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『史上最低』といわれる日本の金利。この投資チャンスを生かすべきなのか、それともまだ経過を様子見すべきなのか。今後の金利の動き、そして景気の先行きについて、投資家で経済評論家の田嶋智太郎氏に話を聞いた。

日本の金利は世界が動かす

——「史上最低の金利」と耳にしますが、日本の現状をどう捉えていますか。

よく講演などでも、「日本の今後の金利はどのように動きますか」という質問を受けます。確かに今、金利は近年稀に見る最低レベルにあり、現状でも借りる側には有利な状況です。しかし、世界を揺るがす何らかの突発的な事態が起きないという保証はありません。

ただ確実に言えるのは、変化の「予兆」は日本の金利だけを見ていても判断できないということ。むしろ日本の金利にばかりとらわれていては、遅れを取ってしまう。なぜなら、日本の金利は世界経済の動向から大きく影響を受けているからです。

——世界の金利の動きを観察することが必要ということですか。

金利は、経済の動きの中で最後に変化するものです。ご存知のように、通常の経済は雇用の増大があって賃金が上がり、消費が高まって物価の上昇、つまりインフレ率が上がってくることにより、最後の最後に金利が上昇するという流れで構成されています。

しかしグローバル経済は、米国のトランプ大統領就任、英国のEU離脱、中東の混乱などを受け、大きな変革の時期に差し掛かっています。そんな中で目先の日本の動きだけを観察していても、対応が遅れたり判断を誤ったりすることがある。グローバル経済の動きを的確に捉えることが、将来の金利を判断するためには必須です。

金利の変化の予兆は米国から現れる

——では金利を観察するための具体的なポイントは?

日本の政治経済については、これまで同様、米国の影響下にあるため、金利も米国の経済動向に影響を受けることは明らかです。こうした理由から、米国の雇用や賃金の上昇を察知できたら、その動きに連動し、最終的に日本の金利が動くことになります。米国の賃金上昇によって米国民の消費が活発になり、それを受けて米国の物価が上がり、金利が上がるという仕組みは変わらないはずです。

米国の金利が上がると、さらに大きなタイムラグを経て日本の金利が変化します。つまり、米国民の賃金が上がり始めたら、だいぶ後になってようやく日本の金利が上がっていくかもしれない、ということです。おそらくそのタイムラグは半年から1年、もしかしたら3年後かもしれません。この点は、日本政府と日本銀行の対応によるところが大きいので、正直なところ明言はできません。

——現在米国の様子はどのようになっているのでしょうか。

現在の米国の実質賃金は、このところ年率換算で2.5%ぐらい上昇しており、それにつれて物価も上昇しています。ただ米国のFRB(連邦準備制度理事会)は物価上昇の目標を2.0%に置いていることから、実質賃金が2.5%上がっても差し引き0.5%ぐらいの上昇でしかない。米国民にとってはまだ賃金に不満足な状況です。日本と同様、米国も低賃金が長く続いてきたため、消費に対しては用心深くなっており、購買の積極性がさほど見られません。

そんな中、最近大きな変化が見られました。私が常に注目している「米求人労働移動調査(JOLTS)」という指標で、月間の求人数が604万4000件と、米国が調査を開始した2000年以降、過去最高の数値となったのです(2017年6月6日発表4月データより)。これは米国の人手不足が深刻化してきたことを意味します

一方で、実質の採用件数は505万人程度しかありません。この求人と採用の推移を通して見ていくと、両者の差が少しずつ開いているのです。これはとても興味深い現象です。

米国労働者の不満はもう沸点に達している

——求人数と採用件数の差にどんな関連があるのですか。

この数字の差が表す意味は、企業などの採用側に対して労働者が明らかに不満を表していることを示しています。簡単に言ってしまえば、「そんなに働いてほしいなら給料を上げてくれ。そうでなければほかの会社に行くよ。自分はもっと実力があるし、より良い条件で採用してくれる企業があるんだから」ということです。

米求人労働移動調査の中の項目のひとつに「自発的離職」というものがあります。これは言葉通り、「この会社にいるメリットがない」などの理由で自分から辞めていく人数です。これが現在300万人程度にまで達しているのです。雇用側にとってみれば、今のまま放っておけば社員はどんどん離職し、さらなる人手不足に悩まされることになります。その対策方法は、正社員の賃金を上げ、パートやアルバイトなどの非正規採用者を正規採用するしかありません。米国では今、企業が社員たちの賃上げや待遇改善に踏み切らざるをえないところまで追い詰められているわけです。

