中央大学の「看板」である法学部が、2022年までに文京区の後楽園キャンパスへ移転することが決まった。中央大学といえば、1978年に文系学部を千代田区から八王子の多摩キャンパスへ移転させた「郊外移転型大学」の象徴的存在だったが、再び都心へ戻ることになる。少子化の進行で生き残りをかけた大学間競争が激しさを増し、都心回帰傾向が強まっている昨今。学生入居者を見込んだ不動産投資のリスクが高まる中で、学生向けアパートやワンルームマンションのエリア選びで重要なことは何なのか。現状を探りながら考える。 

学生向け賃貸は「淘汰の時代」 

「八王子市や隣接する日野市では、大学生を当てこんだアパートやワンルームマンションの空室が目立ってきています。空室率は35%に達したとも言われるほどです」 

八王子にある不動産会社の担当者はそう語る。1970年代から始まった大学の郊外移転ブームの流れの中で、大学側の要請もあり、八王子には多くの学生向けアパートやワンルームマンションが建設された。そのころに建てられた古い物件は老朽化で競争力が低下し、家賃下落が進んでいるという。 

現在、八王子市内には中央大学を含め20の大学があり、約10万人が通う。市街地からキャンパスまで遠い大学も多く、モノレールの開通やバス網の整備で交通の便は改善されてきたものの、依然として多くの学生は通学に苦労しているのが現状。そのため学生寮やアパート、ワンルームマンションは大学の近くに点在している。 

一大「学生タウン」ともいえる八王子だが、近年は大学の都心回帰が加速。中央以外では、すでに法政、杏林、共立女子、拓殖、実践女子などの大学の一部が都心のキャンパスへ移り、近隣の国士館、大妻女子も一部が移転した。 

そんな状況の中で、学生向けアパートやワンルームマンションの競争は激しさを増している。前出の不動産会社の担当者は「2008年のリーマンショック以降は金融機関の融資が厳しくなりましたが、アパートやワンルームマンション建設に対しては多少緩和されていたこともあり、供給過剰が空室率を押し上げている状態です」と語る。 

学生向けワンルームマンションやアパートが林立する八王子の大塚・帝京大学駅前

目減りする仕送り

アパートやワンルームマンションに入居する学生のほとんどは地方出身者だ。八王子にある各大学の地方出身者の割合は大学によって異なるものの、大学のホームページなどによると、50%弱が親元を離れて暮らしていると推定される。そのうち、八王子市内で暮らす学生はどれくらいなのだろうか。 

市役所に問い合わせたところ、「年齢別の統計はあるが、19~22歳までの人口のうち大学生であるかどうかは分からない」とのこと。年齢別の統計を過去にさかのぼって調べてみると、毎年、17歳、18歳の人口がおおむね5500人で、19~22歳のゾーンになると平均7500人、そして卒業する23歳、24歳になると6000人が平均となる。乱暴な推定だが、大学生活を送る4年間で毎年1500~2000人ずつ増加しているので、6500~8000人の大学生が地方から八王子市内に下宿していると考えることができる。 

東京地区私立大学教職員組合連合のデータによると、首都圏の私大に入学した学生への平均仕送り額は15年以上連続で減少しており、近年は8万円台まで下がっている。学生たちは知恵を絞りながら就職活動やアルバイトに励み、金銭的に厳しい生活を乗り切っているのだ。 

大学までは自転車で

「家賃は3万3000円です。仕送りが7万円なので、古くても我慢ですね」 

今春、福島の県立高校から中央大学に進学したAさんが住んでいるのは、京王線高幡不動駅から自転車で5分ほどの物件。「兄も中大に通っていて3月に卒業したのですが、大家さんに交渉してそのまま入居しました。築年数はおそらく30年以上。家具や家電製品、布団から食器まで、兄が使っていたものを利用しています」。大学までは片道210円のモノレール代を節約するため、兄のお下がり自転車で通学している。「坂道を20分弱ですからきついですけど、帰りはこがなくても帰れます(笑)」 

大学近くのアパートより5000円~1万円程度安い上、この先始めようと思っているアルバイトに出かけるのにも駅に近い方が便利だという理由で入居を決めたAさん。同じような理由で駅近のアパートに入居しているクラスメイトは、家賃を交渉して2万円台後半にしてもらったという。 

周辺に学生向けのアパートが林立する京王線高幡不動駅。大学付近のアパートより家賃が安く、割高なモノレールを避けて自転車通学する学生も多い

高幡不動駅は多摩モノレールの接続駅で、中央、明星、帝京など各大学のアクセスに便利。多摩モノレールは多摩センター駅で小田急線・京王線に、立川駅でJR中央線に、玉川上水駅で西武線に乗り換えられる

多様化するニーズ 

学生たちの住まいに対する意識は変化してきているようだ。「今の大学生の生活は通学よりも就職活動やアルバイトが中心で、郊外の大学に通っていても大学の近隣より都心に近いところに住みたいと思っている。予算と移動距離の折り合いを杉並、世田谷、中野あたりでつけているが、家賃の割高なJR中央線は避けて京王線や西武線沿線を選び、古さ、狭さ、設備などを犠牲にしている傾向がある」(教育ジャーナリスト) 

八王子周辺の大学近隣の学生向けアパート、ワンルームマンション家賃の中心帯が4~6万円なのに対して、杉並や世田谷などでは築年数の経った物件でも家賃が10万円を超えることが珍しくない。人気が高い京王線、井の頭線の明大前駅の不動産会社によると、やはり家賃は高めだが、引き合いは多いという。

不人気と言われる3点ユニットバスのワンルームマンションやアパートでも、家賃が相場より1割ほど安めに設定されていることもあり、逆にそのような物件を求める相談を受けることもあるそうだ。 

