前編から続く)

低コストで安定した利回りが期待できる工場・倉庫投資だが、当然リスクも少なくない。テナントの経営悪化や設備による騒音、無許可での転貸といった問題には注意が必要で、リスク管理を怠れば訴訟を含め大きなトラブルに発展する可能性もある。問題を未然に防ぐための対策と正しいトラブル対処法、そして工場・倉庫投資の成功に必要な「7つの条件」について考える。

騒音トラブルの末に

「騒音に関するクレームでテナントが倒産し、設備の撤去費用が全て降りかかってきました」

20年ほど前、埼玉県で工場を所有していたオーナーはそう振り返る。近所には騒音に敏感なことで有名な高齢女性が住んでいた。前に入居していたテナントも、その女性から騒音に関するクレームを受けて撤退を余儀なくされていた。

新しく入居が決まったのは印刷会社だった。問題は、不動産会社がその印刷会社に対し、前のテナントが騒音トラブルで撤退したという事実を告知していなかったこと。テナントが入って印刷機を回し始めた瞬間、その女性が再びクレームをつけ、営業停止に追い込まれた。印刷機の移転などは数千万円の費用がかかる。結局、再び移転する費用が捻出できず、印刷会社は倒産してしまった。

問題を隠すことで生まれる「歪み」

困ったのはオーナーだ。印刷会社は設備だけを残して退去してしまったため、印刷機の撤去費用などを全て自分で負担する結果に。現場は住居系の用途地域で、もともと工場には適していない場所だった。

工場や倉庫など事業用不動産の仲介・管理・工事などを手掛けるタープ不動産情報(本社・東京都文京区)代表の三浦孝志さんは「問題を隠して契約すると歪みが生まれて、入居後にトラブルが発生した時の損害がより大きくなってしまう。そういった女性がいることを理解した上での入居であることを契約書に残しておけば、テナント側に責任を取ってもらうことができたはずです」と語る。

契約段階で責任の所在を明確にすること

他にも、冷凍車のエンジン音や鋳物工場の作業音、シールの印刷工場から漂うシンナーのにおいなどの苦情から、近隣トラブルに発展するケースもあるという。このような場合、テナントはもちろんオーナーも住民から損害賠償を請求される恐れがある。

騒音に関して訴訟となった場合、住民側が勝訴すればテナントは操業を停止せざるを得なくなる可能性がある。「工場と近隣住民とのトラブルを巡る過去の裁判例では、工場の権利より住民の生活権の方を重視される傾向。工場の隣に後からマンションが建てられたようなケースでも、工場側が負ける恐れがあります」

三浦さんは「トラブルを避けるためには、テナントと契約を結ぶ際に責任の所在を明確にしておくことが重要」と語る。契約書の中で「騒音、振動、臭い等に関して近隣との間にトラブルが起きた場合、テナント側が責任を持って対処する」という特約条項を明記しておけば、住民から問題への対応を迫られたとしても、全責任はテナントにあると主張することができる。

空室リスクを最小限に抑える方法

工場・倉庫は駅と離れていたり、築古であったりしても一定の需要があり、マンションに比べれば空室リスクは高くないものの、景気が悪化すればテナントが付きにくいことが考えられる。1物件につき1テナントであるため、戸建てと同じく空室時は収入がゼロになるというリスクがある。「空室になりにくい物件・すぐ決まる物件」の条件はアパート・マンションと大きく違うため注意が必要だ。

空室が発生した場合、まずは募集条件の見直しが必要になる。工場・倉庫の場合はエリアの相場というよりも、それぞれのテナントが異なる採算ラインを持っているため、少し賃料を下げると別のテナントのニーズが現れることがある。三浦さんは「リサイクルショップやトランクルームであれば、ボロボロでも構わないしエアコンなども必要ないから安く借りたいというニーズがある」と指摘する。

そのため、「工業地域で24時間稼働が可能ならコンビニ」「天井が高い倉庫なら撮影スタジオ」「2方向避難が確保できれば保育園や介護系事業所、学習塾」など、ターゲットを絞り込んで賃料を設定することも重要な戦略になる。

