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「訳あり物件」と聞くと、「心理的瑕疵物件」、いわゆる「事故物件」や「いわく付き物件」などと呼ばれる物件を真っ先に思い浮かべる人が多いのではないだろうか。

不動産取引において「訳あり」とされるのは、土地や建物に瑕疵(かし/キズのこと)がある「通常備えるべき品質・性能を欠いている」物件だ。つまり、「訳あり物件」は「心理的瑕疵物件」以外にも存在し、以下の4つのタイプがある。

・心理的瑕疵物件(事故物件など)

・環境的瑕疵物件(騒音や振動、悪臭を感じる物件、近くに嫌悪施設がある物件、迷惑住民の影響を受けている物件など)

・法的瑕疵物件(再建築不可物件、市街化調整区域や都市計画道路指定で建築制限がある物件、建築基準法に違反した物件など)

・物理的瑕疵物件(土地に土壌汚染や地盤沈下を抱える物件、建物に雨漏りやひび割れ、傾きを抱える物件など)

いずれも「キズ付き」の物件であるため、通常より安価に購入できる可能性が高い。そこで、著書に『訳あり物件の見抜き方』がある「訳あり物件アドバイザー」の南野真宏さんに話を聞いた。

心理的瑕疵物件は相場の1〜3割引。中には5割引の例外も?

物件内で自殺や他殺、孤独死など、人の死に絡む出来事が起きた物件を心理的瑕疵物件という。一般的には、孤独死、自殺、他殺の順に忌まわしさが増大すると考えられている。

昨今、核家族化が進んだことに伴い、目立つようになったのが孤独死だ。布団や畳に人型の体液がべっとりと染み付いた報道写真を目にしたことがある人もいるだろう。

自殺の手段として最も多いのは首吊りだ。死後、括約筋が緩み、重力のなすがまま地面に向かって体液(糞尿、唾液、涙など)が流れ出す。発見者のショックや周囲への波紋も大きいため、典型的な事故物件として扱われる。

さらに、残忍な殺人事件の現場ともなれば、忌わしさは増大する。たとえば、2006年に世間を震撼させた「新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件」の現場となったマンション。外資系企業に勤務するエリート夫のDVに苦しんでいた妻が、就寝中の夫をワインボトルで殴って殺害し、室内で遺体をバラバラにして離れた場所に遺棄した事件だが、その公判でも、現場となった高級マンションの住民が続々と退去し、その数は十数件にのぼったという事実が明らかになっている。

心理的瑕疵物件は相場の1〜3割引になるのが一般的。しかし、その過去の出来事の忌まわしさや発生場所、時間の経過、立地(人や情報の流れが速い都会かどうか)などの掛け合わせによって、異なってくるのが実情です」(南野さん)

売買物件でも、半額セールとなる物件は存在する。

「これは私が知る限りで一番インパクトのある物件ですが、栃木県の中古一戸建て物件の広告で、備考欄にこう記載されていました。『雨漏りあり、心理的瑕疵あり(賃貸時代に借主が庭で焼身自殺)、接道義務を果たしておらず違法建築状態でローン不可』。

複合要因ながら、160坪で780万円と激安でした。地方の物件は流動性が低く、周辺の記憶もなかなか消えないため、相場の半額以下になったのでしょう。もっとも一戸建ての場合、心理的瑕疵となる事実があったときは、建物を壊して更地にしてしまうケースが大多数。

マンションに関しては、賃貸に出して時間の経過とともに周囲の記憶が風化するのを待ち、売る場合は相場通りか若干安い程度になるので、心理的瑕疵を理由とした激安の売買物件というのはまず出ません

重金属や有機溶剤、農薬、油などの土壌汚染や埋設物(コンクリートやガラス、ドラム缶、廃材など)などの土地の問題、地盤沈下や雨漏り、ひび割れ、シロアリ、床下浸水、アスベストなどの建物の問題を抱えた物件を物理的瑕疵物件という。

「当然のことながら、それぞれの問題を除去する費用や修繕費用を考慮した価格で販売されます。物件が抱える事情によって、ケース・バイ・ケースであるため、◯割引という数字は、他の瑕疵物件と比べて出しづらいですね。

たとえば、建物のひび割れや雨漏り、シロアリ程度だと大した費用はかかりませんが、地盤沈下で傾いていたらジャッキで戻すのに500〜1000万円かかります。

埋設物も古い浄化マスが埋まっている程度なら30万円以内で撤去できますが、コンクリート柄や六価クロム、鉛など、何がどれだけ埋まっているかわからない場合は、大幅に割引く代わりに瑕疵担保責任の免責特約を結ぶケースもあります」(南野さん)

