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「違法シェアハウス」「脱法シェアハウス」という言葉がメディアで騒がれて久しい。2013年ごろ、若者を中心としたシェアハウス人気の高まりを受けて、レンタルオフィスや倉庫といった名目で届け出て、ごく狭いスペースを格安に居住用に貸し出していた実態が浮き彫りになった。

あのような物件は、なぜ違法だったのだろうか。不動産投資家の中には、わかりづらい法律に困惑する人も多い。そこで、建築物のあり方を定める建築基準法や関係条例について国土交通省と東京都の都市整備局に取材、合法的にシェアハウスを運営する方法について話を聞いた。

一方、法に基づいてシェアハウスを運営するオーナーは、収益をあげながらも「甘い考えで始めると痛い目を見る」と指摘する。そんなオーナーにシェアハウスをめぐるトラブルも聞いた。

話題の就活シェアハウスとは

近年話題になっている「就活シェアハウス」と呼ばれるシェアハウスがある。都市圏で就職活動やインターンに参加するために地方から来た学生をターゲットとしている。

201516年の就職活動中に都内3か所の就活シェアハウスを利用した会社員の男性は「地方出身者でも東京で腰を据えて就活ができるし、とにかく安いです。物件によっては、全て込みで月4万円で住むことができます」とメリットを話す。場合によっては地方から都内に出るための交通費より安いので、人気があるようだ。

部屋の状況については「狭いです」と明かす。この男性の場合は約7畳の部屋に3段ベッドが2つ置かれた部屋に住んでいたこともあり、1部屋最大6人が入れたという。

こうした就活シェアハウスは、かつての脱法・違法シェアハウスが連想されるが、この「大人数を1部屋に詰め込む」といった事実だけをもって違法とは言えない。これはなぜだろうか。

シェアハウス=寄宿舎

建築物のあり方を定めているのが建築基準法だ。当然、シェアハウスもこの法律にのっとって運営する必要がある。

国土交通省は2013年、シェアハウスを含む「事業者が入居者を募集し、自ら管理する建築物に複数人を居住させる」貸しルームは建築基準法上の寄宿舎に当たるとの見解を示した。つまり、寄宿舎の要件を満たさない物件は違法ということだ。

寄宿舎では、一般住宅よりも高い防火性能を持つ間仕切壁の設置や廊下への非常用照明などの設備が求められる。これは、火災などが発生した場合に備え、より安全性が重視されるためだ。

これらの動きは、マンションの一室などを薄い板で区切っただけの狭小スペースを、格安で貧困層などに貸し出して荒稼ぎしていた事業者への対策だ。過去には、利用者の居住実態があるにもかかわらず「レンタルオフィス」として事業を行い、約1.5畳程度の窓のないスペースなどを提供していた事業者が消防法違反で東京消防庁から警告書を出された事件も報道された。

マンションの一室(左)を、狭いスペースで間仕切った例(右)のイメージ

そのため、戸建て住宅を改修し、個室に十分な広さや窓を設けてシェアハウスとして貸し出していた事業者らも防火設備の不備などによって「違法」となってダメージを受けることとなってしまった。さらに、これまでシェアハウスに住んでいた人たちの受け皿も失われることとなった。このような事業者らの声を受け、国交省は2014年に建築基準法の施行令を改正。間仕切壁については200平米以下でスプリンクラーなどの設備がある、という条件を満たしていればなくても良いといった規制緩和が実施された。

建築基準法に違反しているとされる物件例

規制緩和の結果、現在建築基準法や関係条例に違反しているとされる物件は、以下に該当する。

・窓などがなく、採光がとれない

・燃えやすい壁で仕切られている

・火災などを想定した避難経路、設備が不十分

国交省が出している「違法貸しルーム」の参考例(出典:国土交通省ホームページ

また、東京都では2015年、定めていた窓先空地(火災の時に窓から避難できるように設ける居室の外の空き地)に関する規制も緩和した。これまでは各居室に必要とされていた窓先空地は、3階以下であることや、延べ面積200平米以下であることなどの条件を満たしている場合には不要と規定。ただし共用部分に直接屋外に通じる窓などを設けて、さらに幅が50センチメートル以上の屋外通路を確保することを求めた。

手続き不要でも法順守を

建築基準法を所管する国土交通省の担当者に、実際の法令について合法的なシェアハウスの解説を聞いた。

国交省住宅局建築指導課の建築安全調査室に所属する藤原健二企画専門官は「一般住宅を活用してシェアハウスとして貸し出す場合には、まず用途変更の手続きが必要になります」と述べる。手続きが必ず必要となるのは、100平米以上の特殊建築物の用途を変更する場合だ。

用途変更を行うためには、各自治体などに問い合わせを行い、必要な書類・図面を準備する必要がある。

100平米未満であれば、原則として手続きの対象とはならない。しかし、藤原氏は「『手続きが必要なければ建築基準法に合致する必要もない』というのは誤解です。手続きのある・なしにかかわらず、法律に適合させる必要があります」と指摘する。

「寄宿舎」では、例えば廊下に非常用照明を設置することや、廊下と各部屋を仕切る壁には耐火性能のある壁を取りつけることが求められている。つまり平米数にかかわらず、防火・避難設備を設けることがシェアハウスには必要となるのだ。

違反で建物撤去も?

