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日本の人口は減少の一途をたどる予測だ。国立社会保障・人口問題研究所によると、外国人を含む総人口は2060年についに1億人を切る推計となっている。また、核家族化が進んだ影響で著しい減少がなかった世帯数も、2019年をピークに減少する見通しだという。

一方で、国内の外国人人口は175万人(平成27年度の国勢調査)となり、わずか5年で10万人以上も増加している。しかしながら、外国人の受け皿は広がらず、4割もの外国人が賃貸物件の入居を拒まれた経験を持っているという。

空室に悩む賃貸オーナーが多い中、外国人の入居を受け入れないのはなぜか。背景に潜む問題点と、外国人を受け入れるメリットを探った。「外国人入居者」と聞くとトラブルが多いイメージもあるが、積極的に受け入れるオーナーは「外国人の受け入れこそ収益アップにつながる」と言い、半分以上空室だった3点ユニットの築40年の木造アパートが、外国人の入居を受け入れただけで、相場より高い家賃で、即満室になった事例もあるほどだ。

外国人を入居させると日本人入居者が退去する?

広島県で5棟の物件を所有する西田勝彦さんは、所有物件では外国人を許可していない。

西田さんはその理由を「外国人に入居してもらっても、生活習慣の違いなどがあってマンション内の雰囲気が変わってしまい、日本人の入居者さんが出て行ってしまうことがあると管理会社に言われたからです」と明かしてくれた。

同氏が所有する物件は広島大学にも近く、多くの外国人留学生の入居も想定できる。古いアパートでも満室経営につなげられるメリットは理解しており、「いずれ外国人を受け入れる可能性はあります」と話す。しかし「まだ受け入れ態勢が整っておらず、現在は外国人の入居はお断りしています」と外国人入居に対するリサーチ不足や心構えができていない内情を語った。

中華料理の油で、原状回復費を2倍請求

大阪府の奥和貴さんは、所有する名古屋大学前の学生マンションで起きたこんなトラブルを話してくれた。

「中国からの留学生で、特に女性ですが、油を大量に使う中華料理を自炊するせいでキッチンが油でギトギトになってしまうことがあります。大学生なのでだいたい4年、院までいけば6年間の入居ですが、その油汚れは46年間とは思えないほどひどいものでした」

壁紙の貼り替えなどもあり、普通ならクリーニングだけで済むところを、原状回復費は通常の2倍程度請求し、なんとか回収したという。

政府は外国人受け入れを拡大

前述のとおり、日本国内の外国人人口は増えており、今後はさらに国をあげて外国人の受け入れを強化する方針だ。政府は、国家戦略特区で農業分野への外国人材の受け入れを検討する方針を掲げるほか、2020年までに30万人の留学生を受け入れる計画を推進している。

一方で、法務省が3月に発表した調査報告書によると、日本で家を探したことのある外国人2044人のうち、約4割が外国人であることを理由に入居を断られたことがあるという。そのうち、「日本語の会話ができない」と答えている人はわずか約8%。ほとんどの人は日本語での会話に支障がないにもかかわらず、入居することができなかったと回答している。

実際に起こったトラブルを聞くことで不安だけが残り、結果として外国人入居者の受け入れに踏み出せないオーナーが多いのが実態のようだ。

外国人入居者がトラブルを起こす理由

「入居前にきちんと説明すれば、ほとんどのトラブルは回避できます」

そう断言するのは、外国人専門の賃貸住宅保証サービスなどを手掛ける「グローバルトラストネットワークス」の後藤裕幸代表取締役。同社は外国人が賃貸物件に入居する際の家賃保証を行っており、家賃の滞納が発生した場合には最大48カ月の家賃を保証。そのほか、入居中のあらゆるトラブルや相談に外国籍スタッフが対応している。これまでに8万件を超える契約を行い、月間では3000件以上の問い合わせがあるという。

家賃保証の他、日々起こる入居者トラブルにも対応している

日本のルールを知らない外国人入居者

後藤氏は「もちろん日本ですから、日本のルールが勝ちます。しかし、日本の常識がすべての国の人にとっても常識とはならないので、単純に『外国人だからおかしい、変だ』と決めつけないことが重要です」と話す。外国人の中には、賃貸住宅を借りる際の保証人制度や、敷金・礼金のルール、原状回復のルールなどを知らない人もいるという。

