厚生労働省の2016年賃金構造基本統計調査によると、フルタイムで働く女性の平均賃金は月額24万4600円。3年連続で過去最高を更新したものの、男性の33万5200円と比較すると73%にとどまり、男女の賃金格差はいまだに大きい。

結婚や出産、介護による働き方の変化や年金不安などから、多くの女性が資産運用や投資に関心を持つ時代。新たな収入の「柱」として、不動産投資に興味を寄せる女性も多く、収益物件のマッチングサイト「楽待」では主婦の登録数が今年7月末時点で1993人と、2012年に比べて8倍以上に増加している。

「無理せず空いた時間を活用して収入の足しにしたい」「子供の教育資金や老後の生活費に充てたい」「規模を拡大して早期リタイアしたい」―。女性たちはそれぞれの目的、それぞれの方法で、日夜オーナー業に奮闘している。

「27歳までに1000万円貯める」

「父が図面を見ながら不動産会社の担当者と打ち合わせをしたり、新築工事の現場で職人さんにあいさつしたりするのに付いていくのが楽しくて、子どもながらに『他人に住まいを提供する』という仕事が面白そうだって思ったんです」

長く大家業をしていた父親の存在に加えて、大学時代の経験も不動産投資を志す大きなきっかけになった。就職活動に差しかかる頃、先輩に誘われて参加した学生向けのマネーセミナーをきっかけに、ビジネススクールに入会。株やFX、不動産など投資の仕組みを学ぶ中で、不労所得を得る生き方に大きな魅力を感じた。

将来的な物件購入を見据え、就職先は建築と不動産系の仕事に絞って探した。選んだのはリフォーム会社。営業系の仕事だったが、それほど規模の大きな会社ではなく、入社してすぐに現場監督を任された。工事現場でヘルメットをかぶり、年上の職人たちに指示を出す毎日。最初は冷たい視線に晒されたが、「絶対なめられたくない」と、女性の監督が敬遠しがちな夜間や休日も現場に顔を出していくうち、少しずつ仕事ぶりが認められるようになった。

「27歳までに1000万円を貯めてアパートを買う」という目標を立てた。「社歴が5年ないと金融機関に信用してもらえない」と聞いたことに加え、「30歳で独立」という目標に向けて3年前倒しした計画。「節約は嫌いなので、支出を削るよりも収入を増やすことを考えました」。大学時代のアルバイトで貯めた200万円ほどに加え、社会人1年目から給料のうち月10万円を全額、高利貸しに預けて資金を増やしていった。「今考えれば怖いもの知らずだったな、と思います。正直に言うと、激務すぎてお金を使う暇もなかったんですが…」

大学時代に入会したビジネススクールの流れで、投資や資産運用を学びながら経済的な自立を目指す女性グループ「富女子会」に入会。勉強会やセミナー、イベントなどに参加し、年齢の近い異業種の仲間たちと将来のビジョンを語り合った。「やっぱり1人だとモチベーションが下がりやすいし、少しお金がたまると『海外旅行に行きたい』とか思ってしまう。でも、同じような志を持った仲間が周りにいたから、目標に向かって気持ちを維持できました」

運命の物件に出会えない

計画通り、27歳で1000万円の自己資金が貯まり、アパート探しを始めた。仕事でつながりのあるゼネコンやデベロッパーの担当者から「このエリアはもう値崩れが始まっている」「ここなら将来も大丈夫」などと生の情報を得ながら、エリアは東京23区の城南・城西地区と横浜市・川崎市の一部に限定。「将来的に人口減少が進んでも賃貸需要があり、出口戦略を考えても有利なエリアを選びました」

物件は利回り7%以上、駅徒歩10分以内、築20年以内に絞り、「女性視点で住みやすいか」「男性が住んでも彼女を呼びやすいか」を重視して探した。「女性のメリットは物件の周りをウロウロしていてもそれほど怪しまれないこと」と、夜に駅からの道のりを歩きながら、街灯の数や人通りの多さなどを確認。「お風呂とトイレ、台所が綺麗で掃除しやすいかどうかもよくチェックしていました」