—— 一方、FRBも近年何度か利上げを実施していますね。

そうですね。米国は一昨年12月、去年の12月、今年3月、今年6月と4回の利上げを断行し、現在の政策金利は1.0~1.25%にやっと達しました。ただこれは、通過点に過ぎません。

リーマンショックを受けてグローバル経済は大打撃を受け、「張本人」である米国の金利は一気に転落し、ゼロ金利政策と量的緩和が実施されました。これが2008年のことです。そこから7年経った2015年にFRBはようやくゼロ金利政策を解除しました。いわゆる「出口戦略」を取ったわけです。それが最初の利上げです。ここからさらに3度の利上げを経て、1%台に戻ってきたのです。

米国ではITバブルの崩壊時にも政策金利は1%まで下がり、その後、1%から5.25%までかなり早いペースで連続して利上げを実施しました。過去にこうした経験をしているわけですから、それと同じことが起こると仮定するならば、今ようやくスタート地点の1%を超え、今後さらに早いペースで政策金利を上げていくと考えられます。

歴史は繰り返されますから、いずれインフレ率の上昇や景気の拡大は必ず到来し、いずれまた別の形で何らかのバブルが発生すると思います。今はこのプロセスが始まる入り口に立っているだけです。

米国企業が賃上げを決断し、国民の賃金の上昇率が3~4%ぐらいにまでなってきたところで、日本もようやく重い腰を上げて低金利の原因でもある「異次元緩和」を止め、「出口戦略」に向かう動きを取り始めるでしょう。おそらく米国の賃上げはそう遠い話ではなく、今年の終わりぐらいには如実に表面化してくると思われます。

ただ、ここで米国と日本の大きなタイムラグが生じますから、日本の金利はしばらく変動しないでしょう。最初に「金利の先行きは分からない」と不安をあおるようなことを述べましたが、まだ余裕を持っていて大丈夫。日本の金利はこれ以上、下がることは考えにくく、おそらく上昇に転じるでしょう。しかもタイムラグのおかげでまだ先のことになるでしょうから、今から焦る必要はありません。

——結局、固定金利と変動金利はどちらを選ぶのが賢い選択でしょうか?

これもよく尋ねられる質問ですが、「固定金利を選んでください」と回答しています。金融機関としては、いつまでも低金利で固定されるよりは、政策金利の変動で短期に上がっていく可能性のある変動金利にしたいのは当然です。ですが借りる側としては今が最低金利、底だと考えるなら「固定金利」が正解だと思います。

金利が低いときは借り手側に有利なので、借入可能額が大きく設定できます。つまり全体に占める自己資金が少なくても不動産が買えてしまうのです。つい背伸びもしたくなってしまいますが、これは大きな落とし穴なので注意してください。

日本の景気上昇は2020年が目標

——日本の金利上昇は具体的にいつ頃訪れるでしょうか。

ひとつの目標は3年後の2020年、東京五輪のあたりだと推測します。まず、日銀の黒田東彦総裁が、任期中にインフレ目標である2%の達成は困難だという旨の発言をしました。つまり残りの任期1年は大きく変化しないということです。その後の総裁が誰になるかは分かりませんし、次期総裁の手腕が発揮されたとしても、極端に大きな変化は現れないと推測できます。

日本は2020年に東京五輪を控えています。高度経済成長時代とは状況が違いますし、資金繰りなども含めて何かと問題を多く抱えてはいますが、建築やサービス関連は上向きになるでしょう。

五輪の翌年に景気が一旦悪化するのはどの五輪でも恒例ですが、実はロンドン五輪後の英国はあまり影響を受けませんでした。その理由は、景気が悪化することを織り込んであらかじめ「緊縮財政」を実施し、財政の調整に成功したからです。ただしその後、英国の景気は沈滞するのですが、それはまた別の話です。

ともかく、こうした実例がありますから、日本経済は五輪を経ても大きな景気の悪化には対応できるのではないかと期待しています

もうひとつ、興味深い現象があります。それは金利や不動産価値の持つ「遅効性」という特徴です。1990年代前後のバブル期を思い出してください。日経平均株価は89年の12月に大きく下落しました。しかし東京や大阪などの不動産に関してはその後も2年ほど上がり続けた後、下落したのです。金利や不動産価値は、このように株価とはすぐに連動しない遅効性を持っています。