「例えば大家族の多いフィリピンでは、1部屋に複数人で住むことは普通です。敬虔なクリスチャンとして教会に通っている人も多く、そこで知り合ったフィリピン人が困っていれば、助け合いの精神で自分たちが借りている部屋に、悪気なく連れてきてしまうこともあるのです」

同社では、なぜそれがいけないのか、日本のルールがどうなっているかを相手が理解するまで丁寧に伝えている。

中国や韓国、ベトナムなど13か国の外国人スタッフがいるため、基本的には入居者と同じ国の出身スタッフが説明を尽くす。「自分も日本に来たばかりの時は戸惑った」と経験を話したり、「ルールを守らないと自分たちの国全体が悪いイメージになって迷惑がかかる」と説得したりしているという。

その結果、たいていのトラブルは解決し、きちんとルールに従ってくれる外国人入居者がほとんどだ。

「我々も相手を理解しようと努力することが重要ではないでしょうか。日本に来た外国人は、外国人だからトラブルを起こすわけではなくて、ただそのルールを知らなかっただけなのかもしれません」(後藤さん)

さらに同社のホームページでは、中国語やベトナム語など6か国語で書かれた「日本のアパートの暮らし方」を漫画で紹介している。

画像は中国語のマンガ。「土足はNG」「部屋の中は静かに歩こう」ということを伝えている

アパートのベランダにニワトリ…!?

「ベトナムでは、1500ドル(約15万円)以上の世帯収入があれば、家の掃除などをするメイドがいることが普通です。その他の国でも、学校に清掃員がいるなど、小さいころから自分で掃除をするという感覚がないため、借りた部屋でもほとんど掃除をしないという人も珍しくありません」

笑い話のようだが、アパートのベランダで「家畜」としてニワトリを飼っていた外国人入居者もいたと後藤氏は話す。こういったトラブルの時も、やはり同国出身者の説得が基本だ。

掃除については最初の契約段階の部屋を保つようにも伝える。後藤氏は「海外では、内装を自分でやる人もいるから、退去したそのままの状態で部屋を引き渡されることがほとんどなんです。でも、日本はそうじゃない。『最初からきれいなまま借りたでしょう。だからあなたもこの状態で返さないといけない』と原状回復とはこういうことだと最初から教えてあげないといけないんです」と語る。

「重要事項説明も、よくわからずハイハイ言っている人もいると思うんです。でも、よくわかっていないから問題が起きる。そこで最初から正しく説明しておけば、誤解から生じる悪意のないトラブルは起きません」という後藤氏。また、同社では入居者の保護者との連絡もすぐにとれるようにしているという。

木造築40年、3点ユニットアパートも一瞬で満室

食生活や生活習慣、育ってきた価値観の違いで問題を起こしてしまう外国人入居者。トラブル事例を聞くと、彼らを受け入れるメリットはあるのだろうか、との疑問は強まる。しかし、後藤氏はこんな例を話してくれた。

「埼玉県のある市に、新築のマンションがありました。都心へのアクセスなどは悪くないのですが、近くにラブホテルがあることが原因で、ほとんどが空室でした。そんな状況でしたが、我々が外国人のお客さんを紹介することで空室はほとんど埋まりました」

こんな例もある。「リノベーションはしてありましたが木造築40年の古いアパートで、3点ユニットバス、家賃は7万円と相場に比べてかなり強気な値段で、半分以上空室の物件がありました。しかし、これも外国人2人入居OKで礼金なし、という条件をつけてもらったところ、一瞬ですべての部屋が埋まり、満室になりました」

古かったり、周辺環境が悪かったりする物件でも、外国人を対象とすることで満室につなげられるという。その理由を後藤氏は「ホテル街とか、ボロアパートとか、3点ユニットとか…最近の日本人の、特に若い人は住みたがらないでしょう? でも、外国人は全然気にしません」と解説。その上で「2人入居を許可するとか、礼金をなくすとか、ちょっとしたことさえしてくれれば、今『空気』を入れている物件に『人』を入れることができると思いますよ」とアドバイスした。

