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自宅はもちろん、収益物件を購入するときにかかる費用の一つに、火災保険などの保険料がある。昨今では甚大な台風や大地震など、さまざまな災害に備えてほぼすべてのオーナーが加入しているであろう損害保険だが、自分の物件にかけている保険がどのような内容の保険なのか、きちんと確認しているオーナーは意外と少ない。

そのため、保険内容を見直すことで、いざというときに最大限のメリットを得つつ、保険料を抑えることができるかもしれない。実際に、不要な補償内容を削って3割も保険料を安くすることができたり、保険料率を見直すことで、保険料が半額になったりしたケースもあった。

保険に入っていたために助かったというオーナーに保険の有用性を取材したほか、自身も不動産投資家であり、大家さんを専門とした保険コーディネーターに「損をしない保険の入り方」を聞いた。

入居者のボヤで保険金41万円

実際に、オーナーはどのような被害に遭遇しているのだろうか。

「火災保険をしっかりかけておいて本当によかったです」と語るのは、東北地方に1棟マンションや区分マンション、合わせて82戸を所有するAさん。今年に入って所有する区分マンションの1室で、ボヤが発生した。原因は入居者のタバコの不始末だった。

部屋中に充満した煙に気づいた近隣住民がマンションの管理人に通報し、管理人が消火器で鎮火。出勤していた入居者に怪我はなく、また近隣への被害もなかったという。「床の下地が焦げていたため、絨毯敷きだった床も張り替えとなりました。修繕の見積は約30万円です」

ボヤで焦げた床

Aさんは年間の保険料が約3万円の火災保険に加入していた。火事の後、その保険会社に連絡したところ、無事に保険金が支払われた。

「損害保険金として、約30万円が支払われました。それに加えて諸費用を賄う臨時の保険金として約9万円、残存物の扱いに関する保険金として約2万円が上乗せされていました。なので、合計約41万円が支払われたのです」

実際には修繕のために30万円ほどかかっただけなので、10万円はそのまま手元に残ったという。修繕には2、3日かかったが、火事の原因が入居者の過失だったため、その間のホテル代は入居者の自腹だった。

Aさんは「保険で満額以上のお金が出なければ、満足な修繕が出来ないことにもなりかねません。十分すぎるくらいの保険に入るべきだと思います。経費の削減は保険以外でやるべきだと確信しています。事故の時に泣きを見るのはオーナー自身ですから」と力強く語った。

50万円の支払いでもリターンは500万円

東海地方に多数の物件を持つBさんは、数年前、所有するRCマンションと隣の建物との間にあったフェンスの柱が台風によって折れた。加入していたのは年間14万円の損害保険。40メートル以上の長さがある古いフェンスの修繕は再調達価格で100万円以上の見積りとなった。保険会社に請求したところ被害損害金が満額下り、事故時の諸費用を賄う保険金を含めて約170万円が支払われたという。

「でも、実際に修繕をしてもらったらネジで止めただけで1万円弱しかかからなかったんです。しっかりと保険を選んでいてよかったなと思いました。私がこの保険を選んだのは、アパートオーナー向けに特約などが充実していると思ったからです」

極端なケースだが、適切に見積をとって請求した後で、予想以上に工事が安く済むことも実際には多い。こうしたことも念頭に、保険をうまく活用している大家さんは多数存在する。

実は、この物件では他にもポンプの故障や水漏れなどが何度も発生したという。そうした故障でも保険が適用される特約を付帯していたBさんは、たびたび保険を請求した。「4年間ほどこの物件を所有していましたが、総額で500万円以上保険金を受け取ったと思います。年間14万円ですから、支払ったのは4年で56万円。支払った保険料と比べて、十分すぎるくらいです」と話す。

Bさんもまた、「何かあった時のための保険ですから、ケチるところではないと思います」と断言する。「何かあった時には、まず精神的なダメージが来ますよね。そして、金銭的なダメージが来ます。泣きっ面にハチです。そうなった時にきちんと保険金が支払われなかったら…。そう考えれば、ダメージを受けないためにできるだけマックスに近い形で保険に入るほうがいいです」

損をしないためにオススメの特約は?

「空室リスクと金利上昇リスクを除けば、損害保険でさまざまな賃貸経営上のリスクヘッジはできると思います」

そう語るのは、自身も複数の物件を所有する斎藤慎治さん。不動産投資家専門にコンサルティングを行う保険代理店である有限会社「保険ヴィレッジ」(7月14日より保険ヴィレッジ株式会社に組織変更)の代表取締役で、「大家さん専門保険コーディネーター」だ。週に1度程度、オーナー向けに保険についてのセミナーも開催している。

有限会社保険ヴィレッジの斎藤慎治代表取締役

斎藤さんは「大家さんに保険の補償内容をどうやって決めたのかを尋ねると、『契約時にすべて決まっていて、ただサインしただけ』と答える方が少なからずいます。賃貸経営をする上で十分な内容なのか、最初から確認したり、見直したりすることが必要です」と指摘する。

