同じエリアにある不動産でも、接道状況によって資産価値に大きな差異が生じる。建築基準法では「建築物の敷地は幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接しなければならない」と定められており、接道義務を満たさない物件は「再建築不可」として扱われる。将来の建て替えが難しいため担保価値が低く、ほとんどの金融機関で融資が期待できないことから「初心者にはおすすめできない」と紹介する不動産投資本も多い。しかし、そんな再建築不可物件を「あえて」購入する不動産投資家もいる。彼らの投資判断はどのようなものだったのか。

Case.1 世田谷の再建築不可戸建をフルリフォーム

「もともとは屋根に大きな穴が空いていて、空が見える状態でした。2階の押し入れを開けたら、鳥の巣が見つかるような有り様だったんです」

長らく市場で見放されていた築52年の再建築不可戸建をフルリノベーションし、賃貸住宅として蘇らせた不動産投資家のGさん(50代)。世田谷という立地に加え、建物までのアプローチ部分や隣家の様子などから総合的に判断し、傷みが激しい物件の購入を決めた。最寄り駅周辺は近年再開発が進み、カフェが複数出店するなど住みやすい街として再評価されており、街の「伸びしろ」も投資を後押し。購入にあたって、再建築不可物件にも融資を出すノンバンクから700万円を調達した。

物件価格は路線価に敷地面積をかけた評価額と比べて半額近くと、かなり割安ではある。しかし、長年放置された建物のコンディションは悪く、再生費用がどの程度になるか判断が難しい状況だった。しかし、「日頃から知り合いの大家さんの再生物件を多く見ることで、自分なりにリノベーションの坪単価や予算感に基準を持っていたので、ざっくりと費用を把握していました」とGさん。大家仲間から紹介された練馬区の建設業者に工事を発注、リノベーション費用の800万円は建設業者の提携ローンを利用し、金利2.5%、15年の条件で融資を受けた。

屋根から空が見えた物件がフルリノベーションでよみがえった

Gさんは「木造は鉄骨やRCと異なり、構造レベルから根本的に再生できる点が魅力です」と語る。今の建物を使い続けることが必須となる再建築不可物件と、木造フルリフォームの組み合わせは相性が良いという。新築同然に再生した物件は、Gさんの意向を反映した「男の隠れ家」仕様。電鋼管を採用した露出配線やシーリングファンで差別化が図られ、小さいながらも庭付きのためバーベキューも楽しめる。賃料は坪単価1万円を想定した価格で募集し、実際には坪単価9500円で入居者が決定。これは新築に匹敵する数字で、利回りは10%を超える。

「今後の投資物件選びは、エリアにこだわるつもりです。エリアさえ良ければそれに見合った賃料が期待できるので、再建築不可のデメリットはあまり気にならないですね」(Gさん)

Case.2 風呂なし再建築不可アパートをフルリノベでデザイナーズ物件に

露出した梁と無垢のフローリングが印象的なナチュラルテイストの内装。川崎市在住のS山さん(40代)は、1200万円の予算をかけて再建築不可アパートをリノベーションした。

物件との出会いは、東日本大震災があった2011年にさかのぼる。「想定利回り20%物件」として1600万円で売りに出ていた川崎市内の木造4世帯の再建築不可アパートに目をつけたS山さん。値下がりしたタイミングで、さらに指値を入れて900万円で物件を購入した。利用したのは日本政策金融公庫の無担保枠融資。 「購入時は全空の状態でした。風呂なし物件ということもあって現状のまま貸すのは厳しいと判断し、全面リノベーションを決意しました」

物件の最寄り駅はローカル駅で、利用客も多くはない。しかし、川崎駅行きのバス便が充実しているエリアであることから、駅前の商業施設「ラゾーナ川崎」が開業すれば人気化するという「読み」も手伝って、物件取得価格より高額となる1200万円をかけてリノベーションすることを決断。「川崎駅までバス10分という点をアピールすれば、ラゾーナで働く人の需要も取り込めるのではと考えました」

水回りも含めてすべて刷新。露出した梁が印象的だ

費用の1200万円は、ノンバンクから融資で調達した。すぐさまリフォームに着工かと思いきや、予期せぬトラブルが待ち構えていた。「通路部分の通行を認めないと主張する隣人と、トラブルが発生してしまったのです。相手の主張に何の法的根拠もないので、本来取り合う必要もないのですが、このままだと業者さんが仕事にならないので話し合いを持つことにしました」

話し合いの場に警察が登場するなど紆余曲折はあったものの、問題はクリアになり 、工事にも無事取り掛かることができた。トラブル解決のために1年ほど着工が遅れたという。「再建築不可だから隣人トラブルが起きたわけではありません。隣人トラブルは接道に関係なくどんな物件でも起こり得る問題なので、たまたまそういう物件を買ってしまったと考えています」

