NAOさんは、大きく3つの懸念点を挙げる。

(1)入居者は家賃を払い続けられるのか

(2)入居者が亡くなった後の貸家の価値、入居付け

(3)入居後にトラブルが起こる可能性

「(1)の家賃については一定の補助が出るようなので、懸念としては小さめかもしれません。しかし、(2)と(3)について心配する大家は少なくないと思います」(NAOさん)

NAOさんが特に不安なのは、住宅確保要配慮者の中でも、高齢者を入居させることだという。自然死の場合、告知義務はないものの、入居希望者から聞かれた際は誠実に答える必要があり、その事実は伝わってしまう。

「老衰や病死など高齢者が自然死した部屋には入居したくない、という人は少なくないと不動産会社から聞きます」とNAOさん。入居付けへの影響以外にも、自然死してからしばらく放置された場合、特殊清掃業者など膨大なコストが生じる可能性もあるからだ。

改正法案では、居住支援法人や居住支援協議会などによる居住支援活動を充実させ、定期的に自宅を訪問したり、毎日指定した時間に電話をかけたりして、高齢者の安否確認を行う様々な見守りサービスの提供を行っていくことになる。NAOさんは「空き家や空室を所有する大家の中には、(2)と(3)の懸念点に関して対策を講じることで、登録住宅(専用住宅)にしようと思う人も出てくるのではないでしょうか」と語る。

では、大家として賃貸をしている人ではなく、相続などで空き家を所有している人であれば、登録住宅(専用住宅)化に興味を持つだろうか。

NAOさんは「空き家を相続したものの、更地にするよりも建物を残しておく方が固定資産税が優遇されるから、と空き家を放置している人も多いです。そういった人は、空き家を活用して賃貸しようなどとは考えていないはず」と指摘。「改修費や家賃を一部補助するのは確かに魅力ですが、彼らを動かすにはプラスアルファの施策も必要なのかもしれません」

支援策をどう生かすか

「これから高齢者は増えていきますし、一旦入居いただくと長く住んでもらえるので、以前から受け入れるようにしています」

岡山市に複数の物件を所有する「岡山大家」さんは「相応の補助金が出るなら、築古の物件をバリアフリー化したりリフォームしたりして、専用住宅にするのもアリだと思っています」と前向きにとらえている。

生活保護受給者の代理納付が推進される仕組みが設けられることについては「大家にとってはいい話だと思います」と歓迎。「隣の倉敷市では生活保護受給者の方の代理納付を行っていますが、安心感がありますね」

単身高齢者の数が右肩上がりを続け、若年層の収入が落ち込む現代社会。増え続ける空き家をセーフティネットとして活用するには、オーナーの意識が変わっていくことも必要だ。改正法案がそのきっかけとなるか、今後の行方が注目される。