「投資用不動産とは、自分の財産の中でも利益を生み出す財産です。何かあった時には、家賃という将来の収入を失うことになるんです。だから、それに対していい加減に保険をかけてはいけません」(斎藤さん)

斎藤さんは、保険内容を考える際の優先順位を「1番は入居者を含む第三者への賠償責任保険。2番目に財産の保全、復旧のための火災保険。そして3番目が家賃などの利益を補償する保険です」と話す。

「特に1番目ですが、賃貸経営は事業ですから、事業をやる上で他人に迷惑をかけることは本来あってはいけません。他人に損害を与えてしまった時にはすべて賠償責任を負わなければいけないので、優先順位は1番に考えなければいけません」
損害保険では、賠償責任保険は特約として付帯するケースがほとんどだ。しかし、そのことを知らないオーナーも中にはいると斎藤さんは指摘する。

例えば物件の給水管の破損などで入居者の財産に損害が出た場合にはオーナーは賠償しなければならない。もし特約として施設賠償責任保険に加入していなければ自費ですべて賄わなければならないので、自分の保険にきちんと付帯されているか確認が必要となる。

安い保険料にはワケがある

火災保険でカバーできるのは火災だけではない。基本的には落雷やガス爆発によって損害を受けた場合も補償の対象となる。

最近では総合型として基本の補償範囲が拡大され、台風や雪、豪雨などによる水災、そして水漏れや、盗難、破損といった損害をカバーする保険も多い。

また、特約として「建物電気的・機械的事故特約」では、建物に備え付けられたエアコンやエレベーターの故障にも対応しており、1棟マンションなどを持つオーナーにとっては非常に有用だ。

斎藤さんは「火事に見舞われることは、そう多くありません。ところが、水漏れなどの事故は結構な頻度で発生します。そういった損害、故障までカバーする保険であれば、多少保険料が高くても入っておいたほうが、結果的にリターンは大きくなると思います」と語る。

斎藤さんによると、同氏の元に相談に来るオーナーの中には、保険会社を選択する際に保険料の安さで決める人も少なくないという。しかし、斎藤さんはその安さにも理由があると注意を促す。

「安い保険には、必要なものが抜けている可能性があります。事故のたびに自己負担を求められるとか、1回の災害で10万円までの損害では保険金が支払われないといったケースもあります。そういうところまでしっかりと対応しているかチェックしてください」

オススメの特約

補償内容

施設賠償責任特約

建物が原因で起きる事故によるケガや物品破損の賠償費用を補償

建物電気的・機械的事故特約

建物に備え付けられた機械設備の故障を補償

事故時諸経費特約

修繕費とは別に、諸経費に使える保険金を支払う

家賃収入特約

建物が損害を受けたために失った家賃収入を補償

損害を受けたときに収入を得る方法

一方で、できるだけ保険料は安くしたいと思うのがオーナーの本音だろう。そんな時に有効な手段を、斎藤さんが4点教えてくれた。

一般的に保険料を安くできるのは免責金額(自己負担金額)の設定だ。その分だけ年間で払う掛け金を安くすることが可能となるため、もしものために使うお金をストックしておくことができれば、保険料は減額できる。

さらに、前述のAさんやBさんのように諸費用を賄う臨時費用の特約(事故時諸経費特約)をプラスすることが効果的だという。「免責金額を5万円や10万円と少し高めに設定しても、その臨時費用特約でその金額を埋めることができるし、保険料が下げられます。臨時費用の特約はたいてい安いので、つけておいたほうがいいですよ」とアドバイスする。

また、臨時費用の保険金にはこんな使い道もあると話す。

「実際にあった例ですが、1階をコインパーキングとして貸し出している物件があったんです。そこに止めようとした車が柱にぶつかって破損、100万円近い損害を出しました。修繕に対するお金はその車の対物賠償保険で支払われましたが、『賠償してもらえてよかった』で終わってはいけません。大家さんが自身の物件に臨時費用の特約をつけていれば、それだけ保険会社に請求できるんです。臨時費用の保険金は損害の10~20%支払われることが多いので、今回だと10~20万円程度もらえる計算になります」

臨時費用の保険金はお見舞金の要素が強い。使途が限られているわけではないので、単純に利益となるのだ。

保険の内容も、立地によってはすべてをつける必要はないという。

「効果的に保険料を下げることができるのは、水災についての補償です。物件が高台にあり、川や海などが近くになければ水災リスクは下がるので、いらないと思えば外しても構いません。これを外すことで保険料は20~30%抑えることが可能となります。また、契約の時に外していても、心配になったらすぐに電話で追加することもできますよ」

ただし、大雨による土砂の流入などは水災に含まれるため、山の近くに物件がある場合にはそうしたリスクも念頭に置いて判断する必要がありそうだ。

不要な特約、不適切な保険料率

斎藤さんは保険の見直しの重要性についても言及する。補償内容を見直すことで、保険料を安くすることができるという。

「例えば自分が所有する賃貸物件への保険に『類焼損害特約』がついていたら、これは外してください。火元の家が近隣に与えた損害を賠償するものですが、この特約がカバーするのは自宅だけなので、大家さんには関係ありません」

