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私は住宅業界に長く携わってきました。一般の現場の職人、工務店から業界最大手のハウスメーカーまで一通り経験し、良い面も悪い面もたくさん見てきました。
その結果、言える事。
「大手なら大丈夫!」というのは幻想にすぎないという事。
確かに、零細企業より大手の方が何かと安心な事が多いかもしれません。最近、賃貸業界で問題になっているのが「サブリース」。一括借上げで「任せておけば安心」という事で、高額な借入をしてアパートを建てたオーナーさんは多いはず。
私も、どんなものかと一括借上げを試した事がありますが、結果は「良くも悪くも大変勉強になった!」と言う事です(笑)。今はもう解約しています。
今回は一括借上げについて執筆したいと思います。
本当に任せて安泰なのか
サブリースは悪いシステムだとは思いません。しかし、「空室リスク」「トラブルリスク」の回避を目的だけに利用するのであれば、これが取り返しのつかない最大のリスクになります。
ポイントは、その市場においての需要と供給のバランス。そしてサブリースの契約内容です。
賃貸需要のあるエリアで、オーナーに有利な条件で、自身の手間と空室リスクを最低限に減らすのであればこれは大いにメリットがあります。これをきっちり把握したうえでサブリースを利用するのなら、最高のオーナーライフが待っているでしょう。
仮に何らかの要因でサブリースが解約になっても、別のサブリース業者にスムーズに移管できるし、一般管理や自主管理になったとしても安心です。サラリーマン時代に資産運用や相続対策で建てたアパートを、定年退職と同時に賃貸事業にシフトして現役として活躍するなんて、とても将来が楽しみなお話ですよね。
これが、業者主導で業者の数字の為に建てられ、市場の数字をおろそかにされ、それを知らないでいたらどうでしょう。
当然ながら業者の思うままに運用され、ツケはオーナーのところにきます。
何故なら、ご存知の方も多いかと思いますが一括借上げする会社が大手であっても、賃貸借契約は一般の方と同じ形態になるため、オーナー側が不利になってしまう場合が多い。
築年数が浅く入居に苦戦しない間にしっかりと利益を確保し、更新時には自身がまた損をしないような借上げ家賃を提示してきます。もし、条件が折り合わないようであれば更新しなければいい。
借上げ業者は数字を折り込んでいるので、損はしません。借上げ業者も営利目的なので、そのあたりは割り切っています。
早速、私の事例を紹介しましょう。私は業界大手のサブリース会社で契約しているオーナーから物件を買いました。特にサブリースを必要としないエリアでしたが、手間を省きたいという事と勉強の意味で、前オーナーと同条件で使ってみる事にしたんですね。
物件の条件は以下の通りです。
間取り |
1K×32室 |
構造 |
RC造4階建 |
査定家賃 |
140万円/月 |
借上げ家賃 |
120万/月(サブリースの条件は、査定家賃の約15%が借上げフィー) |
更新 |
2年 |
管理手数料 |
3万円/月 |
敷金、礼金、共益費はもちろんサブリース会社の収益になります。入退去に伴う修繕やその他で発生した費用はオーナー負担で、借上げ家賃から相殺されます。
借上げ業者負担で対応する業務は以下になります。
・日常清掃(共用部の清掃 月4回)
・定期清掃(共用部の高圧洗浄 年2回)
・貯水槽、給排水設備の保守点検
・消防点検(年2回)
・共用部等の電気料金
・建物定期巡回
上記を入居者から集めた共益費で賄っています。
共益費の概算は32室×3000円=9万6000/月(115万2000円/年)
実際にこの条件で、しばらくの間運営してみました。私はすべてお任せで、毎月通帳を見れば良いだけという、まさに不労所得をイメージしていたのですが…。結果は全く期待に背くものとなりました(苦笑)。
まず、設備関係などのトラブル発生時。当然ながら、故障ともなれば費用が発生します。その費用についてオーナーの私の許可を得なければなりません。それは当然です。その流れのワンフレーズをご紹介しましょう。
○トラブル発生
<着信>
借上げ業者「301号室で給湯器の不具合がありましたので、費用発生の見込みがありますが対応させて頂いてもよろしいでしょうか?」
私「もちろんです。お手数をお掛けしますが宜しくお願いいたします!」
<着信>
下請け会社「305号室の給湯器の不具合の件ですが、生産完了品の可能性がありますので、場合によっては交換の対応になりますがよろしいでしょうか?」
私「305号室? 私は301号室と聞いていますが…」
下請け会社「おかしいですね…。再度確認します」
私「……」
<着信>
孫請け会社「305号室の給湯器の故障の件ですが、入居者は特に異常がないと言っていますので大丈夫かと思います」
私「すみません、ほんとに305号室で大丈夫でした? 最初、301号室で連絡が入って確認すると言っていましたが…」
孫請け会社「そうなんですか? 再度確認します」
私「……」
<着信>
孫請け会社「確認しましたら先ほどの件は301号室の誤りでした。早急に対応します!」
私「……(怒)」
これがトラブル発生した時の1フレーズです。たまたま情報伝達のミスで発生したものであれば良かったのですが、その後、類似のトラブルが毎回発生したのです(苦笑)。その都度、色々な業者から電話が頻繁に入り、さすがの私も困惑してしまいましたね。
国内でも有数の大手借上げ業者なのですが、借上げ業者の社内システムが下請け、孫請けへ丸投げするシステムになってるんですね。借上げで抱えている案件が多く、こなし切れていない。
情報伝達が連想ゲームのようになっているので、伝える側がしっかり把握してないと本来の情報が全然違うものになってしまい、現場ではバタバタのやっつけ仕事になってしまう可能性が高くなります。
オーナーが一括借上げ業者に手数料を払って委託し、安心を買っているのに、借上げ業者が丸投げシステムを構築し、手間いらずで利益を上げてしまっている。その複雑なシステムの反動でオーナーにしわ寄せが…。
オーナーが払った手数料で借上げ業者の手間を省き、利益に貢献してしまっているので本末転倒です。楽をさせて頂かなきゃいけないのは私なんですけどね(苦笑)。
結果、入居者に迷惑がかかり、話が大きくなり、逸失利益等請求を受けたり、本来かからない費用もかかってしまう。この費用は知らずとオーナーへ跳ね返ってきてしまうんですね。
何故なら、現場の事が分からないので、かかった分だけオーナーに請求されてしまう。そして、支払ってしまう。私は業界にいたので、そのあたりの動きがよく見えるのです。皆さんも、このあたりの実態を把握されたうえで、利用するか否かを判断してくださいね。
>>安藤さんが『大家さん謝恩祭』キャンペーンを活用するなら?
この連載について
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57
物件のために払ったお金が、使われず業者の懐に
2017.10.20
56
「不労所得」にはほど遠かったサブリース契約
2017.9.16
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