——では日本の金利の上昇は2020年を過ぎても多少時間がかかるということですね。

日本においてはその通りだと思います。ただこの2020年という年は、東京五輪だけではなく、世界でもっと重要なことが起きるかもしれない年です。現在GDP(国民総生産)のトップ3はアメリカと中国と日本ですが、米国と中国にとってもひとつの分岐点となる可能性があるのです。

まず米国について。何かと話題のトランプ政権がいつまで続くか分かりませんが、おそらく長くて一期の4年。もしかしたら途中で辞任し、限定的な措置として副大統領が国を仕切ることになるでしょうが、2020年に正式な大統領選挙が実施され、新大統領が決定します。おそらく次に出て来る大統領はトランプ氏と違って、しっかりとした金融政策を示し、何らかの強烈な景気刺激の公約を打ち出すことになるでしょう。

一方の中国は2010年の胡錦濤首席時代から、10年間でGDPと国民所得を倍増させる計画を国是としています。当初は10%を超える大成長をしましたが、現在は6.5%ぐらい。経済成長率が下がったため「中国バブルははじけた」という人もいますが、最初の段階で大きく成長しているので、10年で平均すればおそらく7%以上の成長を達成することになるでしょう。

これはまさしく資産運用における「72の法則」(資産を倍増させるときの年利と年数の法則)にはまっており、このまま継続して年平均7.2%成長を10年続けられれば、GDPを倍増する目標は達成できます。逆にもし達成できなかったとしたら、中国共産党にとって大打撃となってしまいかねません。

2020年は、この二強にとって大きな意味がある年なのです。これに対して、もうひとつのGDP大国である日本はどうするか。ここが大きなポイントです。もし何らかの問題が両国の一方にでも起きることがあれば、グローバル経済のバランスが崩れることにもなりかねないため、日本も何らかの一大決断を迫られることになるでしょう。ここが最大の注目点かもしれません。

——何が起きるのでしょう。そして投資家はどう対処すればよいのでしょうか。

ちょっと驚かせてしまったかもしれませんが、おそらく米中両国はうまく目標を達成し、グローバル経済を混乱に陥れることはないと考えています。また日本はバブル崩壊に直撃した経験がありますから、日銀はそれなりに適切な対応をし、かつてのような経済の混乱を招くことはないと思われます。

その点から類推すると、これ以上、金利が下がることはなく、しばらく横ばいを続けてから上昇に入るでしょう。だから投資を目的として不動産投資をするなら、間違いなく底である今がチャンス。また金利の遅効性もありますから、投資先を検討する余裕も十分にあるはずです。

——安心しました。その後、どういう推移をたどると思われますか。

最近「資本主義は終わった」という声を耳にしますが、個人的には「資本主義は死んでいない」と考えています。だからこそ、いずれ賃金やインフレ率が上昇して景気の拡大や経済成長が訪れ、2020年に向けて株価は2万3000円~2万4000円を通過点に、2万5000円を超えるあたりに向かうだろうと予測しています。バブルの前例を考慮すれば、そこから株価は下がりますが、遅効性を持つ不動産や金利はその後も1~2年は上昇を続けるはずです。

こうした金利の動向が兆候としてはっきりと現れるポイントこそが、これまで述べた通り、米国の賃金上昇という一点です。それに伴って2020年に起きるであろう日米中の出来事をうまく乗り切ることができれば、その後、日本の金利は上昇していくでしょう。ということは、言い換えれば多少の上下はあったとしても、2020年過ぎまでは金利が大きく変動することはまずないと考えています。

田嶋智太郎プロフィール

慶応義塾大学を卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。独立後、金融・経済から企業経営戦略、生涯生活設計を中心に講演やTV解説、執筆活動、さらに投資家としてのアドバイスなどを行う。

「現代用語の基礎知識」の「貯蓄・運用」欄を担当。著書も多く、近著に「一週間で身につくはじめてのFX」(ナツメ社)、「上昇する米国経済に乗って儲ける法 (株高&ドル高 ダブルで殖やす)」(自由国民社)など多数。