人口減少や住宅の供給過剰で全国的に空き家率が上昇し、賃貸経営で安定した収益を上げるのは以前に比べて難しくなってきている。そんな逆風の中、マンション・アパートより低コストで、長期的に確実な利回りが期待できる投資先として注目を集めているのが「工場・倉庫」だ。

事業用資産として人口減少の影響を受けにくく、初期費用と維持コストを抑えられる上、立地や築年数に問題があっても影響が少ないなど利点は多い。アパート・マンションから「鞍替え」する個人投資家も増えているが、参入のハードルは、実際の収益性は、そして騒音問題などのトラブルは? 大きな可能性を秘めた「工場・倉庫投資」のメリットとリスクについて、2回にわたって考える。

15年間空室ゼロで利回り30%

「周りの不動産会社からはアパートの建築を勧められていたんですが、満室経営が実現できるか不安があったので…」

都内在住のAさんは15年ほど前、相続した60坪の更地の活用方法に頭を悩ませていた。アパート経営も検討したが、駅から30分という立地の悪さが大きな不安材料。安定した収益を上げられるのか、疑問を感じざるを得なかった。

そこで、「倉庫なら駅から離れていても問題ない」と、36坪の平屋建て倉庫を720万円で新築することを決意。天井の高さや駐車スペースなど、テナントの利便性にこだわって完成させた。賃料18万円で建築設備の会社に貸し出し、資材置き場兼事務所・駐車場として利用してもらっている。

利回りは30%。すでに15年にわたる長期入居になっているが、家賃は一度も下がっていない。Aさんは「維持コストもかからず、オーナーがすることはほとんどありません。あの時アパート経営の話に飛びつかず、倉庫を選んで良かったと思っています」と語る。

低い初期費用

工場や倉庫など事業用不動産の仲介・管理・工事などを手掛けるタープ不動産情報(本社・東京都文京区)代表の三浦孝志さんは「工場・倉庫はいわば『箱』を造るだけなので、アパート・マンションに比べてイニシャルコストを低く抑えることができることが大きなメリットです」と説明する。

一般社団法人建設物価格調査会によると、関東・東京圏の1平方メートルあたりの総工事費単価(平均値)は、賃貸マンションが24万1000円であるのに対し、一般倉庫は14万2000円。建設費を低くすることができる分、利回りは高くなる。

建物にかかるコストを抑え、より多くの土地を取得することができれば、その分融資もつきやすくなり、少ない自己資金で始めることが可能になる。三浦さんは「建物は時間の経過とともに価値がゼロに向かっていく償却資産。資産形成は結局、より多くの土地を確保できるかどうかが重要になってきます」と強調する。

駅から離れている方が良い?

アパート・マンションは駅からの距離が遠ければ遠いほど不利になるが、工場・倉庫は鉄道ではなく自動車の利用を前提としているため、たとえ駅から10分以上離れていても入居付けには問題がない。逆に、駅から離れているという理由で安くなっている土地は絶好の狙い目。現在はアパート・マンション投資に適した駅に近い土地を取得するのは難しくなっているが、中心地から離れた郊外のエリアでは広い土地を確保することも十分可能だ。

建物の経年劣化が賃料にマイナスの影響を与えないという利点もある。アパート・マンションは時間の経過とともに資産価値が下落していくが、「空間がどれだけ使えるか」で価値が決まる工場・倉庫は築年数の影響がほとんどなく、築5年でも築30年でもほぼ同じ賃料で貸すことができる。

逆に、入居したテナント自ら建物をリノベーションするケースが多いため、時間の経過に伴って外観や中身が向上していく可能性もある。「古ければ古いほど安く購入できるので、投資対象としては旨みがある。建物代はゼロ円で、土地代だけで購入するのが工場・倉庫投資の極意と言ってもいいでしょう」(三浦さん)

ボロボロの工場が…

都内在住のBさんが投資先に選んだのは、板橋区で80坪の敷地を持つ古い工場。壁はいたるところに穴が空き、廃墟のような状態だったため、建物代は「タダ」。土地代のみの6400万円で購入することができた。

ボロボロの工場でもニーズはある。借り手はすぐに見つかった。手を挙げたのはリフォーム会社で、「80坪あれば事務所と駐車場、資材置き場を全て置ける。そうすれば、バラバラに借りるより賃料が3分の1になる」という判断だった。

「修繕はお手の物」と、リフォーム会社が自ら壁などを張り替え、工場は新築同様に生まれ変わった。修繕費用の大半はリフォーム会社側が負担。現在は月50万円で貸し出している。

Before

After

何もしなくても利益を上げてくれる

工場・倉庫投資は「箱で貸して、箱で返す」が基本で、現状変更や設備導入などにかかるコストはテナントの負担となる。建物の維持に関してオーナーが負担するのは外壁塗装や防水対策にかかる費用程度。解体費についても、多くが平屋や2階建てで人件費などのコストが低い上、鉄骨製の工場は解体で生じた鉄くずを業者に買い取ってもらえるため、安く抑えることが可能になる。

長期入居が見込めることもメリットだ。工場・倉庫で使う設備は通常、テナント自身が用意するが、大型の機械を複数台導入するようなケースであれば、引っ越し費用だけで1億円を超えることも少なくない。初期投資だけで多額の費用がかかるため、テナントは一度契約を結べば退去しにくく、平均15年、長ければ20年、30年と借りることもあり、空室リスクを最小限に抑えることができる。