物件取得費用を抑えた分をリフォーム予算に充てることで、50万円かけてロフトを設けるなど差別化されたコンセプトを作り出すことに成功。リノベーション物件を多数手がける人気デザイナーを起用した内装は感性の高い入居者に刺さり、周辺物件よりも高めの賃料で満室を実現した。現在も利回り15%で安定運営している。

「現金で買う前提であれば、投資家が懸念する『信用毀損』 (借入額が物件の担保価値と個人の信用の合計を超えた状態)を気にしない、という割り切りもできます。見方を変えることで、再建築不可物件でも投資機会を見いだせるのでは」

Case.3 「再建築不可に見えない」再建築不可物件を狙う

「私は属性に問題があって、最初から融資が期待できませんでした。だから発想を変えて、融資が使えない物件を現金で買うことにしたのです」。都内在住のMさん(40代)は23区内、それも都心部に再建築不可物件を所有する不動産投資家だ。

利便性の高いエリアに絞って築古物件を狙っているMさん。借地権かつ再建築不可という条件が重なり、渋谷区で1000万円以下の戸建を現金購入した経験もあるという。Mさんが特に好むのが、「見た目は完全に道路だが、建築基準法上の道路に該当しないため再建築不可の物件」だという。一体どのような物件なのか。

なぜ再建築不可扱いなのか?

「例えば、前面道路が『水路』扱いの物件を所有しています。一見すると普通の道路で車が通れるくらいの幅員もあり、見た印象だけでは問題があるようには見えません。しかし通路の下に水路が通っているため再建築不可扱いとなり、周辺物件と比べてかなり割安に買うことができました」

普段の生活で道路と同様に使用されていても、暗渠の上に敷かれた通路などは法律上「法定外道路」に分類される。このような通路は公図では青く塗られていることから「青線」「青道」と呼ばれ、不動産取引においてチェックすべきポイントの一つとなっている。

青線ではあるものの、車が通行可能な幅員が確保されている場合もあり、Mさんの所有物件のように再建築不可物件でありながら駐車スペースを完備した物件も存在する。「私の場合、駐車スペースは月極で貸し出して、家賃とは別に駐車場代をいただいています」(Mさん)

不動産投資家にとって「接道が建築基準法を満たすか否か」は大きな問題だが、借り手側にとっては最大の関心事になりにくい。立場やニーズの違いから生じる歪みを利用して、駐車場付き戸建賃貸を割安に仕込んだMさん。都心部の希少な駐車場つき戸建物件ということもあり、利回りは20%を越えているという。

Case.4 実需のニーズから外れた大型物件をシェアハウスで運用

昔建てられた広い間取りの住宅をそのまま市場へ売りに出したとしても、核家族化が進むファミリー層からは敬遠されがちだ。通常このような物件は、分筆した後に戸建用地として分譲するのが常套手段となる。ただし、分筆はあくまでも接道が確保されていることが前提。再建築不可の大型物件ともなれば、戸建用地として販売する出口が取れないため買い手不在となりやすい。Uさん(50代)がシェアハウスとして運営する物件も、まさにこのケースに当てはまる。

当初2000万円で売りに出された都内の再建築不可6LDKの物件は、買い手が現れなかったため1400万円でUさんの手に渡ることに。購入資金はメインバンクとして付き合う地銀から融資を受けた。「接道に問題なければ7000万円で売買されるようなエリアの物件です。再建築不可の悪条件を加味しても買いだと判断しました」(Uさん)

建物に傾きが見られたが、1500万円をかけて大改修を実施し、シェアハウスとして運用することにしたUさん。開業にあたり、家具、家電を用意するため別途100万円を追加投資した。「外国人との共同生活を通じて語学力が高まる」というコンセプトを売りにしたシェアハウスは競合物件と差別化されており、入居状況に不安を感じることはないという。シェアハウス運営会社に管理料を支払った上で、利回り14%を実現している。 

施工する立場から見た再建築不可物件とは

再建築不可物件に投資妙味を見出す投資家たち。一方、施工する立場からは再建築不可物件はどのように映るのか。収益物件のリフォーム・リノベーションを数多く手がける「A.BOX工房」代表の日暮敦子さんに話を聞いた。

「ひとくちに再建築不可物件といっても、物件近くに車両を停められるかどうかで、工事のしやすさは大きく変わります。荷受けの場所が物件から離れていると、現場は作業を止める場面も出てきますし、手運びで搬入する人手が追加で必要な場合もあります」