土壌汚染はどの程度生活に影響を及ぼすのだろうか。「今どき、井戸水で生活している人はほとんどいませんよね。汚染された土やその土で育った作物さえ口に入れなければ、害はないといえるのではないでしょうか。また、軽微な雨漏りやひび割れ程度なら、状況にもよりますが10〜20年は構造上大きな影響がないことも多いです。その分、購入金額や賃料が安くなれば、それらのデメリットを経済的なメリットでカバーしている、と考えることもできます」

法的瑕疵物件は「相場の5割引」も珍しくない

長期的に使用する物件かどうか、または将来的に転売する物件かどうか―。考え方や計画次第で、「購入もあり」と前向きに判断できるのが法的瑕疵物件ではないだろうか。

「計画道路」「建蔽率違反」「容積率違反」「市街化調整区域」「接道義務」などの瑕疵を有する法的瑕疵物件は、建て替えや将来の資産価値を考えない場合、購入または賃借で安く住めるお宝物件といえる。

「法的瑕疵物件の中でも問題になるのは、開発行為が原則認められない市街化調整区域内の物件や、接道義務違反で法的に再建築が不可能な物件です。相場の5割引、またはそれ以上割安になるケースも少なくありません

たとえば、市街化調整区域内の物件で、横浜駅まで30分圏内の私鉄と地下鉄が利用できる市内の一戸建て3LDKが、本来なら2000万円を下らないところ、1000万円を切る価格で売り出されている事例もあります

同じく、建築制限の対象となる建蔽率・容積率違反(オーバー)の建物も、将来の再建築時に同規模の建物を建てられないという欠点があります。昨今、買主の銀行融資が下りないことも多く、売却価格は下がる傾向にある、と知っておくと良いでしょう」(南野さん)

「超激安」「爆安」とも思える環境的瑕疵物件の具体的な例として南野さんが挙げてくれたのは、680万円で売り出された3LDKのマンションだ。人気の東急沿線(田園都市線)で渋谷から急行で約30分のところにある。本来なら1000万を切ることはないはずだ。

『米海軍厚木基地の航空機騒音』が告知事項とされているため、破格になっているといえます。ここまで激しい環境瑕疵はレアケースですが、最近では、近隣の騒音や振動、悪臭、日照不足も、法的な基準値を上回っていることを立証すれば認められる傾向があります。

具体的には、基準値を著しくオーバーしている場合は販売価格が1割程度下がるケースも見受けられます。また、近隣に暴力団事務所があったり、警察沙汰を繰り返すような迷惑住民がいたりする場合も同様に、1割程度の値引きが見られることも

ただ、環境的瑕疵物件の特徴として、受容限度には個人差があるため、他の瑕疵物件と比べると値引き幅は少なく、大幅な値引きがなされるのは、特殊なケースに限られることが多いです」

訳あり物件を「得する物件」に

「すべてにおいて完璧な物件」を見つけることは難しい。限られた予算の中で、物理的にも一切問題がなく、法的な制約を受けず、良好な周辺環境に恵まれ、忌まわしい過去も抱えない、完全無欠な物件と出会って購入に至るのはまれなケースといえる。

「そう考えると、物件の瑕疵を冷静に見極めた上で、相応の価格で購入・賃借し、経済的なメリットを享受しながら、訳あり物件と共存する道もあるのではないか、と私は思います。

たとえば、環境的瑕疵物件において、騒音や振動、悪臭、悪日照などの発生時間帯が自分の在宅時間外であれば、気になることはないですよね。自分にさほど影響がない環境瑕疵と引き換えに、それ以外は快適な住空間が安価で手に入るなら、あながち悪い条件とは言えないかもしれません。

心理的瑕疵物件についても、霊的なことや周囲の評判などが気にならなければ、単なる値引き物件ともいえます。人は誰でも、いつかどこかで生を終えるわけですから」

経済的なメリットを重視して、気の持ち方次第だと割り切れたり、それに対する有効な策を講じたりできるなら、訳あり物件は一転して「得する物件」になる。紹介した割引幅を参考に、訳あり物件を購入物件候補のひとつに加えても良いかもしれない。

南野真宏さんプロフィール

訳あり物件アドバイザー。1971年大阪府東大阪市生まれ。上智大学法学部法律学科卒。大学進学のタイミングで上京時、不動産屋に薦められるがまま、割高な半地下ワンルーム物件を借りてしまった苦い経験から宅建資格を取得。大学卒業後は公私で訳あり物件に遭遇し、調停・裁判を経験したことも。

仲介業者でない立場から、訳あり物件の知識と経験を伝える活動を始める。著書に『訳あり物件の見抜き方』などがある。

http://ameblo.jp/nooilmovement/