倉庫がバスケットコートに生まれ変わったケースも

滞納対策は「たまる前に回収」

工場・倉庫投資では常に、テナントの経営状況が悪化して資金難に陥る危険性があり、賃料の滞納は大きなリスクになる。一般的に、キャッシュが回らなくなった場合は金融機関への返済や従業員の給与、仕入れ先への支払いなどが優先され、賃料が後回しになることが多い。三浦さんは「訴訟にかかる手間やコストを考えると、裁判で解決するよりも、問題が発生した段階で早期の対策を取ることが望ましい」と語る。

「賃料の支払いが少しでも遅れた場合は、すぐに督促することが重要。滞納額と支払予定日を書面で残しておけば、仮に裁判になったとしても有利に進めることができます」。テナントの事前審査も入念に行う必要がある。同社はまず信用調査会社でチェックし、現地に赴いて看板があるか、ダミー会社でないかを確認している。家賃保証会社の利用も選択肢の一つだ。

カギを渡すタイミング

事前審査の際、問題のあるテナントをどのように見分ければいいのか。三浦さんは「契約時に保証金の支払いを求めた場合に値切ってきたり、分割払いを認めるよう求めてきたりする会社は注意が必要」と指摘する。

かつて500坪におよぶ巨大倉庫であった出来事。月額家賃300万円ほどの物件で、借り手は「陶芸教室を開きたい」という希望だった。契約を結ぶ段階になり、借り手側が「保証金は分割払いにしてほしい。新規開業の助成金が入る予定なので間違いなく払う」と主張してきた。

経営に問題があるかもしれない―と考え、三浦さんが「それではカギは渡せない」と伝えると、男性は激昂。「お前の顔は見たくない」と罵声を浴びせてきた。

結局、その男性は別の不動産会社を通じて倉庫のオーナーと契約した。すると、そのオーナーから三浦さんのもとへ「保証金も家賃も一銭も払われない。どうしたらいいのか…」と連絡が来たという。「保証金が支払われないうちにカギは渡してはいけない、と実感した経験でした」三浦さんは振り返る。

「用途違い」のトラブルを防ぐには

テナントに貸し出した工場・倉庫が、当初の合意とは異なる用途に使われてしまうトラブルもある。例えば、事務所として貸していたはずなのに、いつの間にか飲食店になっていた場合などだ。これは、どのような用途に利用するのかを契約書の中で明確にしておくことが事前の対策になる。

必要があって用途を変える場合は、オーナーから書面での承諾を受けた上で約束させることが必要になる。三浦さんは「書面で約束していたにもかかわらず契約解除を拒む場合、訴訟で決着を付ける方法もありますが、用途の変更を認める代わりに賃料アップを要求することも一つの手。裁判費用をかけずに、より高い賃料を得られる可能性があります」と語る。

「転貸」の繰り返しでテナントが分からず

オーナーが倉庫を貸した相手が、無断で別の相手に貸し出す「転貸」のトラブルも多い。テナントが飲食店などの場合、経営難やギャンブルによる浪費などで金に困った店主が、賃料に上乗せした額を転貸料として受け取る代わりに、居抜きのまま店を又貸しするケースが多々ある。さらに転貸を延々と繰り返した結果、物件の借主をオーナーが把握できず、誰に立ち退きを求めていいか分からない状況に陥ることもある。

このような状況で転借人が問題を起こした場合、オーナーが法的責任を問われるリスクもある。以前、新宿・歌舞伎町のビル火災で多数の死傷者が出たケースでは、オーナーが刑事責任を問われることになった。避難経路に荷物が積み重ねられていたことが原因だったが、転貸が繰り返された結果、オーナーがビルのテナントを把握できず指導も不可能な状況だったとされている。

訴訟沙汰になる前に

テナントが無断で転貸を行った場合、オーナーは契約を解除することが可能になるが、訴訟を起こすことが必要で、確実に勝訴できるとは限らない。そのため、訴訟沙汰となる前に問題を解決することが重要になる。