一方で、前述のとおり政令改正などによって一概に「間仕切壁や非常用照明をつけておけばいい」といった状況ではなくなっている。

規制緩和が行われた結果、物件によって必要な設備が異なってくる状況がシェアハウスをめぐる法律を複雑にしている要因だ。このような中で、自分の物件が違法なのか、違法ではないのか、必要な設備がどれなのかといったことの判断がつかないオーナーや、そのわずらわしさから用途変更を行わないままシェアハウスを運営しているオーナーも多い。

藤原氏は、「手続きは申請主義。もともと住宅用の戸建てを用途変更してシェアハウスにした場合、極端にいえば、申請が行われていなければチェックができず、自治体側には把握するすべがないんです」と話す。

もちろんそうした違反物件に、手をこまねいているわけではない。国交省や各地方自治体は違反と疑われる事例について情報をよびかけており、通報があったものについて調査を行っている。

2016年に国交省が発表したデータによると、国交省や全国の特定行政庁に違法の疑いがあると通報があった2004件のうち、1421件で建築基準法違反(同法関係条例違反含む)が判明したという。そのうち、非常用照明関係の違反が最も多く、次いで窓先空地関係となっている。

もし違反であることが判明した場合はどうなるのか。

違反が判明したら…国交省の回答は

行政処分について、同室の田中政幸企画専門官は「まずは行政指導が入ります」と説明。指摘された違法状態について、改善を求めるという。そこで改善が見られなければ違反物件であることの掲示や使用禁止命令の発出、最終的には行政代執行も考えられ、建物の撤去に及ぶ可能性もある。

ただし、ある自治体の幹部は「最終的には居住権が勝つので、よほど危険だという状況でもないと、行政指導以上を実行することはなかなか難しい」と話す。違法物件であっても、強制力を持って改善させることは困難だとして悩む実情を明かした。

1部屋に何人いようと違反ではない!?

しかしながら、実は建築基準法には一律に一部屋の最低面積や、一部屋に何人まで、といった規制はない。通報の中には「狭い部屋にたくさんの人が住んでいるのではないか」といった内容もあるそうだが、それだけをもって建築基準法上の違反物件とはならないのだ。

狭い部屋に大勢の人が住んでいる=違法というのはかつての脱法シェアハウスから連想されることのように思われるが、当時のシェアハウスが違法とされたのは人数の観点ではない。これまで述べてきた通り、採光がなかったり、消防設備が不十分だったりした観点からだ。

一方で各自治体が定める建築基準法の関係条例では、一部屋に求められる最低面積を定めているところもある。

東京都都市整備局建築企画課の相羽芳隆課長は「都では、建築安全条例で最低面積を1部屋7平米以上と定めています」と説明する。7平米というと4畳半程度だ。

東京都都市整備局建築企画課
相羽芳隆課長

また、4月に施行された住宅セーフティネット改正法では、賃貸人が高齢者や外国人世帯などの住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅として、都道府県などに登録する制度を新設。この新設にあたって、シェアハウスについて登録できる面積基準を設けた。

それによると、1部屋(1人)で9平米以上。また、建物全体では15×人数+10平米(※10人なら15×1010160)以上が要件となっている。

しかし、東京都の条例でも「1部屋に何人まで」や「1人あたり何平米」といった規制はかけられていない。つまり、例えば1部屋7平米であっても、そこに2人入居していることをもって違法とは言えないという。住宅セーフティネット改正法はそもそも規制の法律とはなっておらず、登録を推進しているに過ぎない。

相羽課長は「区の住環境条例などで規定されている場合もありますから、一概には言えませんが、建築基準法や条例には限界があり、入居する人数といった運用の部分まで縛ることはできません」と話す。

冒頭の就活シェアハウスでは、用途変更がしっかりなされ、設備がきちんと設置されていれば、一部屋に何人入っていようと建築基準法上違反ではない。しかし、住環境や安全上問題だという観点から、「望ましくない」と指摘する有識者もいる。

「まずは相談を」

きちんとした個室や防火設備、避難経路などがないシェアハウスで火災が起きた時のことを考えると、十分な設備がないばかりに死傷者が拡大する懸念はぬぐえない。さらに、用途変更も行っていなければ保険が下りずに莫大な損害を被る恐れもある。

