写真© tksz-Fotolia

人口減少や賃貸住宅の供給過剰で全国的に空室率が高まる中、空室対策としてオーナーたちの間で注目を集めているのが「生活保護受給者」の受け入れだ。自治体が賃料を保証するため滞納リスクが低く、方法次第で相場より高い賃料が得られるケースも。一方で、孤独死や近隣トラブルなど、さまざまな危険をはらんだ戦略でもある。今後、生活保護受給者は積極的に受け入れていくべき存在なのか、そして受け入れる場合の注意点は何なのか。2回にわたって考える。

「取れる分だけ取る」は当たり前

「入居希望者が生活保護受給者と聞いたので、じゃあすぐ住宅扶助の上限いっぱいまで上げてくれと。敷礼金もゼロで募集していましたけど、敷金1・礼金2で取ることにしました」

横浜市にある築25年ほどのマンションで狭小のワンルームを区分所有するAさん(50代)は昨年、退去の発生に伴って入居募集をかけようとしたが、物件があるのは空室率の上昇で賃料相場が下がり続けていたエリア。当時の賃料設定は4万7000円だったが、4万5000円程度まで下げなければ厳しいと考えていた。

しかし、入居を希望した70代の女性が生活保護受給者だという連絡が入った。その瞬間、賃料の値下げはやめ、逆に横浜市の生活保護の住宅扶助上限額である5万2000円まで一気に5000円引き上げた。「敷礼金を含めて20万円以上ですが、役所は相場なんて知らないので、絶対に『値切る』ことはしません。言い値でポンっと金を出すので、限界まで上げるのは当然といえば当然です」

一般入居者との賃料格差

厚生労働省によると、今年3月時点で全国の生活保護受給世帯数は164万世帯。このうち65歳以上の高齢者世帯が51%を占めている。受給者数は2014年度の216万人をピークに減少傾向にある一方、受給世帯数は1993年度から24年連続で増加しており、貧困に陥った単身の高齢者世帯が拡大している現状が透けて見える。

会計検査院が2014年に公表した生活保護の実施状況に関する報告書によると、調査対象の1778棟のうち、生活保護受給世帯が一般入居世帯より高額の賃料で契約している疑いのある物件が112棟見つかった。つまり、同じスペックの部屋であるにもかかわらず、一般入居世帯と差をつけた契約を求められているケースが散見されるということになる。

部屋探しに苦労する受給者は多い

今年5月現在で7万512人の受給者がいる横浜市。健康福祉局生活支援課の鈴木茂久課長は「雇用情勢の改善などに伴って、受給者の数自体はそれほど増えていません。ただ、契約時に保証人をつけられないなどの理由で、部屋探しに苦労している受給者は依然として多い状況です」と説明する。

市は2004年から、生活保護受給者など賃貸物件を借りることが難しい人に協力不動産会社や保証会社を紹介する「民間住宅あんしん入居事業」をスタート。支援体制の充実を図っている。ただ、鈴木課長は「市が担当するのは協力会社の紹介までで、その後の物件探しまでは介入していません。一般入居者より高い賃料を支払っているケースがあるとしても、把握しきれていないのが現状です」

国は住宅扶助基準が一般低所得世帯の賃料実態を上回っている状況を是正するため、2015年7月に住宅扶助基準を改定。横浜市の単身世帯の場合は、上限額が5万3700円から5万2000円に減額となった。これによって賃料が上限額を上回ったのは約2万2000世帯で、このうち約1万世帯は通院や就労などを理由に旧基準と同額を支給する経過措置が取られたが、3000世帯ほどは「転居支援」の対象になった。890世帯は更新時にオーナーが賃料の減額を受け入れ、一部は転居が実現したものの、現在もおよそ1500世帯が「転居支援中」という状況になっている。

トラブルのリスクがあったとしても

受給者を積極的に受け入れているオーナーからは「リスクより大きなメリットがある」という声が聞かれる。

群馬県にある築古アパートの全8室中5室で生活保護受給者を受け入れているNさん(46)は「受給者をターゲットにしている理由は、単純に『経済合理性』です」と語る。部屋は20平米のワンルームで、周辺相場を考えると賃料は2万円台中盤~後半。しかし、受給者は自治体の住宅扶助上限額である3万700円で入居しており、利回り18%という高い収益性を実現している。

Nさんは「相場より高い賃料設定ができる上に、自治体からの自動入金であれば滞納リスクが低い」と、メリットの大きさを実感している。「もちろん、これだけ受給者が多ければ問題も起こります。作業中の塗装業者が、昼間から酔っぱらっている受給者に脅されたこともありました。ただ、そういったトラブルのリスクを差し引いても、受け入れる価値はあると思っています」

埼玉県のKさん(47)も入居募集の際、常に「積極的に受給者を取りにいっていい」と管理会社に伝えている。賃料を上げられることに加え、長期入居が期待できる点も大きな理由だ。「ああいった人たちを受け入れてくれる物件は少なく、追い出されれば部屋探しに苦労するので、入居後はおとなしく過ごす人が多い。相場より高い賃料を『長く』払い続けてくれるんだから貴重な存在です。自治体から振り込まれる更新料の一部をキャッシュバックしてあげたいぐらいですよ」