工場・倉庫を貸し出した後、借主とは違う会社の看板が掲げられていたり、郵便受けに借主と違う名前が表示されていたり、家賃の振り込み名義が借主と違ったりといった場合は転貸が行われている可能性が高い。三浦さんは「こういったことを黙認すれば転貸を認めたことになりかねない。『転貸はしていない』という証拠を文書の形で相手に示させることが必要です」と説明する。

転借人の過失で発生した事故の責任を問われるリスクを防ぐ対策も求められる。「物件を安全な状態に保つようテナントにこまめに注意し、注意した事実を書面で残しておけば、行政や司法当局に『知らないうちに転貸されたために起こった事故』と理解を示してもらえる可能性が高まると思います」(三浦さん)

用途の幅を狭める設備

工場・倉庫という「箱」の中身は、テナントにとって重要な判断材料になる。3年ほど前に都内で1階50坪、2階50坪の倉庫を購入したオーナーは、「柱」に悩まされてしまった。1階に10センチほどの柱が6本も並んでいたため、ライン作業などを行う工場は当然対象外で、机などを置く必要がある学習塾なども入居が難しい。3年ほど保有していたが、一度もテナントが入らず、最終的には売却することになった。

オーナーは「昔から親交がある不動産会社に『安い掘り出し物が出た』と勧められて買ってしまいました。事業所と近くて見に行きやすいと思って…」と振り返る。工場・倉庫投資では、どんな用途でも活用できるスペースをどのぐらい確保できるかが重要になるため、邪魔になる可能性のある設備が少ない物件を選ぶことが求められる。

工場・倉庫投資で重要な「7つの条件」

工場・倉庫投資をする上で、最も重要なことは何なのか。三浦さんは「第一に考えるべきは『万能性』、つまり、どんな業種のビジネスでも対応できるかどうか」と語る。限られた業種しか利用できない物件ではテナントの選択肢が狭まり、業種全体の景気に左右される可能性が高い。飲食店でも、物販店舗でも、スポーツ施設でも受け入れられる「ストライクゾーン」の広い物件を所有することが成功の秘訣だという。

倉庫を活用したスイーツカフェ

万能性を備えた工場・倉庫を選ぶために、三浦さんは7つのポイントを挙げる。

(1) 前面道路が広い(最低でも6メートル)
(2) 十分な駐車スペースがある
(3) 天井が高い(1階は最低3メートル)
(4) 準工業地域である
(5) 周りに住宅がない
(6) 余計な柱がない
(7) 24時間稼働可能

都市計画法で街づくりの対象となる「市街化区域」で定められた12の用途地域のうち、基本的に工場を建てることができるのは「準工業地域」「工業地域」「工業専門地域」の3つ。三浦さんによると、この中で最も多くのタイプの施設を造ることができ、テナントが付きやすいのが準工業地域だという。

「工業地域では学校や病院を造ることができず、工業専用地域ではそれらに加えて図書館や老人ホームなどを造ることができません。準工業地域では一部を除いてどんな建物・施設でも建てられるので、テナントとしてはどのような事業でも展開できることから安心して借りることにつながっていくんです」

三浦さんは「工場・倉庫を選ぶ際は、この7つのうち1つでも多く含まれている方がいい。全て満たしていれば、なかなか空きの出ない人気物件になるでしょう。これから買う人・建てる人は、そんな『万能な倉庫』を目指すことが大切になります」と語る。

まだ工場・倉庫投資への注目度はそれほど高くなく、高収益が見込める「お宝物件」は市場に眠っている可能性がある。アパート・マンションとは求められる条件が異なるため、失敗を避けるためには、専門的な知識とノウハウのある不動産会社とタッグを組むことが重要になる。初期費用を抑えて万能性の高い倉庫を選択し、テナントを慎重に見極め、リスクヘッジの対策を万全にしておくこと。それが「長期高利回り投資」の実現につながっていく。

(楽待新聞編集部・金澤徹)