現場での苦労はそのまま人件費に跳ね返ることを、投資家は念頭に置く必要がある。日暮さんは「接道状況が悪すぎる現場では、通常の2割近く工費が高騰するケースも出てくる」と指摘。必然的に工事期間が長引く原因にもなる。

「古い建物を直すには、構造など目に見えないところにも予算を回したいところです。当然お金をかければいくらでもいい物件は作れますが、オーナーさんそれぞれご予算もあります。だから内装など目に見えるところは、メリハリをきかせた直し方が肝になります」。物件の状態とオーナーの予算との兼ね合いを見て「今回は外壁は後回しにして、賃料収入が貯まってから塗装しましょう」といったフレキシブルな提案を心がけているという。

自治体独自の制度も利用できる

再建築不可物件の建替えとなると、隣地買い取りによる接道確保を誰しも思い浮かべるところだが、日暮さんによると、変わった方法で建替えを行ったケースがあったという。「都内の借地・再建築不可物件での事例ですが、接道している隣家に協力いただいて、隣家を『母屋』、再建築不可物件を『離れ』として工事を行ったことがあります」

この事例では借地だったことがミソで、底地が広大な一筆の土地だからこそ、借地権者同士の協力が得やすかったという。このように発想を柔軟にすることで、思わぬ解決策に気がつくことがあるかもしれない。例えば行政独自の取り組みに注目するのもひとつだろう。自治体の中には条件を緩和して再建築の促進を図るところも出ている。新宿区もそのひとつだ。

新宿区は耐震化及び不燃化による高度防災都市化を意図した、無接道敷地の建替え許可基準を独自に設けて運用。再建築不可物件について、道路に接するが接道長さが2メートル未満の「路地状敷地タイプ」と、道路に接しない「通路タイプ」に分類し、それぞれの許可基準を定めている。

新宿区ホームページより

例えば路地状敷地タイプの物件は、基準を満たせば接道幅1.5メートルでも再建築の許可が下りることになる。

新宿区ホームページより

新宿区都市計画部建築指導課建築審査主査の柊久夫氏は「再建築に際しては、近隣への事前説明が一層重要になります」と指摘。たとえ許可を得ていても、接道2メートル未満の土地で突然工事がはじまると近隣から問い合わせが入ることがあるという。特に隣地所有者が買い取りを希望していた場合、確定測量や捺印への協力を得られず、思わぬトラブルに発展することもある。そのため日頃からの近所付き合いによるコミュニケーションが重要となる。

新宿区都市計画部建築指導課建築審査主査 柊久夫氏

新宿区では再建築の基準整備後、区民からの相談も寄せられているが、まだまだ周知が行き届いてないという。今後も区内の各出張所で無料の建築相談会を開催し、無接道敷地の安全性を確保しながら、建替えによる耐震化及び不燃化を促進する方針。あくまで「一戸建て」の建築が対象で、「集合住宅」は基準外となる点は注意が必要だろう。

防災の観点から再建築不可物件の建替え促進を打ち出している自治体は新宿区に限らない。もし再建築不可物件の取得を検討するのであれば、自治体のホームページや建築指導課への確認をしておきたいところだ。再建築不可の不動産を有効活用したい所有者と、建替えによる耐震化及び不燃化を促進したい行政。両者の思惑が噛み合うことで、接道基準を満たさない土地にも活用の途が拓かれるかもしれない。 

投資家としての力量次第

さまざまな戦略や判断をもって、「あえて」再建築不可物件を取得する投資家たち。多くが老朽化した空き家を投資対象とするので、物件再生や客付けが地域の治安や防犯にも一役買っている形だ。

物件購入に際しては、現金買いのほか、日本政策金融公庫やノンバンクを利用するケースが目立っている。「都内の物件で1000万円以下の価格であれば、常に『現金買い』が期待できるので流動性への不安は少ない」という意見もあった。 

所有物件の出口に関しては、隣地との一体化による再建築可を理想とする声が聞かれた。接道義務を満たすようになれば、再建築不可物件の資産価値は「大化け」することになり、少数だが実例も存在している。ただし、あくまでも幸運が重なった結果といえ、多くの再建築不可物件があてはまるとは限らない。そのため基本的に「擦り切れるまで物件を使い倒す」想定のオーナーが多い。

再建築不可物件への投資は、これから規模の拡大を目指すのであればセオリー通り見送るのが無難かもしれない。しかし、資産状況と借り入れ状況、物件状況の組み合わせ次第では、取得に値するという投資家の判断が垣間見えた。そこに投資機会を見い出せるかどうかは、投資家としての経験や力量が問われることになる。

(楽待新聞編集部)