家賃収入4割消失の痛手を負っても外国人入居に前のめりのワケ

関東近郊のある地方都市で、銀行からの借り入れを行わずに投資を行うAさんは、外国人の入居者をめぐって「大きな痛手」を負ったことがある。「昨年退去したパキスタン人の入居者さんは掃除をしなかったのか、7年間近く住んだ部屋の退去時はとても汚れがひどかったのです」

物件は木造2階建てのアパートの1室で、約50平米の3DK。家賃は35000円だった。壁紙の張り替えを行う必要があり、当初提示された総額のリフォーム費は60万円超。しかも、事情があってこの入居者からは敷金をもらっていなかったというAさん。天井や壁は塗装で済ませて、なんとか45万円程度に圧縮したという。

Before

After

長年の汚れが染みついていた風呂も、リフォームしてよみがえらせた。

「リフォームを含めた4カ月の空室期間はもちろん家賃収入が得られません。リフォーム代も合わせると、この物件での年間家賃収入の4割が消失したのと同じ計算になってしまいました」とAさん。

それほどの経験をしておきながら、Aさんは最近購入した物件の入居者のターゲットを外国人に絞ろうと、さまざまなリサーチを行っているところだと話す。なぜ外国人の入居を検討しているのか。

外国人受け入れで利回り25%も実現可能

入手したのは関東近郊の地方都市にある3階建ての雑居ビルで、築32年。3階には6世帯あるが、各室1620平米しかなく、3点ユニットバスタイプで「なかなか日本人では入りたがらない人が多く不人気な部屋」(Aさん)。しかし新幹線の停車駅から徒歩7分の立地で外国人も多数おり、需要は大きいとみている。

「この物件も日本人の入居者だけを狙っていたら、満室は難しいかもしれない。しかし外国人を受け入れれば満室にできるだろうと言われています」

不動産会社との会話を明かすAさん。満室になれば利回りは25%にもなるという。

Aさんはすでに現在外国人入居の仲介業務を取り扱う業者ともやりとりを重ね、行動を始めている。

「同じ国の人同士は結束が強く、よく集まるようになるため、よりさまざまな国の人に入居してもらったほうが騒ぎを起こしづらい」など、現在よりよい運営方法を先輩大家や管理会社などから学ぶ日々だ。

Aさんは「日本人の人口減少は間違いないことですから、いろんなリサーチをかけてトラブルをしっかり念頭にいれておけば、外国人の入居者に対し、必要以上に構えることはない。逆に、外国人を入れなければ満室運営は難しくなってくるのではないでしょうか」と話す。多くのオーナーが受け入れを拒否しているという現状がある今だからこそ、外国人を受け入れて賃貸経営をすることが収益アップのカギになると考えている。

前述の、名古屋大学近くにアパートを所有する奥さんは、「自分の物件では外国人をこれからも受け入れます」と話し、その理由を「トラブルがあることをきちんと理解していれば、空室を埋めることができて家賃収入につながるなど、メリットの方が大きいからです」と語る。また、万が一トラブルがあっても損害を被らないよう、大学側が外国人入居者の保証人になってもらうなど、対策を講じているという。

今後の賃貸市場を勝ち抜くために

日本人の人口減少や世帯数減少が叫ばれ、なおかつ賃貸物件の供給過剰が指摘される中で、今後ますます空室を埋めるために苦戦を強いられるオーナーも出てくるだろう。安いから、と手を出した築古物件で入居付けに苦労する可能性は決してゼロではない。しかし今回取材で見えてきたように、外国人を入居のターゲットにすれば、日本人に不人気の古い3点ユニット物件でも好条件で満室にすることができる。

外国人専用アパートを所有しているオーナーの中には、10年近く一度も壁紙の貼り替えをしていない人もいる。当然入退去は何度か発生しているが、外国人の多くは壁紙が多少汚れていても全く気にしないので、楽に運営ができるという。

掃除をしない、マナーが悪いから退去時の状態が悪いというマイナス面ばかりが目立つが、その裏には、入居時に綺麗な部屋を要求されないという一面も隠されている。無理に新築物件に外国人入居者を受け入れて、部屋が汚れされてしまうリスクを取る必要はないが、築古物件や駅から遠い物件、3点ユニットの物件など入居者の獲得に苦戦している物件では、外国人を受け入れることで満室運営につなげるという戦略は有効と言える。

(楽待編集部 浜中砂穂里)