写真© ookinate23-Fotolia

こんにちは。銀座第一法律事務所弁護士、鷲尾です。2016年10月6日、函館市のアパート2階の通路の床が抜け落ち、そこにいた函館中央署の警察官6人が約3メートル下に落ちて怪我を負ったという事件が報道されました。

なぜ6人もの警察官がそんなところにいたのかというと、アパートの住人が自殺を図ろうとしているとの通報を受け、警察官が駆け付けて自殺を思いとどまるよう説得していたというのです。

このニュースはネットで「ドリフのコントみたいだ」などと盛り上がったりしましたのでご存知の方も多いでしょう。

この物件、海辺の近くにあったようで、一部報道では通路の骨組みが腐食していた可能性があるとのことです。

今回は、こうした建物における事故によって他人に被害が及んでしまった場合に、建物を所有するオーナーにどのような民事上の責任が生じるかについて考えてみたいと思います。

建物のオーナーには建物・設備の安全性を保つ義務がある

まず、建物が賃貸物件である場合に、その建物の老朽化などによる修繕の義務は誰にあるかを確認しましょう。

賃貸人は、賃借人に対して、その使用方法に従って貸室を使用させる義務を負っていますので、必要な修繕を行う義務があります(民法601条)。

その修繕義務が及ぶ範囲は、必ずしも貸室そのものにとどまるわけではありません。賃貸人は、廊下やエントランスなど共用部分まで賃借人に貸しているわけではありませんが、賃借人が貸室を普通に使用するためにはそうした共用部分も利用せざるを得ません。

そのため、賃貸人がアパート全体を所有しており、各室を第三者に貸している場合には、貸室の使用と密接な関係にある共用部分についても適切に管理して賃借人に使用させなければならず、そうした共用部分についても必要な修繕を行う賃貸借契約上の義務があります

また、建築基準法でも、建築物の所有者、管理者、占有者は、建築物の敷地、構造及び建築設備を常に適法な状態に維持するよう努めなければならないとされています(建築基準法8条)。

賃貸人が当然に行うべき物件の管理や修繕を怠り、そのために事故が発生して他人に損害を与えてしまった場合には、賃貸人には過失が認められますので、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法415条または民法709条)。

たとえば、アパートの2階を借りていて外階段を利用していた賃借人から、その腐食が激しく上り下りの際に踏み板がガタガタしているから補修してほしいと言われていたのに放置していたところ、踏み板が外れて人が落下してケガをしたという場合には、明らかにオーナーには適切な修理を怠った過失があります。

したがって、賃借人が被った損害を賠償しなければなりません。

建物の所有者は土地工作物責任という無過失責任も負う

しかしたとえば、廊下の床が抜け落ちたがそれは工事業者の手抜き工事によるもので、賃貸人には手抜きを知る術がなかったという場合はどうでしょうか。

この場合には、手抜き工事を行った施工業者がその責任を負うべきで、工事を発注した賃貸人には過失が認められないのが普通でしょう。

しかし、民法はこうした場合でも建物の所有者に「土地工作物責任」という重い責任を課しています

これは、土地の上の工作物(建物や塀など)の設置または保存に瑕疵があることによって第三者に損害が生じたときは、第一次的にその建物等を実際に使用しているテナントなどの占有者が責任を負うのですが、占有者に過失がないときは第二次的にその所有者が責任を負うというものです。

「瑕疵」とは、工作物が通常備えているべき安全性を欠いていることをいいます。「設置の瑕疵」とは、工作物を設置した時点で発生している瑕疵をいい、「保存の瑕疵」とは、工作物を設置した時点では瑕疵がなかったがその後の保存中に老朽化等に伴い発生した瑕疵をいいます。

この工作物責任に基づく所有者の責任は無過失責任とされており、工作物の設置や保存の瑕疵につき過失がなくとも免責はされません。

したがって、廊下の床の抜け落ちの原因が工事業者の手抜き工事にあって所有者には過失が認められない場合でも、所有者は被害を被った第三者に対する損害賠償義務を免れないことになってしまうのです。

もっとも、他に責任を負う者がいるときはこれらの者に対して求償することができます(同条第3項)。

ですから、オーナーは被害を被った第三者に損害賠償を行ったうえで、これを手抜き工事を行った業者に求償して業者から支払いを受けることは可能です。しかし、その業者に資力がなければオーナーの持ち出しということにもなりかねないのです。

オーナーに損害賠償責任が認められる場合、その範囲は、抽象的にいえば事故に起因するといえる損害のうち相当な関連性を有するものです。

分かりにくいので、溶接工事の手抜きによって階段が崩落して人が落下し左足を負傷したという実際にあった事件を参考にしてみましょう。

この事件では、裁判所は、管理人(占有者)には過失が認められないので土地工作物責任に基づく占有者としての第一次的責任は認められないが、所有者は設置または管理に瑕疵がなくとも工作物責任を負うとして所有者の損害賠償責任を認めました。

そこで認められた「損害」の項目としては、治療のための医療費等はもちろんのこと、入院と療養のために勤務を休業したことによる休業補償、入通院慰謝料、後遺障害を負ったための後遺症慰謝料、弁護士費用などがあげられています。

つまり、とくに他人が死傷するような事故を惹き起こしてしまったような場合、オーナーは多額の損害賠償義務を負うことを覚悟しなければならないということです。

日頃からの安全確認、安全管理が重要

このように、建物など工作物の瑕疵によって事故が生じてしまうと、工作物の使用者(占有者)に過失が認められないときは所有者が過失の有無にかかわらず責任を負うことになります。しかもその損害賠償額は多額に及ぶこともあり得ます。

また、工作物の事故と言っても、外壁や看板の落下事故、エレベーターの事故など建物や設備自体に問題がある場合や積雪の屋根からの落下による事故など様々なものがあります。

そこで、そうした事故が起きないよう、日頃からしっかりと安全確認、安全管理を行い、異常が発見された場合は早急に改善することが求められます。とくに築年数が経過した建物は事故が発生する可能性が高まりますので、安全性確保のため安全対策のレベルを上げなければなりません。

具体的には、建築関連法規に従っていることはもちろんとして、定期的な点検や修繕の実施、危険な箇所があるときは立入りができないような防止措置、注意書等の掲示など建物の状況に応じて対応すべきです。万一に備えて施設賠償責任保険など保険加入も検討すべきでしょう。

結論

○冒頭に記載した事件で、オーナーに責任が追及される確率:ほぼ100%

冒頭の函館市の件で、床が抜けた原因がアパートの占有者にはない場合には、6人程度の人が乗ったくらいで床が抜けるのであれば通路に何らかの問題があったと考えざるを得ませんので、オーナーに責任が認められる可能性はほぼ100%と思われます。