不動産賃貸業を営む以上は、きちんと法にのっとった運営を行わなければならない。

それでは、シェアハウスを運営したいと思うオーナーは、建築基準法にのっとって建物を運営するとき、何に気を付ければよいのか。

相羽課長は「まずは自分が運営したいと思っている自治体の窓口に行ってほしい」と呼びかける。

東京都だけでなく、各自治体で定められている最低面積なども条例によって異なっているためだ。運営に関しても定められている場合もある。

「例えば窓先空地一つをとっても条件に適合しているのかいないのか。防火設備なども、一見してはわからないこともあります。プロにきちんと相談した上で、正しく収益を上げてください」

「利回りがいい」からシェアハウス運営を始めたが…

実際のところ、シェアハウス運営にはどんなメリットがあるのか。

楽待でも人気のコラムニスト・イクメン大家さんは、総資産80億円で、50棟を超す物件を所有。そして所有物件の中には現在5棟のシェアハウスがある。

「始めたきっかけは、利益率のいい物件があったからです。不動産業者に話を聞くと『実はシェアハウスなんです』と言われましたが、特に抵抗はなかったので、購入しました」

千葉県にあるその物件は、RC造の中古シェアハウスで30室程度あり、表面利回りは11.5%だった。都心にもアクセスが良いためか、当時から現在までほぼ満室で稼働。想定する年間家賃収入は2000万円にものぼるという。

イクメン大家さんが所有するシェアハウスの室内の様子

その後もどんどん中古や新築のシェアハウスを購入した同氏だが、ここで思わぬ事態に遭遇した。

「思った以上に運営費がかかるのです。そして、管理会社にシェアハウス管理のノウハウがほとんどないことも問題でした」

コミュニティ崩壊、高すぎる運営費

「ひどいのは2棟目でした」

手に入れたのは、埼玉県南東部にある約70室の大型シェアハウス。20分程度で都内に出ることができ、また近くには大学もある。利回りは13%で「いい物件」のはずだった。

ところが、半分以上の部屋が埋まらなかったという。あまりに埋まらないので、何が問題なのか確かめようと実際に見に行った。その時をこう振り返る。

「コミュニティが崩壊していると感じました。シェアハウスって明るくわいわいしているイメージでしょう。なのに雰囲気は暗いし、キッチンで一人きりで食事をしている人がいました」

ここを任せていた管理会社も、食事会などを実施していたという。しかし、その詳細などはオーナーには送られてこず、「楽しくやっているものだとばかり思っていました」と話す。

さらに同氏に追い打ちをかけたのが運営費だ。通常のアパート経営では、賃料の5%程度かかる管理費。だが、イクメン大家さんに提示されたのは、家賃収入200万円に対して30万円にもおよぶ管理費(PM費用=プロパティマネジメント費用)だった。加えて同額程度の建物のメンテナンス費(BM費用=ビルメンテナンス費用)も請求された。

「素人目に見ても高すぎると思いました。しかし、シェアハウスの管理にはこれまで培われた経験やノウハウがあまりない。業界的にもこんなものだ、というのがまかり通っているんじゃないでしょうか」と指摘する。

請求されたPM費用とBM費用

5000万円の年間家賃収入でも…

イクメン大家さんは現在、5棟すべてで管理会社を変更した。自身で管理会社を立ち上げ、信頼できるスタッフに運営を任せている。これまで二重に請求されていた清掃費などを削減し、30万円以上取られていた管理費を大幅に圧縮することができた。

「最初は、シェアハウスは特殊で入居者同士の人間関係を円滑にすることに費用がかかるのだと思っていました。しかし、今では『違った』と感じています。コミュニティを維持し、空間づくりをするためにはSNSでグループを作ったり、月に1回のパーティをやったり、そのくらいでも十分なんです」という。最近になってようやく入居者へのヒアリングを行うなど、テコ入れを開始。満室まで道筋も見えてきたと話す。想定通りなら「ひどい」と語った埼玉の物件だけで、5000万円近い年間家賃収入が入ってくるという。

それでもシェアハウスは通常のアパート経営より運営費が高くなることが一般的。「備品の補充やパーティへの支援。それから共用部は誰も掃除しないので、週に2~3回清掃を入れるとなると費用もよりかかります。収益率がいいとか、儲かるかなと思って始めると、運営費がかなり取られてしまうことに驚くでしょう。注意が必要です」

メリットは「満室になった時のキャッシュフローの大きさです」と語るイクメン大家さんだが、最近の流行を察知し、シェアハウス投資を始めたいと考える人たちへ自身の反省をもとにこう話す。「自分がその中に入って、入居者と一緒に作りたいと考える人か、もしくはしっかりとした管理会社を探すことができる人じゃないとシェアハウスへの投資は厳しいです。安易に始めると痛い目を見ます」。