高まる投資熱

タープ不動産情報によると、創業した1999年からの累計取り扱い件数は約2500件。基本的には、土地を取得して新築するより、空いている工場・倉庫を購入して投資するケースの方が多いという。「ただ、条件の良い工場・倉庫は空いてもすぐにテナントが決まり、オーナーが何もしなくてもどんどんお金が入ってくる。そういった良い物件はオーナーが売る必要性を感じないので、なかなか市場に出にくいという面はあります」(三浦さん)

近年は個人投資家からの問い合わせが増加傾向で、参入者は一般的なアパート・マンション投資の経験者が圧倒的に多いという。「個人で60件近い工場・倉庫を所有しているオーナーもいます。その方はもともとアパート・マンション投資をしていたんですが、『もう倉庫しか買わない』と全て売却したそうです。やはり管理の手間がかからないことを大きな魅力として感じているようです」

修理箇所の少なさ

区分マンション10戸を所有する千葉県のCさんも今年2月、同社のセミナーに参加したことをきっかけに、都内の約50坪の倉庫を2100万円で購入した。築20年弱、駅からは15分程度で、アパート・マンション投資には不利な立地だった。

テナントは自動車販売会社。賃料15万円で貸し出し、オフィスとして活用されている。「アパート・マンションは転勤などで退去のサイクルが早いことがありますが、工場・倉庫は比較的長期にわたって入居してくれる。解約予告から退去までの期間が3カ月や6カ月と長いことも、貸す側からすれば安心材料です」

利回りは8%。「雨漏りなどがあれば修繕する必要はありますが、一般的なアパート・マンション投資に比べればメンテナンスのコストは低い。入居者が変わるたびにクロスを張り替えるということもないし、エアコンやキッチンもなく修理の箇所は少ないので、手間がかからないのは大きなメリットです」

ボロボロの廃墟がスケートパークに?

工場・倉庫のテナント募集は不動産専門のポータルサイトなどを使うのが一般的。タープ不動産情報では、累計1万社ほどのテナントから「借りたい」というオーダーがあり、サイト上でマッチングさせる仕組みを展開している。業種は葬儀業者や幼稚園、老人ホーム、介護施設、立ち食い蕎麦店などさまざま。賃貸で募集している物件数は約350件だが、テナントからは毎日何十件もの問い合わせがあるという。

工場・倉庫の用途は、テニスコートやバッティングセンター、ショールーム、自動車販売店、ドラッグストアなど多岐に渡る。「小規模なものから大規模なものまで、屋内をさまざまな形に変身できる『魔法の空間』なんです」と三浦さんは言う。

大音量の音楽が流れていても

埼玉県内にあったボロボロの鉄工場跡地も、テナントの手でよみがえった。土地は108坪で、投資家のDさんが土地代のみの4860万円で購入。築50年ほどで、壁は穴だらけだった。駅徒歩20分、周りは工場ばかりで人通りも少なく、夜は真っ暗なエリア。アパート・マンションではまず収益が上がらない立地だった。

現在入居しているのはスケートボードの団体で、スケートパークとして人気を集めている。プレイ中は音楽を大音量で流すため、騒音が近隣住民の苦情を招く可能性があったが、周囲には工場が建ち並び、日中は機械の音が鳴り響き続けている環境。逆に「ここしかない」という立地だった。

利回りは14%。設備の導入やリフォームもすべてテナントが行い、オーナーが全く手を掛けずにボロボロの工場がよみがえった。ちなみに、この物件はスケートパークになる前に3社のテナントが入ったが、そのたびに内観が立派になっていった。最初のテナントだった鉄の加工会社が壁とシャッターを作り替え、その後に入ったテナントも全面的なリフォームを行ったからだ。

Before

After

後々の裁判を想定して

Dさんはこの物件を、相場よりも少し安めの月56万円で貸し出している。これは万が一、建物の傷みなどが原因で利用者に不測の事態が生じたり、近隣住民との間でトラブルが起こったりした場合に、責任を負わされないようにするためだ。

契約書の中で特約条項として定めていれば、オーナーは近隣トラブル等の責任を回避できるが、現実に裁判になった場合、オーナーに対しても損害賠償などを求める判決が下されるリスクもある。

ただ、仮に裁判官が「賃料収入を得ているオーナーも責任を負うべき」という考えの場合であっても、相場よりも賃料を安くしていれば「テナントが全面的に責任を負うと約束した代わりに、賃料を通常より低くしている」と主張することが可能になり、オーナー側が責任を負わされるリスクは軽減できる。

地方でも、狭くても

工場・倉庫投資に参入する場合、エリアはどのように選べばいいのだろうか。三浦さんは「土地の値段が高い東京都内よりは、埼玉、千葉、神奈川あたりで、ある程度人口の多いエリアが狙い目。学習塾など住民を対象とした業種も入ってこられるし、万能で高利回りが期待できる倉庫がまだ眠っています」と説明。「地方都市でも、パチンコ店やカフェ、ファミレスといった店舗が並ぶ国道沿いなどであれば勝負できる可能性があります」

工場・倉庫は必ずしも大きな面積が必要というわけではない。三浦さんは「小さなものでは車1台分からOK。トランクルームや学習塾、クリーニングの一時受けなど、用途はさまざまです」。バイクの駐輪場は特に人気が高く、少ない部数の名刺やチラシなどを扱う軽印刷工場のニーズもあるという。

人口減少社会の中、低コストで安定した利回りが期待できる工場・倉庫投資。しかし、当然リスクもあり、設備による騒音や滞納、又貸しといった問題には注意が必要になる。確実に利益を上げていくためには、そういったトラブルへの対策を万全にし、正しい対処法で解決していくことが求められる。後編へ続く)

(楽待新聞編集部 金澤徹)