しかし、実際の物件探しは簡単ではなかった。土日はほぼ見学に費やし、仕事後の夜も活用したが、納得のいく物件は見つからない。「物件自体は問題ないけど、夜に隣の家から大音量で音楽が聞こえてくるとか、前のオーナーが高齢で手入れが全く行き届いていないとか…。どうしても『ここ』という物件に出会えなかったんです」

約1年にわたって100件以上見学しても購入できず、あきらめかけた時、知り合いの投資家から未公開物件を紹介された。横浜市鶴見区の菊名駅から徒歩10分、築7年の木造アパート。丘の上の静かな住宅街にあり、おしゃれな外観が目を引いた。物件価格は4000万円、ロフト付きワンルーム4室で、利回りは7.2%だった。

「直感的に『ここだ』って思ったんです。物件の前で『買う?』って言われた瞬間に即決しました。100件も見ていると、さすがに目が肥えてくるので、自信を持って決められました」

問題はどこで融資を受けるか。当時の年収は390万円だった。「ファイナンスの知識もなく、どこで、どうやってお金を借りればいいのか全然分からなかったんです」。そんな時、知り合いの投資家から、日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」の存在を聞いた。

女性、若者/シニア起業家支援資金

事業開始後おおむね7年以内の女性や35歳未満の若者、55歳以上のシニアを対象に、日本政策金融公庫が起業時の設備資金や運転資金を低利で融資する制度。融資限度額は7000万円(うち運転資金4800万円)。

 

「最初は公庫の存在自体知りませんでした。審査のために『創業計画書』というものを作らないといけないと聞いて、『何それ?』ってネットで調べて…」

創業計画書とは、いわば事業を開始するために必要なことを記したビジネスプラン。創業の動機や本人の経歴、必要な資金と調達方法、事業の見通しなどをまとめた書類で、融資を受けられるかどうかの大きなポイントになる。

「とにかく相手の『不安要素』を取り除くことを意識して書きました。あらかじめ質問を想定して、一つ一つ、相手が自分に感じるであろう懸念について、なるべく具体的な数字を用いて払拭するようにしました」。文面を細かく修正しては不動産会社の担当者に確認してもらうことを繰り返し、二人三脚で完成させた。「1人では絶対に無理だったと思います」

実際に提出した創業計画書

実際のプレゼンでは、修繕リスクについて「リフォーム会社に勤めていたので、知識もあるし業者も手配できます」と力を込めた。当時はすでに結婚していたが、「子どもができても仕事を続けるし、もっと物件を増やして不労所得だけで生活が回るようにしていくから大丈夫です」と必死に訴えた。「この部分だけは未確定要素が多くて難しかったんですが、『これから見ててよ』という気持ちで熱意を伝えました」

担当者の反応はドライだった。「何を言っても無反応で、こちらを見ずにパソコンをカチカチ打つだけ」。それでも心は折れなかった。豊富な営業経験が背中を押し、「自分は試されているんだから、おどおどしたら負けだ、と気合いを入れ直しました」。

営業の仕事で培った論理的な説明と、賃貸経営に対する熱い思いが実り、金利1.2%、返済期間15年で3000万円の融資を受けることができた。自己資金1000万円と合わせて、念願だったアパートが自分のものになった。

購入時は1室空室があったがすぐに埋まり、その後も入居状況は好調。空室が出ても1カ月たたずに埋まっていたが、今年は珍しく4月末に退去が発生した。「3カ月ほど空いたのでさすがに焦りました。管理会社に『外国人でも』と伝えたら、8月になって20代前半のイタリア人男性が入居してくれた。お洒落に敏感なイタリア人に選ばれたのはうれしかったです」。現在も満室が続いている。

今年1月には、幡ヶ谷駅から徒歩10分、築25年の店舗付きアパートも購入した。6750万円で、ノンバンクから金利2.5%で6000万円の融資を受けた。この2棟目も知人の投資家から紹介された未公開物件で、利回りは7%。「修繕履歴がしっかりしていて、外壁を塗り直したのも最近だったので、古くても大丈夫だと思いました」。退去が出た後のクロス張り替えや塗装の変更は、管理会社や工事業者任せにすることなく、自らの仕事の経験からデザインについて指示を出している。