斎藤さんによると、この特約を外すだけで数万円保険料が圧縮できた例もあるという。

「大家さんに聞くと、皆さん『付帯した覚えはない』と言います。しかし、この特約がついている賃貸物件を山ほど見てきました。自分が契約する保険代理店も疑うべきです。賃貸物件に詳しい人がいるとは限りませんから」

そうした保険代理店によって、保険料率が正しく適用されていないケースも散見されるという。ツーバイフォー工法で建てられた物件は耐火性能が高いため、火災保険の保険料を抑えることができるが、それが実際の保険には適用されていないということがたびたび起きたと斎藤さんは話す。斎藤さんが実際に扱ったケースでは、耐火性能が高いのにもかかわらず木造の保険料が適用されており、保険料を半額に抑えることもできたと述べる。

「準耐火性能を持っていることは建築確認済証で確認することができます。もし自分の保険料率が間違っていれば、申し出て差額を返還要求できますから、きちんと確認するようにしてください。特に火災保険は長期でかけることが多いですが、自分でしなければ誰も見直してくれません」

災害大国で起きる地震の恐怖

日本で起こり得る災害には、地震もある。2016年の熊本地震が記憶に新しいが、2011年の東日本大震災、1995年の阪神淡路大震災などを含め、数多くの地震で大きな損害が発生している。

そうした地震に備える地震保険は、火災保険とセットで加入する必要がある保険だ。火災保険への付帯率は徐々に伸びており、持ち家・賃貸などの区別はないが、2015年度の全国平均は60.2%となっている。

■2015年年度の地震保険付帯率(トップ3、ワースト3)

順位

トップ3

付帯率%

ワースト3

付帯率%

1

宮城県

86.2

長崎県

39.2

2

高知県

84.2

佐賀県

44.7

3

宮崎県

76.3

北海道

51.0

※出典:損害保険料率算定機構「地震保険都道府県別付帯率の推移」

しかし、斎藤さんは「逆に言うと40%は入っていないということです。しかも、加入しているのは被災地が中心ですから、全国的にきちんと地震に備える必要があります」と指摘する。

地震保険では、損害区分について明確化されており、これまでは「全損(時価を限度に100%支払い)」「半損(時価の50%が限度)」「一部損(時価の5%が限度)」の3区分となっていた。

これは2017年1月に改定され、「全損」「一部損」に変化はないが、「半損」が「大半損(60%支払い)」「小半損(30%支払い)」に細分化されている。ただし、地震保険で補償されるのは火災保険の金額の50%のみとなっている。

東日本大震災によって外壁にヒビが入ったが、保険会社からは「梁や柱にダメージがないため、保険金は支払われない」と言われたというオーナーもいた。こうしたケースについて、斎藤さんは「一部損で保険金が支払われるのは時価の3%の損害度以上なので、その条件がクリアしていなかったのかもしれません」と推測する。

「こうしたことから、地震保険は保険金の支払いが不十分なのでかける必要がないという大家さんもいます。しかし、地震保険は一部損のような被害のために入るのではなくて、全損リスクに備えるために加入するものだと思っています。もし地震保険に加入しておらず、物件が滅失したときには、何も出ないんです。家賃収入もなくなるし、建物自体がなくなるんです」

また、地震保険では地震が原因で起こる火事や津波などによる損害も対象としていることにも留意したい。

「地震保険で備えられるのは倒壊リスクだけじゃなく火災リスクも含まれます。自分の物件は耐震性に優れているから大丈夫と思っていても、地震によって火災が起きた隣の木造アパートから類焼したら、火災保険はおりません。そういった被害にもきちんと備えてください」

自分の保険を見直そう

斎藤さんは「自分の物件について保険会社に正しく伝えることで正しい保険料率が適用されたり、また自身の保険の補償内容をきちんと把握することで、不要なものは削減ができ、得するものは適切に請求できます。保険料を節約するのではなく、適正化してコストを圧縮できるのです」と説明する。

首都圏に戸建て物件や区分マンションを所有しているオーナーの中には、もともとは掛け金の安さから火災共済に加入していた人もいる。しかし「火災共済ではいざというときのために満足ではない」と思い、次の物件からは最初から損害保険に加入した。「こうした保険の魅力は、設備も含めて不測かつ突発的な破損事故に対応している点です。電気・機械設備の破損に対するオプションもありますから、必要に応じて加入しています」と話していた。このように、支払う保険料ともしもの時に支払われる保険金(=リターン)を考え、保険を選択するのが賢い方法だ。

保険料は無理に抑えようとしてはいけない。しかし、自分の物件に必要な補償を把握し、適正化を図ることはできる。ふさわしいものを選び取ることで、結果的に万が一の事態では恩恵を得つつ、無駄な支出を減らすことができる。

今一度、自分自身がどのような補償に対してコストを支払っているのか、見直してみることが重要だ。

(楽待編集部 浜中砂穂里)