京王線・井の頭線明大前駅から5分ほどの明治大学和泉キャンパス。文系の1、2年生が通う

明大前駅は新宿、渋谷、吉祥寺まで10分前後と交通至便で人気エリア。家賃は高値安定だが、当然ながら物件価格も高い

新宿、渋谷まで10分程度といった都心と八王子との「中間派」という学生も増えてきている。家賃が世田谷や杉並より1、2万円安い調布や府中のアパートやワンルームマンションは、京王線の特急が停まるため新宿、渋谷へのアクセスが20分以内で学生人気も手堅いという。 

「各駅しか停まらない駅であれば、駅前でもさらに安くなります。バス、トイレ、流し台が独立した人気の間取りやセキュリティ万全の人気物件でも、特急停車駅の物件と同等の家賃で住めるとあって、女子学生の問い合わせが多いです」(府中の不動産会社) 

八王子に勝ち筋はあるか 

不動産投資を行う上で入居者のターゲットを想定することは重要だが、長期投資で一つの企業、一つの大学をあてにするのは撤退や移転などのリスクが大きい。その点、八王子をはじめ多摩地区にはまだまだ学生数は多い。八王子はこの先見込みがないのかといえば、青山学院大学1、2年生の都心回帰による相模原のダメージに比べ、そこまで深刻ではなさそうだ。 

前出の地元不動産会社は「苦戦していることは確かですが、値引きに応じたりして入居者を確保しているオーナーさんも増えてきています。古くてもオーナー自身がこまめに修繕や掃除をするなど、いつも建物の維持に気をかけているところは空室になりにくいのでは」と分析。「空室になったときに業者任せでなく、大型店で流行のテーブルやイス、中にはソファやベッドといった家具を調達し、初めて一人暮らしをする若者にアピールして家賃を落とすことなく入居者が絶えないアパートもあります」 

この先、郊外の大学が都心回帰を発表しても、実施まで5年くらいの準備期間が必要になる。時間の猶予はあるので、リフォームして競争力を高めるか、ある程度の利回りを確保しつつ家賃を下げて手を加えずそのままでいくか―。学生がいなくなるわけではないので、ここは戦略次第ということだ。 

「捨て値の古い建物を購入し、安い家賃で入居者を確保するという方法もあるでしょうし、なるべくお金をかけずに、学生のニーズに合わせた家具などをそろえた競争力のある部屋を提供して、高い利回りを維持していく手もあると思います。ただ、相続対策でアパートが乱立しているので、投資目的で学生向けの新築アパートを建てるのはお勧めできません」(前出・地元不動産会社) 

今後の大学移転の流れは

八王子に限らず、郊外から都心への移転の予定がある大学はほかにもあるだろうか。すでに発表されているのが日本女子大学で、2021年の創立120周年を期に、家政学部、文学部、人間社会学部、理学部の4学部と大学院が、川崎の西生田キャンパスから目白キャンパスに統合される。 

複数の大学関係者に聞いたところ、経営学部が久喜から神楽坂に移転した東京理科大学が全面移転か―という噂以外には、ごく一部が都内のキャンパスに移転したり、学部が新設されたりすることはあっても、大きな動きを聞き出すことはできなかった。 

前出の教育ジャーナリストは「すでにキャンパスが都心にあって、看板学部・人気学部や法学部、経済学部、経営学部のように就職に有利といわれる学部が郊外にとどまっている場合は、可能性はゼロとはいえない」と指摘。「逆に文学部、人間関係学部、環境学部、福祉学部、理学部のように研究を重視する学部は、落ち着いた郊外のキャンパスにとどまる傾向がある。また、国公立大学は移転の可能性は極めて低いと考えられます」 

大学が都心回帰しても影響が少ないケースもある。立正大学の法学部は熊谷から大崎に移転したが、そもそも熊谷駅から5キロほど離れた熊谷キャンパスの周辺には店らしい店もなく快適に暮らせないという理由で、学生が住むアパートやワンルームマンションは生活に便利な熊谷駅周辺に多い。駅周辺の不動産会社によれば、移転による大きな影響は感じられないという。 

また、東京理科大学経営学部の移転に関しても、久喜ではなく乗り換えなしで通学できて生活にも便利な大宮周辺を選んでいる学生が多いため、移転しても引っ越しせずにそのまま神楽坂へ通うケースが目立つという。つまり、大学至近のアパートが必ずしも学生に喜ばれるとは限らないということだ。 

都心寄りなら狭くても 

大学の都心回帰の流れの中、八王子以外で学生向けのアパート、ワンルームマンション投資をするならどのエリアを検討すべきか。都心に移転しても学生が都心の一等地に住めるわけではなく、八王子の大学群の中間点である府中、調布の物件は投資対象として手堅いということができる。 

中央大学法学部の学生数は約1600人、日本女子大が大学院を含め約6500人、すでに八王子から三鷹に移転した杏林大学の学生数は約4000人。そのほか、移転の可能性が低い東京外語、電通、東京農工、ICU、桐朋学園などの大学がある府中、調布エリアは、家賃が高めの中央沿線の武蔵野、三鷹、小金井や国分寺と比較しても競争力は高そうだ。八王子の大学群、都心の大学に通う学生向けのアパート、ワンルームマンションに投資するというのであれば、武蔵野地区の京王線沿線はマークすべきエリアではないだろうか。 

また、杉並、世田谷の京王線沿線なら、あえてワンルームマンション規制前の古くて狭い3点ユニットバスルームの物件も狙い目といえる。購入価格を抑えて安めの家賃で提供できれば、就活・アルバイト中心の学生には十分に魅力的だ。もちろん物件価格も八王子に比べれば高いので、入念な戦略も欠かせないところではある。

(楽待新聞編集部/三星雅人)