別の区分1室を含めた月間家賃収入は70万円で、手残りは25万円。当面は現在の10倍、計100室まで規模を拡大することが目標だ。

順調にみえるオーナー業も、楽しいことばかりではない。「菊名の物件で、自分が購入する前から住んでいた20代の女性が引きこもり状態だったんです。どうやら部屋中を水浸しにしたまま生活していたみたいで…」。退去後に確認すると、フローリングはカビだらけ。水の跡は膝の高さぐらいまで残り、壁や床の裏側も全てカビているような悲惨な状況だった。

入居前

退去後

原状回復に70万円ほどを要したが、入居者本人は支払い能力がなく、家賃を払っていた保証人の母親に連絡した。しかし、「うちの娘は悪くないから、原状回復費は支払わない」の一点張り。「しまいには『首吊るぞ』と言い出して…困り果てました。いまだに管理会社が弁護士を通じてやりとりをしています」

それでも、「父親のオーナー業での苦労をさんざん見てきていたので、少々のことでは驚きません」と笑顔。「入居者に夜逃げされて裁判沙汰になったり、ペット禁止の部屋で大型犬3頭飼われてボロボロにされたり…。そんなことがあったから、自分がオーナー業を始める時も、最初から揉めごとは付きものだと覚悟していたんです。むしろ、今のところは思ったより平和だな、って」

雇用に対する危機感が頑張る動機に

仕事で忙しい日々を送りながら、それでも不動産投資を頑張るのには理由がある。「自分は祖父が台湾人で、在日3世なんです。昔から外国人コンプレックスが強くて、20代なら何とかなるけど、30代、40代になったら同じスペックの日本人女性に比べて雇用機会が少なくなるはずだと思っている。人と同じことをしていたら負ける、という危機感があるから、会社員を一生続けていくのは考えられないんです」

将来的な雇用に対する危機意識から、自らお金を生み出す仕組みを確立することの必要性を強く感じている。「その中で、自分が興味を持って楽しそうだな、と思えたのが不動産。他の投資と比べてローリスク・ローリターンだし、あまり時間に縛られて生きたくない、という自分の考え方にも合っています」

甘い世界ではない

不動産投資を続ける中で、収入以外のメリットも感じている。「単純に、オーナー業はすごく楽しいです。DIYが好きなので、『ここを綺麗にしたら入居者が喜んでくれるかな』とか考えるのがワクワクする」。ごみ集積庫を新調したり、ネームプレートをお洒落に変えたりと、楽しみながら賃貸経営に取り組んでいる。

物件購入を検討している若い女性たちには「本を読んで分かったつもりになっても、やってみないと分からないことは本当に多いので、まずはやってみることが大事だと思います」とエールを送る。一方で、「甘い世界ではないので、自分に合った投資スタイルを確立することが必要だと感じます。女性は長期的な視点で物事を考えることが不得意なケースが多いんですが、出口を意識することは本当に大切。学校や会社では資産運用については教えてもらえないし、マニュアルもないので、経験者から学び取る姿勢が重要だと実感しています」

夫とは大学時代からの付き合い。「ずっと『将来お金持ちになる』と言っていたんですが、真に受けていなかったので、最初に『1000万円でアパートを買う』と伝えた時は本当に驚いていました」。それでも、「いいじゃん」と背中を押してくれたことに感謝している。今では、物件の清掃や草取りなどは2人の共同作業。「私よりそういうことが得意なので、ほとんど主人がやってくれているんです」

現在も、新たな物件探しに忙しい日々を送っている。「自分は経済的に主人に依存したくなくて、ともに支え合う関係性がベストだと思っている。それに、子どもができた時にお金のことでいろんなことを我慢させたくない。働くことは好きだけど、それ以外にも収入があれば、気持ちにも余裕が出て、生活が充実するはずだって信じています」

(楽待新聞編集部 金澤徹)